ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk Vol.7 橋本さとし、“旬”を生きる(2ページ目)

野性的なアンチヒーロー役者としてデビューし、舞台・映像を問わず様々な作品に出演。その男らしい美声とスケールの大きな演技で、ミュージカル界を代表するスターの一人に数えられるのが橋本さとしさんです。最新作では『アダムス・ファミリー』ミュージカル版に主演。「演じる役の一つ一つが大切な子供」と、役に愛情深く向き合う彼の、思いが迸るトークをお届けします!*2017年晩秋、再演が決定しました!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

僕が演じるからには“人間的な”モンスターに

――自然に最新作『アダムス・ファミリー』の話題に移行してきましたが(笑)、本作は音楽的にはいかがですか?

「楽しい音楽ですね。『シャーロック・ホームズ』は、謎解きの複雑さを音楽に乗せて表現しているということで、とても奇怪で謎めいていたんです。数学的というか方程式っぽいというか、これまで自分が感覚でやっていたことが通用しない世界だったんですけど、『アダムス・ファミリー』は逆に感性で楽しめるような、とっつきやすい、素晴らしい音楽ですね。情熱的なタンゴ風のナンバーが主人公ゴメスの、奥さんに対する愛の熱さを表したり、彼が娘に歌うナンバーには哀愁が漂っていたり、すごくバラエティに富んでいます」

――歌の途中に台詞が差し挟まれ、また歌に戻る曲の多い作品でもありますね。

「そうなんです。歌の合間にきれいに言葉が入っているんですが、それがスムーズに流れていくのがミュージカルの醍醐味だし、最も難しいところ。歌と台詞のギャップを極力研磨しながら、“歌、ことば、歌”でなく自然に流れるよう、台詞を大事に、台詞の延長線上に歌があるというふうに歌っていきたいです」

――『アダムズ・ファミリー』はもともとゴースト一家の日々を描いた人気一コマ漫画で、91年に映画化され、2010年にミュージカル化。舞台版は、アダムス家の長女に恋した普通の人間の青年が、両親を連れて一家を訪れ、騒動が巻き起こるというお話ですね。橋本さんは以前から『アダムス・ファミリー』に親しまれていたのですか?
『アダムス・ファミリー』宣伝ビジュアルより。最前列中央がゴメス役橋本さとしさん、2列目中央がフェスタ―役今井清隆さん。

『アダムス・ファミリー』宣伝ビジュアルより。最前列左から二人目がゴメス役橋本さとしさん、2列目中央がフェスタ―役今井清隆さん。

「映画版で親しんでいる人が多いと思いますが、僕もそうです。ティム・バートンとか多くのクリエイターが影響を受けてるゴシックホラーだけあって、モンスターの世界という設定でありながら、普通の家族にあるような問題を扱っている傑作だと思います。それが今になってミュージカルとして蘇ったというのが新鮮ですよね。宣伝ビジュアルを見ただけで楽しそうだねってみんな言ってくれるんですが、ジャン・バルジャン役の先輩である今井清隆さんがゴメスの兄役で、この扮装……まさかですよね(笑)」

「主人公のゴメスはモンスターではありますが、“ものすごく共感できる普通のおやじ”で行こうかと思っています。今後の稽古で他の人との絡みもみながらではあるけれど、今のところ、周りがみんなクールだったりマイペースにやっているなかで、このおやじ一人が頑張っていっぱいいっぱいになっている、という感じで行こうかと。白井晃さんの演出は今回は初めてで、先日宣伝写真の撮影で細かいディレクションをしてくださったのだけど、すごく緻密で頭の回転が速い方という印象を持ちました。僕はどっちかというとスロースターターなので、白井さんのテンポ感に一生懸命ついていきたいですね」

――どんな舞台になりそうでしょうか?

「二つの全然違う文化を持った家族が絡んでいくというファミリーストーリーである以上、やっぱりテーマは“愛”なのかなと思います。理解しあえない2家族が、最後には一つの愛で共感できる、というような。月並みな言い方かもしれませんが“ハートウォーミング”な作品になればと思っています。でも、ありきたりの方法であったかくするのではなくて、回り道をぐにゃぐにゃしながら(笑)、最終的にあったかい作品になるといいですね」

演じる役は“大事な大事な”僕の子供

――これまで、とても素敵にキャリアを重ねていらっしゃいますが、今後についてはどんなビジョンをお持ちですか?

「今までいろんなことを経験させてもらって、がむしゃらに突っ走って来たけれど、そろそろ、これまで経験してきたものを構築して、それを発揮して行けたらと思っています。役者というのは“旬”、それも一生が“旬”の仕事で、刻々と旬の形が変わるんですよね。僕がかつて劇団でやっていたような役は、今は出来ない。(逆に)40代後半の僕でなければできない旬の形があるはずで、それを大事にしていきたいです。役者という仕事の魅力は、人間イコール役者、人生イコール役者なんですよね。自分の生き様がそのまま仕事に現れるから、くだらない生き方をしていたら面白くない役者になってしまう。だから貪欲にいろんなものに出会いながら、幸せや苦しみも素直に感じて、それを役者として表現していきたいし、無心、無欲に人を喜ばせるエンタテインメントの力を信じて生きていきたいです。

僕は男性だから、女性と違って子供を産む機能は体に備わっていないけれど、役者がキャラクターを生み出すにあたっては、男も女も関係なく、新しい命を生むぐらいの気合いで行きたいです。今回もまだ始まったばかりですが、“ゴメス”という子供が、どんな形で生まれてくるのか。自分の中で大事に大事に育てていきたいです。

でも役に対して愛情があると、終わる時は寂しいです。あんまり愛情過多になってもつらくなってしまうので、どう演じ終えた役を成仏させてあげるかが大切ですね。千秋楽のカーテンコールのときに、自分の中からひゅーっと飛んで行くのを感じる瞬間があるんですよ。そういう一つ一つの役は、たとえ人前で表現できなくなったとしても、自分の中では大事な大事な宝箱にしまってあるし、縁あって再演することになれば、またその時の僕の“旬”を持って生まれてくるんだろうと思います。これからも新しい宝との出会いが楽しみです。今回も、頑張りますよ。楽しく楽しく、ね」
『Beast is Red~野獣郎見参!』プログラムより。写真提供:ヴィレッヂ

『Beast is Red~野獣郎見参!』プログラムより。写真提供:ヴィレッヂ

冒頭でご自身が語られていた通り、劇団☆新感線時代の橋本さんは豪快で野性味たっぷり、96年の『Beast is Red~野獣郎見参!』の“男は殺す、女は犯す”というキャッチフレーズの荒々しいアンチヒーローぶりは、今も目に焼き付いて離れません。その彼の中に、こんなにも役を愛おしみ、“大事に大事に”育てていく心があったとは。どんな質問もいったん受け入れ、肯定してからご自身の考えを述べる会話スタイルからも、懐の大きさ、優しさが伺えました。そんな橋本さん率いる今回の『アダムス・ファミリー』、モンスターの世界とはいえあたたかな血の通う、楽しい舞台が期待できそうです!

*公演情報*『アダムス・ファミリー』4月7~20日=青山劇場、4月26~27日=愛知県芸術劇場大ホール、5月4~5日=KAAT神奈川芸術劇場ホール、5月10~11日=オリックス劇場
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