一戸建て住宅にとって、屋根はとても重要な部分です。しかし、住宅を選ぶときには間取りや広さに重点が置かれ、屋根にはあまり注意が向かないケースが多いかもしれません。
一つひとつの住宅でさまざまに異なる屋根の形がみられますが、その基本形を覚えておくと現地見学の際にも役立ちます。
屋根材の種類などについての話は別の機会に譲ることとして、今回は屋根の形の基本や注意点などをみていくことにしましょう。
木造の一戸建て住宅で、ごく一般的にみられるのが「切妻(きりづま)」です。形が単純なため工事がしやすく、雨漏りなどが起きる危険性も低いものとされています。
切妻が2方向なのに対して、4方向から中央に集まる形状のものが「寄棟(よせむね)」です。切妻と並んで多く用いられ、この屋根の形をした建売住宅なども多くみられます。一般的に工事費は切妻よりも割高となりがちです。
建物がほぼ正方形であれば、寄棟屋根の天頂部が中心の1点に集まります。このような屋根の形をとくに「方形(ほうぎょう)」と呼びますが、完全な方形屋根を持つ一戸建て住宅はなかなかみられません。
一見すると方形のようでも、上辺に少しだけ幅のある寄棟となっていることが大半です。方形は住宅よりも寺社建築で使われることの多い形でしょう。
都市部では最近ほとんどみられなくなったのが「入母屋(いりもや)」です。上部が切妻、下部が寄棟となった組み合わせの形状で、古い瓦屋根の住宅などで使われています。工事に手間がかかりますが、最近の住宅で入母屋にしているケースもないわけではありません。
入母屋が年々減っているのとは対照的に、近年の住宅の屋根によく用いられているのが「片流れ(かたながれ)」です。最もシンプルな屋根の形で、単純なゆえに屋根自体の防水性は高いとされています。
しかし、雨水は片方にだけまとまって流れるために雨どいが溢れやすい場合があり、壁面の防水処理が甘いと雨水が浸入する事故も起きるようです。一方で、換気ルートを確保しやすいなどのメリットのほか、小さな住宅が大きく感じられる効果もあるでしょう。
切妻屋根の上部をずらしたものは「差し掛け(さしかけ)」と呼ばれます。デザイン的な効果だけでなく、屋根の間に採光窓を設けることで2階部分の居住性の向上にもつながります。
2階からの屋根がそのまま1階部分までつながっているような屋根の形は、そのものずばり「大屋根(おおやね)」です。小さな住宅で大屋根は無理ですが、ある程度の規模の大屋根は堂々とした佇まいを感じられるでしょう。
洋風の住宅の場合には、個性的なデザインを優先して曲面の屋根が用いられることもあります。「ヴォールト屋根」などとも呼ばれますが、使用可能な素材が限られるうえに施工の難易度が上がり、工事費も割高となります。
マンションではごく一般的な「陸屋根(りくやね・ろくやね)」ですが、軽量鉄骨造や鉄筋コンクリート造の一戸建て住宅で採用される場合もあります。フラットな屋根のため、雨水や枯葉などがたまりやすく、防水処理のメンテナンスが重要となります。
陸屋根の中古住宅の場合に、屋上へ出ることができるのであればしっかりと確認しておくことが欠かせません。
実際の一戸建て住宅の屋根の形は、デザイン的な面からこれらの基本形を組み合わせたり、斜線制限や高さ制限など建築規制の影響で一部が削られたりすることで、さまざまなバリエーションがあるでしょう。
また、斜線制限いっぱいまで建てることによって、かなりいびつな屋根の形になっている場合もあります。
しかし、屋根の形が複雑になればなるほど工事が難しくなり、施工不良による雨漏りなども起きやすくなります。購入を検討する対象が複雑な形状の屋根を持つ中古住宅の場合には、雨漏りの形跡がないかなど、建物状態のチェックをより入念に実施することも欠かせません。
注文住宅など、これから建てようとする住宅の屋根を複雑な形にしようとするときには、施工技術のしっかりとした建築業者を選ぶことも重要となってきます。
最近の住宅では、逆に屋根の軒(のき)が極端に短かったり、あるいは軒そのものがなかったりする、たいへんシンプルな形状のものも少なくありません。デザイン的な要素も大きいのでしょうが、このような屋根の場合には屋根よりも外壁の防水が重要になってきます。
防水層の施工に少しでも不良箇所があると、外壁の内部に雨水が広く浸透してしまうこともあるでしょう。雨垂れの跡が黒く残っているような外壁の場合も注意しなければなりません。
屋根部分に天窓、ドーマー窓、煙突などを設けている場合もあります。なかなか魅力的でメリットも大きいものですが、このような屋根を持つ中古住宅を検討するときも、防水面などで問題が生じていないか入念なチェックをすることが重要です。
もちろん、他のシンプルな屋根でも注意が必要なことに変わりはありませんが……。
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