冬季うつ病とは? 定義と原因
冬になると落ち込む、仕事に集中できないなどの症状が発生する冬季うつ病
SADはアメリカのジョージタウン医科大学教授であるNorman E. Rosenthalらが行った季節によって発生するうつ症状についての研究に基づき1984年にそのように名付けられました。この研究によると、一般的に話題にのぼることが多い冬季性のものだけでなく夏や梅雨時にもSADは発生することがあるとされています。
SADの定義は
- 重いうつ病の症状(『DSM−IV―TR 精神疾患の分類と診断の手引き』による)があること。
- 2年以上続けて、秋から冬にかけてうつ病になり、その間の春と夏には完全に回復すること
- 症状が情動障害以外の精神疾患によるものではないこと
- 季節のほかには、明らかな心理的あるいは社会的な誘因があること
また、疫学的な特徴として
- 若い女性に多い
- 糖質、特に甘いものを欲するようになりその結果体重が増加する
- 北(高緯度)の地域ほど発症率が高い
- 家族歴がある
Rosenthalらは、16年もの間毎年冬になるとうつ病を発症していた男性に2000ルクスの照明を朝夕浴びさせたところ、うつ病が完治したという事例をきっかけに「高照度光照射療法」を確立したことでも知られています。このことから、冬季うつ病の発生に日照時間の減少が大きく関わっていることが明らかになったのです。この高照度光照射療法とは、一般に5,000~10,000ルクス程度の照度の光を30分~1時間程度眺めることで体内時計をリセットし冬季うつ病を治療するというものです。
メラトニン・セロトニンと冬季うつ病
なぜ体内時計をリセットすると冬季うつが改善するのでしょうか。それにはメラトニンという催眠作用のあるホルモンと、セロトニンという神経伝達物質が関係しています。
メラトニンの分泌は明るさと関係しており、その血中濃度は明るい昼に抑制され低くなり、暗い夜に促進され高くなります。この作用により朝は起床し夜は眠るという24時間の生活リズムすなわち概日リズムが整うのです。
日に当たる時間が減少することで身体がメラトニンの分泌を抑制できなくなることや、反対に夜間にパソコンや蛍光灯などの光が目に入ることでメラトニンの分泌が抑制されてしまうことなどで、身体が適切に休息するリズムをつかめなくなってしまった状態が冬季うつ病であると言えます。
また、メラトニンは「幸せ物質」などと呼ばれたりもする神経伝達物質の一種であるセロトニンを材料としています。このセロトニンはストレスを受けた時に分泌されます。同じくストレスを受けた時に分泌され脳の覚醒や集中を促すノルアドレナリンの過剰な働きを防ぐなどして情動を安定させる作用を持っています。
セロトニンは日中太陽の光を浴びることで目から脳に刺激が伝達され合成が促進されます。つまり日に当たる時間が少なくなることでセロトニンが減少し、情動を安定させることが難しくなるということになります。
また、セロトニンが脳内で作られる時にトリプトファンという必須アミノ酸が材料となるのですが、トリプトファンを脳内に取り込む時には糖質が必要となります。
冬季うつ病の時に甘いものが無性に食べたくなるのは、糖質を摂取してトリプトファンを脳内に取り込み、セロトニンの合成を促そうとする身体の自然な反応だと言えます。特に女性は男性に比べセロトニンの分泌量が少ないことが分かっており、女性の冬季うつ病発生数が多いことや甘いものを好むことの一因となっているようです。
次のページでは、東洋医学から見る冬季うつ病の考え方と対策法をご紹介します。