食前のタパスでも、オリーブオイルと野菜たっぷりでインクレチン効果を期待しよう。(c)KAWAi Katsuyuki

食前のタパスでも、オリーブオイルと野菜たっぷりでインクレチン効果を期待しよう。
(c)KAWAi Katsuyuki

10年も前から今井佐恵子・大阪府立大学教授らが提唱してきた2型糖尿病の「食べる順番療法」が、いつの間にか目新しい、我慢なしの減量ダイエット法としてマスコミに取り上げられてしまいました。かつての「低インスリンダイエット」のブームで、根拠のないグリセミック指数を流布されて混乱を招いた事件を思いだしますが、今回も「インスリン」が問題になりますから、その二の舞を演じてはいけません。

今井教授らの論文を読むかぎり、一定の条件の下では血糖コントロールに確かに効果があるようですが、それはそれとして、日本の食習慣の中で初めに100g位の野菜だけを時間を掛けてよくかんで食べて、次に主菜のみを食べて、最後にご飯のような主食だけを黙々とかみしめるというのは、かなり食事の生理と楽しみに反する異常な行為です。

ところが、よく考えてみると「柔軟な菜食…フレキシタリアンも糖尿病食におすすめ!」で自己紹介したように、私は数十年前から野菜主体の食事ですから、最初から食べる順番療法のようなものでした。一つだけ違うのは、私は「主食」という概念を持っていません。ご飯やパンは料理をおいしく食べるために頂きますから、もともと少量なのです。そして、日常の料理のコンセプトは、健康な食事としてユネスコの無形文化遺産の第1号として選ばれた伝統ある「地中海料理」が主ですから、あやふやなところはありません。季節折々の日本らしい和食や中華料理なども楽しんでいます。この食生活で35年以上セルフコントロールが出来ている実績もあります。ヘルシーな地中海料理はベジタブル・ファーストの完成された、洗練されたスタイルでもあるのです。

後ほど、スペインで指導されている糖尿病患者向けのメニュー構成を紹介しますが、まずは「食べる順番療法」で血糖上昇が抑えられる理由を考えてみましょう。

どのように「食べる順番療法」は食後血糖上昇を抑えるのか?

今井佐恵子教授らの食べる順番療法は(独)農畜産業振興機構の「野菜から食べる"食べる順番"の効果」でもその科学的根拠が解説されていますが、私がこの話を初めて新聞で読んだ時に、まず思い浮べたのはインクレチン効果でした。「改めて、インクレチンとは?」で解説したとおり、食後の血糖上昇をコントロールしているインスリンは、50%が小腸から分泌されるGLP-1によってベータ細胞から分泌されるもので、残りの50%が上昇した血糖値に反応してベータ細胞から分泌されるインスリンと考えられています。2型糖尿病になるとこのインクレチンの寄与率が10~20%に鈍化してしまいます。ですから、「肥満症手術で、2型糖尿病が「治る」理由」で説明したように2型糖尿病は腸の障害に起因するのでは?とまで言われているのですが、GLP-1の分泌を刺激するのはブドウ糖だけでなく、オリーブオイルやアミノ酸などが知られています。

食事をして大量の栄養物が体内に入ったときに、生体内部の恒常性(ホメオスタシス)を維持するのは簡単なことではありません。そのため体はいろいろな備えを用意していて、まず腸のセンサー細胞が直接に食物をしらべます。腸に糖質やタンパク質、脂質が到来すると、腸のセンサー細胞(GLP-1を放出するL細胞もその一つ)がそれを感知していろいろなホルモンを血中に放出して腸の運動を促したり緩めたり、消化液を放出させたりします。たとえばGLP-1が膵臓に到達すると、栄養物到来のアラームになってインスリンの分泌を命令します。つまり、血糖値の上昇にそなえて事前に引き下げを開始するのです。体は食事を始めて直ぐに、強くて短かいフラッシュのようなインスリン分泌を行うのですが、これはGLP-1のようなインクレチンの効果と考えられています。そのうちに腸から吸収されたブドウ糖やアミノ酸(特にアルギニン)が血液中に現われてきて、ベータ細胞のような膵島細胞はじかに毛細血管と接しているので、素早く血糖上昇を検知して改めてインスリンが分泌されます。健常者ではこうして二段構えで食後の血糖値がめったに140mg/dlを超えることがないようにコントロールされています。2型糖尿病では初期アラームのインクレチン効果が上記のように弱まっているので、ダラダラとしたインスリン分泌のため血糖値が高止りしてしまいます。いったん200mg/dl以上の高血糖になると、ベータ細胞は過度のシグナルを裂けるためにセンサー感度を落すので、逆にインスリン分泌が減ります。このため随時血糖値が200mg/dl以上になってしまうのです。

今井教授らの研究の一つに、15人の早朝空腹時血糖値が112~118mg/dl、食事療法のみの軽い2型糖尿病患者に、早朝空腹の状態で試験食(米飯150gと野菜サラダ90g)を15分かけて食べてもらったものがあります。野菜サラダはトマトとキャベツをオリーブオイルドレッシングで和えたものです。試験食で野菜を先にしてご飯を後にしたり、その逆も行った結果、野菜サラダを先に食べたほうが明らかに食後30分の血糖値が20%も低く、血清インスリン濃度もそれに比例して低かったのです。

野菜に含まれる食物繊維が消化吸収を遅らせることは容易に考えられますが、それならばご飯と野菜サラダを交互に食べたって同じようなものでしょう。この軽度の2型糖尿病者の事例では、食物繊維もオリーブオイルもGLP-1分泌を高めるという論文がありますので、インクレチン効果がインスリンの分泌と作用をより正常にしたと考えるのが良いのではないでしょうか。

今井教授らの調査に、食べる順番療法がヘモグロビンA1Cに与える効果を測ったものがあります。2型糖尿病患者333人を2群に分けて、毎月、一方は従来どおりの診療、すなわち専門医の診察、血液検査を行い、栄養指導は実施しない対照群としました。もう一方は通常の診察・検査に加えて「食べる順番療法」、つまり、(1) 野菜を先に食べる、(2) 低グリセミック食品を選ぶ、(3) ウォーキングの指導を個別に毎月管理栄養士が行いました。

その結果、食べる順番療法のグループは2年半にわたってA1Cが対照群と比べて平均0.5%強も低下したのですが、この試験は「食べる順番療法」の一方のみに管理栄養士が毎月、食事内容の指導からウォーキングまで生活習慣の改善と励ましまで関与したようなので、あまりにも交絡因子が多く、とても「食べる順番療法」のみの効果とは言い切れないと思いました。私達は毎日、体重計に乗るだけで減量できますし、血糖自己測定をするだけでA1Cは0.5ポイント位は下りますから学習効果は無視できないのです。

毎日500gの野菜を食べるよう指導されるスペインの糖尿病患者

ユネスコの無形文化遺産の第1号になった「地中海料理」はメタボリックシンドロームやアルツハイマー病のリスクも低下させる健康食としても知られています。 地中海沿岸は多くの野菜の原産地ですから、東は中近東、南はアフリカ大陸、西はスペインやモロッコ、北はフランス、イタリア、ギリシャなどから、気候の地域差、季節差に応じて実に豊富な野菜と果物が地中海諸国を行き来しています。地中海料理は前菜や"一の皿"で野菜料理の数々がそれは見事にメニューに載っていますから、野菜から食事を始めるのは当たり前のことなのです。

スペインの糖尿病患者向けのメニュー例

■ 朝食:
  • 200ccの無脂肪乳あるいは同等のヨーグルト
  • パン40g
  • ヨークハム(あるいは生ハム)25g
■ メリエンダ(朝食が早く昼食が遅いので、おやつをとる習慣がある):
  • 朝の1/2の無脂肪乳(あるいは無脂肪ヨーグルト)
■ 昼食(一日のメイン):
  • 150gのポテト(あるいは同量の炭水化物を含む60gの豆、45gの米あるいはパスタ、60gのパン、180gのグリーンピースあるいはソラマメ、270gのコーン 等)
  • 250gの野菜
  • 100gの肉
  • 20gのパン(50gのポテト、15gの米あるいはパスタ、20gの豆類)
  • 125gのフルーツ
■ 夕食:
  • 100gのポテト(あるいは同等の炭水化物量の豆、米、パスタ、パンなど)
  • 250gの野菜
  • 150gの魚
  • 125gのフルーツ
いかがでしょうか?たっぷりの野菜と、とても主食とは言えない控え目な糖質食品であることがお分りになるでしょう。実は「主食」という言葉は欧米のような先進国にはないのです。だから食事の最後にパンや米飯だけを食べるという「食べる順番ダイエット」は、かなり奇異に感じられるでしょうね。


【編集部からのお知らせ】
All Aboutで家計に関するアンケートを実施中です!(抽選でAmazonギフト券1000円分を3名様にプレゼント)
アンケートはコチラのリンクから回答をお願いいたします(回答期限は2020年9月29日まで)

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項