メンタルヘルス/摂食障害(拒食症・過食症)

ストレスによる過食症……肥満と過食の悪循環とは

摂食に関する精神医学的な病気の一つである過食症。そのきっかけはさまざまですが、自分の体型が肥満であることのコンプレックスがストレスになり、ストレス解消のために過食に依存してしまうという悪循環もありえます。過食の背景によくある心理的問題と、その問題への対処法を解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

心の病気の症状として炭水科物への欲求が高まってしまう事も……

食べ過ぎてしまえば太ると、頭では分かっていても、つい食べ過ぎてしまう……。場合によっては食べる事が気持ちを軽くする手段になっている可能性もあります

食欲は人間の根源的な欲求の一つ。実際、おなかが空くと、誰でもイライラしやすくなるものです。次の食事のことばかり考えてしまったり、逆に普段口にしないようなご馳走が食卓に並ぶと、思わず笑みが浮かんでしまったり。

私たちが日々、当たり前に行っている「食べる」という行為も、場合によっては心身の健康を損なう原因になることもあります。例えば、行き過ぎたダイエット。極端な栄養失調の状態は命に関わりますし、その反対に我を忘れたように食べ物を食べ続けてしまう「過食行為」も危険です。

今回は、食に関する精神医学的な問題の一つとして肥満について解説しましょう。肥満が深刻化する背後にあることが多い心理的問題の特徴、そして、その対処法について、以下で詳しく解説します。

体重増加の原因は、一言で言えば「食べ過ぎ」

体重が増加する原因自体は多様ですが、基本的な考え方はとてもシンプルで、「一日の摂取カロリーが消費カロリーを超えた状態」が、ある程度の期間、持続することが原因です。したがって、摂取カロリーが増した場合でも、消費カロリーが減ってしまった場合でも、体重増加につながる可能性があります。

摂取カロリーが増してしまうのは、基本的には体が必要とする以上に食べ物を食べてしまうため。何らかの要因で、食欲が増してしまった結果、とも考えられます。食欲亢進の原因は多様ですが、場合によっては、冬季うつ病など、病気の症状として現われる事もあります。また、食事の量自体は一般的には適量でも、食事内容が脂肪分の多すぎるものであれば、少ない分量でもカロリー過剰になってしまう可能性があります。

一方、消費カロリーが減少する原因としては、生活習慣が大きな要因です。例えば、慢性的に運動不足気味の人。体を動かすことがとにかく面倒で、平日の運動量も最低限で、休日も家に引きこもって一歩も外出しないような場合、日常生活での身体的負荷は、かなり低下している可能性があります。

また、加齢の影響も無視できません。人は年輪を重ねるにつれ、体の生理機能を維持するために必要なエネルギー量、基礎代謝量が次第に減少していきます。もしも40代、50代になっても、20代の頃と変わらない食生活を続けていれば、どうしても太りやすくなります。また、場合によっては何らかの医学的問題、例えば副腎皮質ホルモンの過剰分泌が原因のクッシング症候群といった内分泌的な問題も体重増加の原因になってしまう事があります。

イライラ解消のための過食は悪循環の始まり?

現代はストレス社会。誰でも日々、何らかの事態に直面して、イライラの種には事欠かないかも知れません。このイライラ感はなかなか嫌なもので、何らかの対処を取らないと、さらに強まってしまう気がするかも知れません。それでつい、後先を考えずに、普段しないような事をしてしまいがちです。例えば、周りの人に八つ当たりをしてしまったり……。もちろん、大多数の人は大きな問題行動には至らず、何とか気持ちを静められるもの。何回か深く深呼吸をすれば充分という人もいるでしょう。でも場合によっては、何かを無性に食べたくなってしまう事もあります。

実際、甘いものを口にすると、脳内にグルコースが入ります。グルコースは脳のエネルギー源! 脳内の快楽報酬系も刺激されて気分は良くなりますが、実はその効果は一時的。膵臓から分泌されるインスリンのために、血糖値は急低下。それで、また甘いものを口に入れたくなる……。心理的要因はそれに拍車を掛けやすいものです。例えば、何らかの劣等感のために自分にすっかり自信を無くしている場合。もしも自分は周りのみんなより劣っている、といった意識が強くなってしまったら? もしもその時、食べる事が気持ちを楽にする手段になっていたら、ますますそれに依存しやすくなるでしょう。

悪循環に陥った過食……精神科的対処が望ましい場合も

誰でも程度の差はありますが、何らかの劣等感を抱えているものです。特に多くの人は他人の見かけにも敏感な分、自分自身の見た目にもコンプレックスを持ちやすいもの。外見は自分でもすぐには変えられない分、自分に対して自信を失う要因の一つです。

特に、太っていることを気にしている人が、その事を他人にからかわれたりすれば、心は深く傷ついてしまうでしょう。特に多感な思春期にそんな嫌な事が起これば、それが原因で自分に自信をなくしてしまうことは大いにあることです。すると、この出来事が原因で対人関係に消極的になってしまったり、場合によっては対人恐怖症に近い状態になってしまったりと、様々な弊害が現われる可能性があります。

また、その自分の外見に対する劣等感に心がいつも向いてしまえば、本来すべき事に充分集中することが難しくなります。すると人生はなかなかポジティブな方向に進まず、ますます自分に自信を失ってしまうことになりかねません。いったん負のスパイラルに入ってしまうことで思考がネガティブになり、一時的にでも気持ちを軽くさせるために、食べる行為にますます頼るようになってしまうパターンがあります。場合によっては、うつ病など心の病気につながってしまうこともあります。心の苦しみを軽減し、人生をポジティブな方向に向け直すためには、カウンセリグルームでカウンセラーに心の悩みを相談してみる、あるいは、もしも日常生活に深刻な支障が生じていたら精神科(神経科)を受診してみるという選択肢もある事を、是非、認識しておいて下さい。

肥満体型がコンプレックス……ダイエットの王道は?

最後に、肥満を解決する方法は基本的にはダイエットですが、短期決戦で解決!という訳にはいきません。心身の健康を損なう事無く、体内の脂肪を減らしていくためには、数日~数週間という単位ではなく、数か月、肥満の程度によっては数年間という長期間にわたり、一日の摂取カロリーを消費カロリー以下にコントロールしていく必要があります。とは言え、ダイエットが見事成功すれば、言わば新しい自分になったようなもの。そのメリットは大です。メタボリック・シンドロームの心配も無くなれば、寿命も違ってくる可能性があります。

長いダイエット中には途中で投げ出したくなるような時もあるかと思いますが、もしも、ダイエットを始めたあと、今まで無かったような気持ちの不安定さ、落ち込みといった、深刻な精神症状が現われていたら是非、精神科(神経科)を受診されてみる事も、検討してみて下さい。
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