かつてアフリカの草原の人気者だった『かたあしだちょうのエルフ』
アフリカの草原の厳しい自然の中で、他の動物たちの人気者だったオスのダチョウ「エルフ」。若くて強くて、ひと息で1000メートルを走ったこともあるぐらいの馬力を持ちながら、とても心優しく子どもが大好きで、いつも色々な動物たちと遊んでいました。いつ天敵に襲われるか分からない恐怖とも隣り合わせの暮らしの中で、敵から子どもたちを守る勇敢さも持ち、みんなの人気者でした。そんなエルフの切ない一生を描いた絵本『かたあしだちょうのエルフ』は、幼い子どもの心をも強く揺さぶります。
幼児期にこの絵本から受けた衝撃
私がこの絵本に初めて出会ったのは、4~5歳の頃でした。版画調の硬い絵に、厳しい太陽が照りつける土地にふさわしい乾いた色合い。その中に現れた、堂々とした躍動的な姿で小さな顔に優しそうな表情のエルフに、親近感を持ちました。自分も動物の子どもたちのように、エルフの背中に乗って草原をドライブしたいなという気持ちになりました。しかし、アフリカの草原の生活は、やはり楽しいことよりも恐ろしいことが多いのです。どんな敵が出てきても、エルフだったらみんなを守ってくれると思った矢先、エルフはライオンから子どもたちを守るために激しく戦います。みんなの願いどおりライオンに「勝った」エルフでしたが、片足が食いちぎられてしまいました。それでも必死に生きようとするエルフ。一方で、エルフを心配しながらも、自分たちが生きていくだけでも精一杯で、次第にエルフのことを忘れていくみんな。「どうして? 忘れないで!」。この絵本を見るたびに繰り返し心の中で叫びました。
片足のエルフは仲間たちのために、再び猛獣に立ち向かいます。最後の戦いで仲間を守ったエルフは力尽きました。そして、みんなを永遠に見守り続け、みんなが寄り添う存在に、その姿を変えました。
「エルフを忘れない」と幼い心で思い見続けた大きな木
私の育った家の近くには、神社があり、自宅からもよく見える大きな木がありました。その木が、片足で立つエルフにそっくりであることに気づいた私は、「エルフの木」と名付けました。毎日エルフの木を眺め、「私もエルフを忘れないよ」と思い、この絵本も、私の忘れられない1冊になりました。怖さや悲しさとセットになっていた絵本かもしれません。エルフの一生を大人になってから再度考えた
子どもの頃に出会った「怖いお話」、「悲しいお話」として、『かたあしだちょうのエルフ』が記憶に残っている方もいるかもしれません。怖さや悲しさが強い絵本は、お子さんに読むのをためらわれる方もいるでしょう。しかしぜひ、再び手に取って、安心できるお母さん、お父さんの声で、お子さんに読んであげていただきたいと思います。抵抗することのできない自然の摂理や運命と、そういったものの中でも揺るがなかったエルフの思い。私にとっての『かたあしだちょうのエルフ』は、長い年月を経て大人になった心であらためて読むことで、子どもの頃に抱いた気持ちとは別の思いで大切に感じる1冊となりました。守りたい存在がある方たちの思いが込められて読まれる『かたあしだちょうのエルフ』は、エルフの生き方、エルフが遺したものを、子どもたちと共有する時間をくれると思います。