ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2014年5~6月の注目!ミュージカル(2ページ目)

新緑が眩い季節が巡ってきました。5~6月に開幕する舞台から、今回は『まげもん』『リア王』『セレブレーション100!宝塚』『オーシャンズ11』『レディ・デイ』『恋と音楽2~僕と彼女はマネージャー~』をご紹介します。開幕後は随時ミニ・レポートも追記していきますので、お楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド



レディ・デイ

(6月12~29日=DDD青山クロスシアター)

『レディ・デイ』

『レディ・デイ』

【見どころ】
1986年にオフ・ブロードウェイでの初演が高い評価を受け、現在オードラ・マクドナルド(トニー賞を5回受賞している名女優)の主演でブロードウェイでも上演中の本作。1954年、伝説のジャズ・シンガー、ビリー・ホリデイがその死の4か月前に行ったライブという設定で、ビリー役の女優が「奇妙な果実」をはじめとする珠玉のヒット曲を歌いながら、その激動の人生を振り返るソロ・ミュージカルです。演出は89年の日本初演も手掛けた栗山民也さん。初演でちあきなおみさんが扮したビリー・ホリデイは演技・歌唱ともに定評のある安蘭けいさん(過去のインタビューはこちら)が勤めます。劇場空間に響くのはジャズ・ピアニスト、小林創さんのピアノと安蘭さんの声のみ。客席数わずか200という濃密な空間で、人種差別と闘い、アルコール依存や麻薬にまみれたホリデイの波乱の人生をどう歌と独白で表現するか。安蘭さんの魂のこもった演技が期待されます。

『レディ・デイ』撮影:渡部孝弘undefined写真提供:ホリプロ

『レディ・デイ』撮影:渡部孝弘 写真提供:ホリプロ

【観劇ミニ・レポート】
貧困に人種差別に麻薬。そんな不幸のるつぼに在った歌手の「生前最後のライブ」とは、きっとこういうものだったのだろう……。そう信じるに足るほどの、演技を超えた舞台が今回の『レディ・デイ』です。安蘭けいさん演じるビリー・ホリデイは、ゆっくりとスターのオーラを纏って登場。そのものものしさは彼女が歌の合間に酒のボトルに手を伸ばし、ぽつりぽつりと半生を語り始めるうち崩れてゆきます。通路に降り、観客の顔を容赦なく、まるで相手の心の底を覗き込むようにしながら彼女が語る、どうしようもなくダメな男を愛してしまった話。そのために生まれた母との軋轢。拒めなかった麻薬。人種差別主義者との顛末……。時に切なく、時にユーモア交じりの数々のエピソードの後に、常に筋の通った声で安蘭さんが歌うビリーのナンバーはずしりと重く、また愛に満ちて聞こえます。

『レディ・デイ』撮影:渡部孝弘undefined写真提供:ホリプロ

『レディ・デイ』撮影:渡部孝弘 写真提供:ホリプロ

劇中、関西弁交じりで弾ける瞬間もあるため、次第に舞台上のビリーと安蘭けいさん本人とは二重写しになっていきますが、それは今回の公演が意図したところでもあったのでしょう。ラストはシンプルながら、非常に衝撃的な演出。詳細は観てのお楽しみとしますが、ビリーであり、安蘭けいさんでもあるところの一人の表現者、そして或る懸命に生きた人間の「魂」がそこに立ち現れます。その体が、声が朽ち果てても、その「魂」はなおそこに在り続け、叫び続ける……。目に見えないはずのものが確かに見え、大きく心を揺さぶるこのラストは、大袈裟でなく、ご覧になる方にとって“終生忘れえぬ”光景となるかもしれません。

恋と音楽2~僕と彼女はマネージャー~

(6月13日~7月4日=パルコ劇場、秋に大阪で上演予定)

【見どころ】
12年12月に上演され、好評を博したパルコ劇場発・オリジナルミュージカル『恋と音楽』が、新たなストーリー&音楽とともに帰って来ました。前作はミュージカル作家が幻の女性に恋してしまうお話でしたが、今回はミュージカル・スクールの同期生3人組の、15年間にわたる恋の物語。前回に続くSMAPの稲垣吾郎さん、真飛聖さんのコンビに加え、今回は相島一之さん、小林隆さん、北村岳子さんが出演。稲垣さんに何度も作品を書きおろしている鈴木聡さんが作・演出を担当し、作曲も手がける佐山陽弘さんのピアノなど、ベテランミュージシャンたちも前回と同じメンバー。気心知れたメンバーたちが、肩の力を抜いて楽しめるステージを届けてくれそうです。

【観劇ミニ・レポート】
以前、本作の作者である鈴木聡さんにインタビューした際、鈴木さんは常に「普通の人たちが、“よし、明日も頑張ろう”と思えるような舞台」を意識しているとお話になっていましたが、今回はそんな鈴木さんの、そしておそらくはスタッフ・キャストたちが共有する思いが、ストレートに反映された作品。日常に疲れた平凡なサラリーマン3人が、偶然見かけたミュージカルスクールで同期生となり、つかの間ミュージカル俳優への夢を見るものの現実は厳しく、挫折。10年後、稲垣さん演じる真壁は男性ミュージカルスター・治朗(小林隆さん)の、真飛さん演じる君子は女性ミュージカルスター・洋子(北村岳子)のマネージャー、相島さん演じる横山は二人が共演する舞台の演出助手として再会します。男性二人はほのかに君子を思っていましたが、君子のほうも実は真壁が忘れられなかった模様。そこに治朗、洋子の倦怠期症状が絡み、事態はこんがらがったまま歳月だけが過ぎてゆくのですが……。

これを打開するのが、とある事情で急遽真壁&君子が出演することになったミュージカル。アドリブで急ごしらえしたような空気で始まるこの劇中劇シーンが、大人のプライドや複雑な感情をさらりと流し、真壁&君子、そして治朗&洋子に自分たちの心の奥を見つめさせ、もつれた糸をきれいにほどいて行くのです。決して大上段ではないけれど、その過程を鮮やかに描く音楽と歌詞、そして表現者たち。シンプルながら、ミュージカルって素晴らしい!と心から思えるクライマックスです。

稲垣さんは「もう平均寿命の半分」生きてきた男の感覚を手堅く表現し、真飛さんは声も体も思い切りよく使ってチャーミングなワーキングウーマンを表現。この二人に交って踊るときの「普通の人」の動きが絶妙な相島さん。小林さんは実際にはストレートプレイがメインの方ですが、足を高く振り上げてから座るなど、“ミュージカル役者のイメージ”を裏切らない演技、対して北村さんは水を得た魚のように美しい動きで華やかなスターを演じています。佐山さんのピアノに加えバイオリン、ベース、ギター、パーカッションという編成のバンドも時々芝居に参加?しつつ、大人の魅力あふれる演奏。“僕には悪人が書けないんですよね”といつしか嘆いていた鈴木さんならではの、人間愛溢れる温かい舞台に仕上がっています。大作ミュージカルもいいけれど、時にはこんな素敵なオリジナル作品に出会い、「よし!明日も仕事、頑張ろう」と思うのもいいものです!



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