イームズチェアから「オリジナル」について考えてみる
検索開始。「イームズ」と入力するだけで、「正規品」ではない、ジェネリックとかリプロダクトと呼ばれる「イームズ・シェル・チェア」のが続々とヒットします。そこで、いくつかを軽く検討して、脚が木製の「DSW」と呼ばれるのブラウンのイームズのシェルチェアをポチッと購入しました。ブラウンにしたのは、あえて「正規品」にない色にしたのです。リプロダクト品には正規品にはない、ポップなカラーがたくさんあって楽しい!!椅子の到着を待つ間、いろいろなリプロダクト、ジェネリック家具を欧米も含めて検索したり、昔の出来事を思い出したり、当時の本や雑誌、1980年代にMOMAで買ったイームズの本を見返したりしました。実は、15年ほど前にイームズのシェル・チェアを購入したことがあります。たしか、3万円ほどでした。そのころはドイツのヴィトラ社が「正規品」でした。組み立てられた完成品で、木の枠に入れられていて、はるばる海を渡ってきた「ホンモノ感」があったことを覚えています。
UK(英国)のリプロダクト椅子のサイト画面をパチリ。価格やラインアップは、日本と状況は同じようです。英語圏では、furniture reproduction とか、replica chair などでヒットします。日本と同じく、イームズだらけです!!
私は、その現象を冷ややかに見ていました。なにしろ、1980年代バブルのころはイタリアのポストモダンデザイン家具が全盛でイームズなどは見向きもされず、特に都心のオフィス街では粗大ごみとして大量に捨てられていたのです。それを一部のマニアが拾って楽しんでいました(実話です!)。ですが、ほとんどはモダンファーニチャーサービスというハーマンミラージャパンの前身の会社の日本人向けのサイズのメイドインジャパンだったらしいですが……。
1972年にアメリカで刊行されたイームズの家具の本、『CHARLES EAMES FUNITURE FROM DESIGIN COLLECTION』というMOMAで買った本。この本にはなぜか共同デザイナーだった夫人のRAYの名前が出てきません。手前が2002年に出版された『とことん、イームズ!』どちらの本にもDSW(木の脚)のベースの写真はありませんでした。
PP素材で作られたヴィトラ社製、「トム・バック」。2000年前後に購入。デザイン年は1998年なので16年しか経っていないのにリプロダクトが存在。名前は「トム・バック」という名称は使わずに、別のネーミングがされいます。意匠権を侵害しているためこの製品のリプロダクトは違法でコピー商品になります。右は椅子裏面のヴィトラ社のロゴ。他にエンボスでデザイナー名とtom vacという刻印が入れられています。
カフェで見かけたエッフェルベースの脚先。ファーストグライスと呼ばれる所期の形のレプリカだと思われます。1950年代後半からはプラスチックの脚先になって現在に至りますが、この古めかしさに魅力を感じるかどうかは好みによるでしょう。
そして現在、あの熱狂のデザイナーズチェアブームから10数年がたち、イームズは「ちょっと、べタすぎて、恥ずかしい感じ?」という存在になり、廉価なリプロダクト品の台頭とともに、「イームズチェア」というアノニマス(詠み人知らず)なデザイナー椅子のアイコン的な存在になった気がします。「ウィンザーチェア」や「シェーカー家具」にはデザイナー名が存在しないように……。
そして、工業製品には個体差が付き物です。1990年代に、北欧デザインの超有名なプライウッドのスタッキングチェアを入手したことがあります。今、思えば相当高額でした。「正規品」を2脚ずつ、百貨店で計4脚購入しました。メーカーの刻印入りで同じルートで輸入されているにもかかわらず、なんと微妙に寸法が違うのです。あろうことか、スタッキング(積み重ね)できませんでした。プロダクトの中でも手作業の部分が多い椅子ならではのことだと思いますが、これも、ビンテージとかオリジナルというものの価値を考え直すきっかけとなる経験でした。