絵と言葉の呼応を感じたい『クレーの絵本』
パウル・クレーは、スイスを代表する画家の1人で、日本でも高い人気を誇っています。そのクレーの作品は、題名と絵が互いに補い合って作品の意味を成すものが多いのだそうです。この相互関係は、絵本における絵と言葉の関係に似ていますね。『クレーの絵本』は、そんなパウル・クレーの作品に、谷川俊太郎が、画名と同じタイトルの詩を寄せた、詩画集に近い絵本です。これは、大人のためだけの絵本でしょうか?
この絵本に収められた絵や詩の多くは、悲しげで言いようのない孤独を感じさせます。正直なところ、元気いっぱいの子どもたちとの毎日の生活の中では、このような寂寥感は感じる暇もない私たちです。ですが、詩人は、この絵本に収載されている詩 『黄金の魚』 の中で、と言いました。どんなよろこびのふかいうみにも
ひとつぶのなみだがとけていないことはない
ひょっとすると、この「ひとつぶのなみだ」こそが、読者をこの絵本に惹きつける真因なのかもしれません。普段は感じることのない、心の奥深くに眠る感情が、絵と詩のコラボレーションによって呼び覚まされ、後から後から湧きでるようにあふれてきて、わずか15cmほどの小さな絵本が、重苦しくも新鮮な体験を私たちにもたらしてくれます。
そして、クレーの絵によって引き出された詩人の言葉が、今度は私たち読者を、絵の世界に導いてくれる……。この導きを大人だけの体験にしてしまうのは、あまりにもったいないように思います。幼い子どもたちに、大人向けと思われる絵本を、やみくもに読んで聞かせることをおすすめするわけではありませんが、この作品を手にした大人たちの想いに従って、親子一緒に絵を眺め、研ぎ澄まされた言葉を口に出してみるのも、アリかなあ……と思う次第です。
【書籍データ】
パウル・クレー:絵 谷川俊太郎:詩
価格:1575円
出版社:講談社
推奨年齢:中学生以上
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※参考
11月 アートな絵本を自由に楽しむ鑑賞ガイドにて『クレーの絵本』を紹介しています。