糖尿病/糖尿病対策の生活・運動療法

グリセミック指数(GI)と糖尿病食事療法

糖尿病と診断されて最初に学ぶのは、たくさん食べると血糖値が高くなるということです。何を食べても血糖が高くなるので途方に暮れた人もいるでしょう。しかし、食後高血糖の直接の原因は、ほとんどが糖質(消化吸収できる炭水化物)によるものです。それ故、糖質をあらかじめ決めた量に守ろうとするのがカーブカウンティング(糖質管理食)の手法です。では、どの糖質食品でも同じように量に比例して血糖が上がるのでしょうか?

執筆者:河合 勝幸

地中海の朝食たっぷりの野菜サラダと全粒粉パンが低GI食にします。(c)KAWAI katsuyuki

地中海の朝食
たっぷりの野菜サラダと全粒粉パンが低GI食にします。
(c)KAWAI katsuyuki

糖尿病と診断されて最初に学ぶのは、たくさん食べると血糖値が高くなるということです。何を食べても血糖が高くなるので途方に暮れた人もいるでしょう。しかし、食後高血糖の直接の原因は、ほとんどが糖質(消化吸収できる炭水化物)によるものです。それ故、食事の糖質をグラム単位でカウントして、糖質をあらかじめ決めた量に守ろうとするのがカーブカウンティング(糖質管理食)の手法です。

 
 では、どの糖質食品でも同じように量に比例して血糖が上がるのでしょうか?実はそうではありませんでした。これを科学的に調べようとしたのがグリセミック指数です。


グリセミック指数の低い食品はすべて高食物繊維?

前記事の「食べる順番ダイエット」と糖尿病食事療法を書いている時、食物繊維の効果とグリセミック指数を混同している医療従事者がかなりいたので気になりました。この2つの効果は厳密には区別できませんが同じではありません。コンセプトは別なのです。

食事の糖質の量と、体が分泌できるインスリン/あるいは注射するインスリンのバランスが食後血糖値に最も影響を与えるのは明らかですが、糖質食品の種類や加工度、調理法、食べ方も食後血糖値に関与します。この糖質食品の「質」を科学するグリセミック指数の概略と、その賛否両論を紹介しましょう。


グリセミック指数(GI)の発見

米国でも1980年までは糖尿病患者の炭水化物食品の摂取管理は食品交換表を使っていました。つまり、量の管理です。トロント大学(カナダ)の科学者David Jenkinsがいろいろな炭水化物食品を食べた後の体の血糖値変化に興味を持ち、ごくありふれた食品62品の血糖反応を「Glycemic Index」として臨床栄養学の専門誌AJCN(米)に発表したの1981年のことです。栄養学者も医師も患者も、初めて耳にする言葉でした。

糖質、つまり消化吸収できる炭水化物を50g含む食品を健常者に食べてもらって、2時間の血糖値の変化を折れ線グラフにして、同量のブドウ糖を摂取した時のグラフと照合しました。各食品の折れ線グラフの面積を吸収が最も速い、つまりピークが最も高くなるブドウ糖の面積と比較したのです。こうするとブドウ糖を100とする、各食品の血糖上昇の割合、つまりグリセミック指数(以下GI)が0~100で表わせます。50gのブドウ糖を100とすると、健常者の平均は精製小麦粉で作った白いバゲット(フランスパン)のGIは95、リンゴは39でした。日常生活で米飯とリンゴの糖質を同じ20gに揃えても、食後の血糖上昇の曲線は異なるのです。

このように低GI食品が食後2時間の血糖値上昇を抑えるのなら、必要とするインスリンも比例して減るのでインスリン不足の2型糖尿病患者には願ってもない話です。当初は大いに期待されました。しかし、GI発見から30年以上たった今日でも、意外とGI食は一部の団体を除くとそれ程熱心には糖尿病患者に勧められていないのです。なぜでしょうか?


GIの信奉者と懐疑派

オーストラリアやカナダ、英国などのある大学や団体は、低GI食を糖尿病食に大いに推薦しているのですが、日本をはじめ、各国の糖尿病学会はあまり乗り気ではないようです。GIの信奉者も懐疑派も1981年のD.Jenkinsの発表以来これが議論の的になっていることだけは認めていますが……。D.Jenkinsは糖質食品の摂食後の血糖反応が食品によって異なることを発見しました。糖質食品の量だけでなく、質にも注意することで低GI食は糖尿病患者の血糖ピークをなだらかにすることが期待されたのです。

しかし、目立った成果が出ないままに一時は話題性がなくなっていたのですが、減量のために糖質食品を目の敵にして肉などの美食を好きなだけ食べていい?!というアトキンスダイエットのような糖質を極端に減らす通称低インスリンダイエットにGIが不健康という非難を外す隠れみのに利用されて問題がそれてしまいました。パンや甘味は駄目だけど野菜は少量ならよしとされました。野菜は低GIの糖質食品のグループなのです。


グリセミック(血糖)ロード(負荷)の考え方

多くのGI研究者はGIの利用だけでは、それ程糖尿病コントロールに役に立たない事を知っています。低GI食品でも食べ過ぎれば高血糖になりますね!やはり糖質の総量規制が必要なのです。

そこで料理に使用する各食品の糖質量(グラム単位)にGIを掛け算した数値をグリセミックロード(血糖負荷)とする方法が考えられました。これはハーバード大学公衆衛生大学院などで応用され、精白穀物の真っ白いパンなどを好んで食べることが血糖負荷を高めて肥満や2型糖尿病のリスクを高くすることが証明されました。

グリセミックロードは食事の糖質の質と量をを加味した、負荷を表わす数値(単位はない)です。GIの高いマッシュポテトとメロンを1カップずつ食べると、当然ながらマッシュポテトの方が血糖値が高くなります。マッシュポテトにはより多くの糖質(グラム単位)が含まれているからです。ただし、このグリセミックロードを実際に糖尿病食事療法に導入できるかどうかは不明です。

疫学には有用でも、糖尿病患者の日常のコントロール目標には役に立ちません。


GI擁護派の主張

低GI食品を選んで、その糖質をカウントすることで血糖上昇を抑えることが出来るとGI信奉者は力説します。25gの糖質を含むベークドポテトとスパゲッティでは食後血糖に与える影響は3倍も違う!とシドニー大学(オーストラリア)のJennie Brand-Miller教授は言います。このGI論者のカリスマ教授は、彼女自身の体でこれを実験したそうです。

もう一つの利点はおおむね低GI食品はヘルシーだという主張です。低GI食品はフルーツや野菜、全粒穀物、パスタ、乳製品などですから一見説得力がありますが、加工食品で低GIをうたうチョコレートやスナックはとてもヘルシーとは言えません。GIが低いのは高脂肪(!)の故ですから。この問題については「アメリカでは、あのダイエットが再ブーム?」で詳しく説明してあります。この記事にはGIの問題点も取り上げていますからご参考に。


GI懐疑派の主張

GIの懐疑派は根本的に欠陥があると考えています。食事はいろいろな材料で出来ていますから、私達は単品のニンジンだけを食べることはありません。また、GIはとても個人差が大きいのです。同じ人でも激しい運動で肝臓のグリコーゲンが消費されていれば、何を食べてもその補充に回りますから血糖値は上がりませんし、そもそも健常者では高GI食でもほんの少し血糖値が上がるだけです。そしてGIを計測する被験者に糖尿病患者が参加したこともありません。百人百様の糖尿病患者の血糖反応からGIを計測するのは不可能です。

また、本来のGIは食物繊維とは別の観点から見たものですが、発表された低GI食でA1Cが0.2~0.5下がったという論文は、高食物繊維食品と低GI食品が混ぜこぜになっています。

どうもGIはあいまいさが残るのでサイエンスとは言い切れない部分があります。そう言えば、確かに食品成分表を使った糖質制限食だって実際の糖質量ではありませんから正確なサイエンスではありませんね。カーブカウントだって目安にしかなりませんから。


GIも使い方次第で……

食品別のGIリストは有りすぎる程在りますが、各国各様の、もともと品質も季節も味も違う同じ名前の食材で、体格も料理の好みも異なる人達がそれぞれの条件で測ったものなので、とても紹介することは出来ません。ですからGIの細かい数値は無視して高・中・低ぐらいの判断でいいと思います。日本では白米ご飯の血糖上昇を100として、83以上を高GI、65~82を中GI、64以下を低GIとしています。

一つの考え方として、食事に低GI食品を少なくとも一品加える努力をするといいでしょう。代表的なのは野菜です。まるで食べる順番療法みたいですね!? 茹でたてのポテトのGIは75ですが、冷めると55に下がります。ポテトサラダは冷めたいポテトと酢、オイル、他の野菜を加えて作りますから、ポテトが好きな人にはお薦めです。酢やオイルを加えると腸の動きが抑えられて更にGIが低くなるのです。

たっぷりの野菜(デンプン食品は除いて)とフルーツ、全粒穀物、低脂肪乳製品、豆類、魚、脂肪の少ない肉を食事計画のコンセプトにすれば、そのままでヘルシー食ですし、とりも直さず低GI食です。私がこの地中海型食生活を勧めるのには理由があるのです。


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