【『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 観劇レポート】
ゴールデン・コンビと充実のキャストが描く“極めつけの人生讃歌”
*若干の“ネタバレ”を含みますので、未見の方はご注意ください。
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
華やかな緞帳の前で朗らかな序曲が始まり、塩田明弘さんのジャンプを交えたノリノリの指揮とともに、客席は手拍子の渦に。幕が上がり、クラブ「ラ・カージュ・オ・フォール」のステージにオーナーのジョルジュ(鹿賀丈史さん)が現れ、サディスティックなハンナ(真島茂樹さん)やアビニョンきっての歌姫シャンタル(新納慎也さん)ら、個性豊かなスターたちを紹介。軽妙洒脱なその口跡が、開放感溢れる南仏リゾートのゲイクラブへと、観客をいざないます。
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
なかなか登場しない看板スター、ザザことアルバン(市村正親さん)がまだ劇場入りしていないと知り、ザザの“夫”でもあるジョルジュが自宅に迎えに行くと、アルバンは腕によりをかけて昼食の準備をしていたのだとか。急かされて拗ねたアルバンにジョルジュがユーモアたっぷりに優しい言葉をかけ、一件落着するという、なんということのない“日常の一コマ”にも、市村さんの愛嬌、鹿賀さんの懐の大きさと互いへの信頼感が滲み、観ている側も自然に頬がほころびます。
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
脚線美も見事な長身の踊り子たちが迫力のダンスを見せるショー・シーンを経て、物語はジョルジュ夫妻の息子(正確にはかつて、ジョルジュの“一夜の過ち”で出来た子)ジャン・ミッシェル(木村達成さん)の登場によって急展開。結婚したい娘アンヌ(愛原実花さん)の両親を招きたいが、その父親が保守的なダンドン議員(今井清隆さん)で、その一晩だけアルバンの存在を伏せてほしいというのです。
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
血のつながりはなくとも自分を手塩にかけて育ててくれたアルバンに対して“世間体”を優先した言動をする(しかもその要望を自分からではなくジョルジュに言わせる)ジャン・ミッシェルはなんとも未熟な青年ですが、演じる木村さんのまっすぐで“アンヌ一筋”のふぜいは清々しく、ジョルジュが折れてしまうのもむべなるかな。
ジャン・ミッシェルとの逢瀬との際、くるくると回りながら彼の目の前でぴたりと止まり、こちらも“ジャン・ミッシェル一筋”であることを美しく見せる愛原さんと、微笑ましいコンビぶりです。
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
1幕終わり、ジャン・ミッシェルたちの計画を知ったアルバンは深く傷つき、ザザとして「ありのままの私」を歌唱。これまでの公演では“母”としての年月を否定され、傷ついたアルバンの悔しさ、魂の叫びが溢れる歌唱だったのに対して、今回の市村アルバンは、毅然たる歌唱。マイノリティに対する偏見と闘ってきたであろう彼の尊厳が強く感じられ、深い感動を呼び起こします。
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
幕間を挟んで二幕では、“叔父として登場しては”とのジョルジュの提案により、“男らしく”見えるよう、周囲の人々を巻き込んでにわか稽古に取り組むアルバンたちの姿に始まり(微妙に足の角度を変えながら一瞬にして“男らしく”見せるくだりが見事)、いよいよダンドン議員とその妻(森公美子さん)、アンヌの訪問、アルバンたちの旧友・ジャクリーヌ(香寿たつきさん)の店でのディナーへと場面が展開。
台詞の応酬はもとより、ダンドン夫人が腰をかける度、皆が揺れるというリアクションなど、ちりばめられた小さなギャグに客席は大いに沸き、あちこちから屈託のない笑い声が聞こえます。大人の女性のゆとりを全身に漂わせた香寿ジャクリーヌのアイディアで、全員が「今この時」を歌い踊るシーンは、何気ない日常の喜びを歌う歌詞が染み入り、幸福感でいっぱいに。
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
この後、“絶体絶命”の事態が起こるも、再びジャクリーヌの機転にて(この方、あたりは柔らかいが“なかなか”の商才の持ち主)にて、大団円。(森公美子さんの瞬間的“大胆演技”もお見逃しなく!)
ステージにはジョルジュとアルバンの二人が残り、デュエットとなりますが、ここでの市村さんはスーツのポケットに手を入れ、アルバンとはちょっと異なるふぜい。いわばここでのお二人は役柄を超越し、かつて同じ舞台でデビューし、それから45年間、それぞれにキャリアを築いてきた“同志”が改めて互いを敬愛し、友情を確かめ合うようなニュアンスが、この光景には滲みます。
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
そんな二人が後ろ手に手を繋ぎ、舞台奥へと歩んでゆくラスト……。“人生は素敵”。そう心から思わせてくれるポジティブな“気”に満ちた、極めつけの『ラ・カージュ・オ・フォール』です。
*次頁で2013年9月のインタビューをお届けします!