次々の新薬! 患者の生活も変化…
私は、ボーラスインスリンを2種類、ベーサルインスリン(2回/日)は1種類を使います。注射針は朝昼晩に各1個のみ。注射針も3メーカーに分けているのは打ち忘れを家族が気付くための工夫です。
そのことを担当医はよく分かっていますが、患者の糖尿病マネジメントの力は個人差があまりにも大きく、どこに問題があるのかは短い診察時間ではとても理解できません。糖尿病は患者自身が治療をおこなう病気ですからその技量を磨きましょう。
今回取り上げる、日常的な糖尿病マネジメントの課題は昔から医療プロバイダーや患者にとってなじみのある身近な問題ですが、容易に白黒をつけることが出来ない問題ばかりです。
例えば今年(2013年)の3月に日本糖尿病学会は「現時点では糖尿病患者に糖質制限食は勧められない」という見解を発表しました。しかし、食事の炭水化物(糖質)の最適の摂取量やエネルギー比率は決められるものではないのです。人間は極めて順応性の高い生物で、極北のイヌイットのような肉食(低炭水化物食)から一切の肉食を拒否する極端な菜食主義のヴィーガンまで、実に多様な炭水化物の摂取量で生きていくことが出来ます。民族の食生活や個人の好み、経済力によっていかようにもなります。糖尿病患者だけが画一を強いられる例外ではないはずです。
ですから今回の日本糖尿病学会の見解は、「糖質制限食はやめようというアドバイス(advice)ではなく、現時点ではリコメンデーション(recommendation、推奨)はできないと言っている」と解釈すべきです。医師のアドバイスは患者への行為行動の実際的な勧告ですが、リコメンデーションはアドバイスよりも意味が弱く、従わなくてもよい意見です。そして、フリーリビングの糖尿病療養生活における勧めは、ほとんどがリコメンデーション(推奨)なのです。次から次へと新しい糖尿病薬が登場し、リコメンデーションも時代と共に変わります。最初に教わったことはなかなか意識から抜けないものですが、糖尿病療養の常識は数年に一度はブラッシュアップしないと時代遅れになってしまいます。
いろいろな答えがある問題が6項目あります。○か×かを考えてから解説を読んでください。
医療プロバイダーの建前と患者の本音を最新の研究成果と照し合わせてみましょう。
あなたの糖尿病管理力をテスト!
問1: 糖尿病治療の食事計画は食品交換表がベストである?これは欧米と日本では意見が分かれると思います。少なくとも米国では×ですし、日本の医師・栄養士は○をつけるでしょう。実際はカーブカウンティングのほうが血糖管理はより正確ですし、プレート法のほうが容易な食事計画だからです。
以前は米国でも多くの糖尿病患者は食品交換表に従って食事を計画していました。建前として、指示どおりの食事をすればカロリー管理、栄養バランスが出来るからです。しかし、糖尿病があっても普通の社会人ですから、食事時間はもとより、外食やテイクアウトを日常的に利用せざるを得ない現代人には注文が多い食品交換表は負担が大きく、自由度があまりにも小さくてめんどうなのです。その割には1型糖尿病のインスリン注射の単位との精度がいまイチだったのです。体重管理はできても低血糖のような血糖管理が不十分でした。
今日の米国では1型糖尿病にはより正確なカーブカウンティングが指導されますし、2型糖尿病では簡単なプレート法で十分な人も大勢います。
食事の好みは十人十色ですから、自分のやりやすい方法を編み出だすことが大切です。そそのかすつもりはありませんが、私はやっかいな食品交換表は性に合わないので実行したことがなく、アバウトな糖質管理でヘルシー食を心掛けてきました。35年間、完璧に合併症を抑えていますから、糖尿病には節度あるヘルシー食がベストだと確信しています。
問2: カーブカウンティングでは食品に含まれる食物繊維の半量を糖質としてカウントする?
これは食品のグラム単位の糖質に見合ったインスリンを注射する1型糖尿病者の高度なカーブカウンティングの場合の悩みです。インスリンを使っていない人や、大ざっぱなカーブカウンティングでは問題になりません。
正解は「net carbs(!?)とカーブカウンティング」をご覧ください。問3: 低血糖のリカバリーをしたら、その後でスナックを取る?
医師と話をしていて一番かみ合わないのは低血糖についての認識です。健常者の医師はインスリンによる低血糖を経験したことがないので、とにかく一大事だと思っています。米国の医学生は医師の管理下で一度はインスリン注射をして低血糖を体験するそうですが、これだってたった一度のことですから、インスリン治療者が日常的に気づく低血糖気味と低血糖症状のニュアンスの相違が分かるわけがありません。
低血糖は血糖測定をすればどのくらいの補糖をすべきか分かりますが、欧米では15ルールと言って、ブドウ糖15gを取って15分待て! です。15分後でも70mg/dl以下と十分に回復してなかったら、30gの糖質相当のフルーツやクラッカーにバターをつけて食べ、ゆっくりとリカバリーさせます。体が小柄な人は最初から10gのブドウ糖でも十分でしょう。低血糖は大好物のスイーツを食べられる絶好のチャンスと思いがちですが、生クリームやチョコレートのような高脂肪のスイーツは血糖のリカバリーが遅く、カロリーも取り過ぎてしまいます。このような、どさくさまぎれのリカバリーは血糖値の乱高下につながりかねません。医療プロバイダーが15(10)ルールを薦めるには理由があるのです。
問4: 注射針・穿刺針は毎回取り換える?
インスリンペンの注射針も採血用の穿刺針も毎回取り換えるのが建前です。そのように指導されていますし、器具の取り扱い説明書もそうなっています。しかし、実生活はそうもいきません。毎日、毎回ともなると本当にめんどうだし、針のスペアをたくさん持ち歩くのもいやです。そして、お金もかかります。
ということで、針の再利用をいとわない人には、手をよく洗い、健康状態のいい糖尿病者に限り、毎日少なくとも一回は針を交換する事を条件に再利用OKというのが米国のエキスパートのリコメンデーションです。もちろん、神経障害、腎臓病や肺炎、がん、その他の疾病のある糖尿病患者は毎回新しい針を使います。針先も痛みますし、針についたバクテリアは4時間も経過すれば増殖を始めているからです。
問5: 採血する指先は必ず消毒する?
正解は洗剤で手をよく洗えば十分です。ベッドで寝ている患者の指をナースが消毒してから採血するのは炎症予防で当然のことですが、日常生活では手洗いの方がいいのです。ぬるま湯を使うことができれば血行がよくなって針の深度をごく浅くできるので痛くないし、汚れや消毒液の残りがないので血糖値そのものが正確になります。
糖尿病患者は慣れるに従って消毒も手洗いも面倒になりがちですが、やはり手を洗えない場面もあるのでポケットコールを携帯しましょう。
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問6: 食前血糖値が高ければ、スライディングスケール表に従ってインスリンを増やす?
食前血糖値に応じて一律に食事のボーラスインスリンを増やす表がよく使われました。これが昔のスライディングスケールです。これから食べる食事の内容や量をまったく無視したものなので、病院で誰がやってもうまくいかないことが多かったのです。今日では患者一人ひとりに応じたコレクション・ファクター(補正インスリン係数)、つまり、1型糖尿病では1単位の超速効型インスリンでどのくらい血糖値が下げられるかをある程度計算できるので、一律の表は時代遅れと考えているエキスパートが欧米では多数派です。
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糖尿病療養は以上のような白か黒か、容易に判定できない問題で成り立っています。リコメンデーションはこのように移り変っていくことをお知らせするのが目的の記事です。白黒は担当医と相談しながら判断してください。