憂鬱な五月病を吹き飛ばすジャズ3選
転勤や新入社、新入学など、はりきっていた四月が終わり、五月に入ると、ようやく心に余裕ができてきます。同時に何もかも新鮮だった当初の感覚にも慣れてしまい、毎日のことにあまり興味が持てなくなってしまうのもこの時期です。そのうちいつの間にかやる気まで失せてしまい、俗に言う五月病にかかってしまう事も……。それは、新しい生活リズムが二十一日間を経て、習慣化したことによるもの。新しい刺激を与えなければ、興味が長続きしません。今回はちょっと趣向を変え、とにかく大きな音で鳴らしているジャズを聴いて、脳に刺激を与えて活性化させ、五月病を吹っ飛ばしましょう!
サックス奏者 ジェームス・カーター 「ジュラシック・クラシックス」より「テイク・ジ・Aトレイン」(A列車で行こう)
Jurassic Classics
ピッツバーグから出てきたビリーが、デュークに会いに行くならAトレインを使ったほうが良いとアドバイスを受けたという内容がそのまま歌詞になっています。
Aトレインとは地下鉄のこと。それを踏まえてこのサックス奏者ジェームス・カーターの演奏を聴いてみましょう。きっと、出だしからまさに地下鉄の電車のように吠えるジェームスのサックスの音に驚いてしまうことでしょう。
猛スピードで唸りをあげながら疾走する地下鉄。まさにその地下鉄のように大音量でテナーサックスを鳴らし切った、エネルギッシュな怪演と言えます。聴き終えると、ある種のカタストロフィーに似た爽快感に包まれることでしょう。
テナーに限らず、色々なサックスをフルヴォリュームで鳴らすジェームス・カーターは、この時、二十五歳。ある意味、ミュージシャンとしても、そして男としても自分に一番自信が持てる時期とも言えます。
その自信に溢れた大音量のジェームスの演奏を聴いていると、カラオケなどで大声で歌うのと同じようにスカッとすること請合いです。
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ピアノ奏者 セシル・テイラー 「ソロ」より
「ファースト・レイヤーパート・オン・インデント」
Solo
当時はLPレコードの時代。LPレコードは表と裏でA面、B面に分かれていて、大体片面二十分くらいのものです。そのLPレコードを当時何回となくターンテーブルに乗せ挑戦しましたが、一度としてどちらの面も、最後まで聴き通すことができなかったというものです。
何回聴いても、すぐに不安感や言葉にできない気持ちの悪さに襲われます。そしてしまいには正体不明の恐怖感にさえとらわれ、まるでホラー映画から目をそらすかのように、レコードの針をあげてしまったのです。
それから三十年以上たった今、改めて聴きなおしてみると、なんと不思議なことに、当時は悪魔の騒音にも思えた演奏が、心地よく響いてくるではないですか。
未成年の私の脳が拒んだこの演奏は、いわゆる調性の無いフリーフォームにより、セシル特有の上昇下降を繰り返す音の塊によって作られています。その塊がつづれ織りのように積み重なって、アルバム全四曲を通して一枚のタペストリーのような世界を形作っています。
当時は全く分からなかった、セシル本人の口から出た「デューク・エリントンとセロニアス・モンクからの影響」を今は容易に感じとることができます。
特に四曲目の最終曲「ファースト・レイヤーパート・オン・インデント」ではその傾向が顕著で、1:34~1:44までの十秒間にセロニアスの楽曲「ブリリアント・コーナーズ」のモチーフが顔をだします。そしてその事により、この「ソロ」のテーマが、セシルが常々自身の言葉で表しているような「エリントンとモンクの展開」なのだということが分かるようになっています。
普通ではない調性の無い世界における、頼るものがない不安感。居心地の悪さを強く感じつつも、それだからこその絶妙なバランスと深み。
全てではないにしろ、セシルの鬼才を考えることではなく、感じることができるようになったのかもしれません。二十代の頃にはむしろ苦手だったお酒が、今や無くてはならないものになったのに似ているようです。
この問題の「名盤・迷盤」ですが、長く廃盤になっており、中々手に入りにくいアルバムでしたが、今やダウンロードで安価に手に入ります。ぜひ皆さん自身の耳でセシルの独創的なソロの世界を試してみることをおススメします。
非日常的なピアノの音色が、刺激になって、五月病などはどこかへ行ってしまうこと請合います。
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ピアノ奏者&ビッグバンドリーダー カウント・ベイシー
「アトミック・ベイシー」より「レッドバンクより来た男」
Atomic Basie
そういう意味ではこのピアノ奏者カウント・ベイシーが率いるカウント・ベイシー楽団の「アトミック・ベイシー」の一曲目「レッドバンクより来た男」は、ダイナミズムを感じる最高の例と言えます。
ビッグバンドジャズは、大編成からなるブラス、ホーンセクションによるアンサンブル(合奏)と、フィーチャーされるソロ楽器のアドリブソロのニつが醍醐味です。
この、「レッドバンクより来た男」では、リーダーのベイシーのピアノが主役。そもそも「レッドバンクより来た男」という題名自体が、ニュージャージー州のレッドバンク出身のベイシーのことを指しています。
自分のソロをフィーチャーする格好の題材を得て、ここでのベイシーはあだ名の伯爵(カウント)のようにお供を大勢従えて余裕綽々と、しかも猛烈にスウィングします。
咆哮するブラスサウンドの中で、一層クリアに響き渡るベイシーのピアノのシングルトーンは痛快な爽快感をもたらします。そのダイナミズムの対比が、この演奏にスピード感を与え、ジャケット写真のように爆発的なパワーを感じさせることになります。
大音量で、聴けば聴くほどにクリアでうるさくなく、スウィングする本物の演奏と言えます。これを聴けば五月病なんて、どこかへ吹っ飛んでしまうこと請合いです。
五月病を吹っ飛ばせ!大音量のジャズはいかがでしたか? 日々マンネリに陥っていると少しでも感じたら、刺激を与える意味でも、いつもとは違うことに積極的に挑戦することをおススメします。それではまた、次回お会いしましょう。
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