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実力派の3者が結集したReal Bespoke展

今回は3月18日から23日まで表参道で開かれている“Real Bespoke”展を、いつもと異なり敢えて1ページ構成で一気にご紹介です。テーラーの羊屋、鞄のFugee、そして靴のHIRO YANAGIMACHI Workshopの3者が、単なる作品や技術紹介に留まらず、それぞれの顧客の生の声やトータルコーディネートを通じ、誂え=ビスポークの今日的な意義を深く問いかけます!

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

東京ビスポークの「今」が見える!

ボタンホール縫い

HIRO YANAGIMACHI Workshopでボタンアップブーツのボタンホールを縫い上げているところです。さも当たり前そうにやっていますが、革にボタンホールを設ける作業は、実は非常に難易度が高い! ビスポークはそういった作業の連続なのです。

自らが身に付けるものを買うのではなく、誂える…… 誰もが知っているブランド品で溢れかえったモノ余りの我が国であるにも関わらず、いやそうだからこそ、近年そのような行為や作品、そして製作に携わる工房に注目が集まっているのは、この記事の読者の皆さんなら当然ご存じでしょう。男性のものだとスーツ、鞄、靴がその代表選手。でも、オーダーとかビスポークって聞くとどうも身構えてしまって、と興味はあれども決心がいまいち付けられない方も多いのではないでしょうか。

そんな方だけでなく、その種の誂えを既に楽しまれていらっしゃる方にも是非とも足を運んでいただきたい展示会が、この度表参道のギャラリーで行われます。表題は「Real Bespoke-目に見えない手仕事の累積」。テーラーの羊屋、鞄のFugee、靴のHIRO YANAGIMACHI Workshopと、前述したアイテムを創り上げる三者による初の合同展示会です。創り手と使い手が綿密に話し合った上で、手間を惜しまずこの世に1つしかない「実物」を、正に0から創造してゆく「誂え」とはいかなるものなのか? その姿勢や実際の作業そして作品を紹介するのを通じ、今後の手仕事の有り方や可能性まで探ってゆく企画です。

創り手と使い手、双方の視点!

ボタンアップブーツ

完成したボタンアップブーツです。表情に誇張したり欲張っているものが全くない、澄み切った佇まい。1つ1つの仕様や意匠から、どのような人が履くのかをより深く想像できてしまうのも、ビスポークならではの面白さではないでしょうか。そういった観点からもこの展示会は楽しめますよ!

誂えの多面性を読み解くべく展示ゾーンを大きく3つに分けているのが、このイベントが単なる「作品発表会」ではない証拠でしょう。まずはそれぞれのアトリエの制作過程を紹介するのを通じ、創り手の技術や思想を映し出す「プロセス&テクニック」ゾーン。ちょっと見ただけでは気付けない、或いは表面には決して露出させない、言わば誂え品を下支えする技術や意匠を公開し、一品一品が人の手で生み出されていることを実感できるエリアとなっています。靴に関してはHIRO YANAGIMACHI Workshopの柳町氏に展示の一端を見せていただいたのですが、緻密ながら非常に分かり易い構成で、はっきり言ってどこか著名な博物館が一式買い取って後世のために是非とも保管して欲しいと思わせるレベルですよ。

次にあるのが、それぞれのアトリエで過去に制作し顧客のもとに無事嫁いだ作品の一部を、このイベントのために貸与いただき展示した「カスタマーモデル」ゾーン。新品の状態ではなく実際に使われているものが見せる表情を知ると共に、使用感や心理の変化などを顧客自身の生の声が紹介され、使い手の目線で「誂える際の発想」を疑似体験できるようになっています。中には「えー、そんなアプローチのオーダーなの?? でも納得だよなぁ……」的な、ハッと気づかされる刺激的な意見も採り上げられていて、誂えが正に「個別の事情への誠実な対応」であることに改めて気付かせてくれます。

最後は「シーンコーディネート」ゾーン。「クラシック・フォーマル」「タウン・カジュアル」「リゾート・カジュアル」の3場面を設定した上で、それぞれのお題に合わせた作品をそれぞれの工房で制作し、トータルコーディネートさせた展示です。それぞれの作品の個性だけでなく関連性や協調性をも追求した訳で、これこそ合同展示会ならではの醍醐味! 誂えを通じて身に付ける側の体と心のみならず、周囲の環境にも「いっそう自然なもの」が生み出されていくのを有機的に理解できる空間になっています。「どのような場で用いたいのか?」そして「どのようなものと一緒に用いたいのか?」を想定した上でオーダーすると成功する確率が高まるとは暫し言われますが、その感覚を会得したい方は特に必見です。

交わるからこそ、更に前に進める!

コンビフルブローグ

キャンバスとリザードを用いたコンビ仕様のブラインドフルブローグです。HIRO YANAGIMACHI Workshopの作品らしい、スッキリ纏まった表情が魅力。この靴が羊屋のスーツやジャケット、そしてFugeeの鞄とどのように組み合わされるのかは、実際に会場にいらしてからのお楽しみ!

因みに羊屋の中野氏、Fugeeの藤井氏、そしてHIRO YANAGIMACHI Workshopの柳町氏は、仕事や互いの顧客そして自身が顧客であるなどを通じて以前から知り合いだったそうです。しかしこの合同展示会については準備期間に敢えて1年以上を費やし、互いの意見や方針をしっかりすり合わせた上での開催となりました。柳町氏によると、準備中にそれぞれのアトリエを訪問し細かな作業工程を見せていただけたのが、中でも意義深い経験だったとか。

自らは当たり前に用いていた技術や工夫が、他のアトリエの側から見れば極めて驚くべきもので、品質の更なる進化に一気に繋がる事例を幾つも発見できたのが、その理由。確かに鞄に収納するのは人体ではないし、スーツには革素材が殆ど用いられない。そして靴は「左」と「右」が完全に分離している…… そんな決定的な違いがそれぞれの技術の違いに当然現れる訳ですが、糸で縫って立体を創り上げていくのは共通だからでしょう、理論や意味が分かれば応用できる部分も結構思い付いてしまうからです。この辺りの鋭敏な吸収力は、どのアトリエも抜かりの無い手仕事を極めているからこそ!

なお、展示会当日の注意点を2つ記載しておきます。まず“Real Bespoke”はあくまで合同展示会であって、受注会ではありません。予約の受け付け等はともかくとして、どんなに作品が気に入ったからと言っても、原則その場ではオーダーは承りません。また、その場での各作品の写真撮影は禁止となります。これは「実物」を自らの目で直に見て、可能なものは実際に手で触れていただくのを通じて、いらしていただいた方に手仕事の意義をその場で深く考えてもらいたいとの一種の配慮で、代わりに代表的な作品を収めたポストカードを会場で販売します。これもちょっとだけ見せていただきましたが、写真が綺麗で思わず入場料代わりに買ってしまうこと確実!

展示会のサブタイトルにもあるように、どの分野であれ本当に素晴らしい手仕事は目には見えないものの積み重ね、つまりそれがあくまで手段であって目的ではないので、一見地味で、決して出しゃばっては来ません。完璧と言う以上にあくまで自然。誂えを通じてその「自然」を真に理解されたい方、そしてメンズの「東京ビスポーク」の実力が間違いなくヨーロッパ勢に追いついているのを実感されたい方には、この展示会は格好の機会になる筈です!

【展示会案内】
3工房合同展示会「Real Bespoke-目に見えない手仕事の累積」
・期間: 2014年3月18日(火)~23日(日)
・場所: アートスペース「Ryabina(リビーナ)」
・住所: 東京都港区北青山3-5-25 表参道ビル4F
・アクセス: 東京メトロ 表参道駅 A3出口から徒歩すぐ
・地図: Yahoo! 地図情報
・時間: 11:00~20:00(最終日23日のみ18:00終了)
・HP: Real Bespoke - 目に見えない手仕事の累積 -
・お問い合わせ先: 03-6383-1992(HIRO YANAGIMACHI Workshop)

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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