「たいようが かわを くすぐるからよ」
谷川俊太郎さんの詩『川』が、中村悦子さんという画家によって絵本になった作品『かあさん どうして』。お母さんうさぎと3匹の子うさぎたちが、野山の中で交わす会話。ハッとするような最初の会話からひきこまれ、親子が交わす会話と美しい絵に魅了されます。日々の子育てにちょっと疲れを感じた時、心をフワッと軽くしてくれる絵本。お母さんうさぎが子うさぎたちに伝えたかったのは何か、考えてみました。
質問攻めの子どもたち
小さな子どもは、おしゃべりが達者になってくると、「なぜ?」「どうして?」のオンパレード。登場する子うさぎたちも、そんな年頃なのでしょう。森の中を進んでいく中で、「かあさん かわは どうして わらっているの」「かあさん かわは どうして うたっているの」と、お母さんを質問攻めにします。「たいようが かわを くすぐるからよ」「ひばりが かわの こえを ほめたから」。温かい返事が、柔らかい筆致の絵と見事にマッチします。お母さんうさぎは、次は、どんな質問にどう答えるのだろう? はやる気持ちを抑え、絵本の雰囲気に合わせ、ページをゆっくりとめくります。子どもたちのひとり立ち
途中から、お母さんの姿がなくなり、3匹の子どもたちは川沿いを下流に向かって駆けていきます。同時に、文字もなくなります。子どもたちは、子どもたちだけで景色や他の動物の様子を眺め、暗い夜を身を寄せ合って木の根もとで過ごし、やがて季節が変わり、一面は雪で真っ白になります。問いかけに言葉を返してくれるお母さんはいませんが、ひたすら森を抜けていく子どもたちの周りの雪は次第に融け、さらに季節が進みます。お母さんうさぎが子うさぎたちに伝えたかったもの
「川はどうして休まないの?」
お母さんうさぎとのこんなやり取りを繰り返した子うさぎたちは、安全基地であるお母さんの存在がなくなっても、たくましく生きていくエネルギーをたっぷりたくわえました。やがて子うさぎたちは、森を抜け、陽の光でキラキラと輝く海辺に出ます。
「かあさん かわは どうして やすまないの」。
その問いに対し、かつて川の流れを見つめながらお母さんうさぎが子うさぎたちに伝えた言葉が、読み手の心によみがえってきます。お母さんとの時間の回想、めぐる命を想起させるシーンです。
ゆっくり流れる時間、子どもの質問に正解を与えない答えは、効率性や生産性が求められる現代の世の中とは対極にある一方、それらこそが、子どもたちを育んでいくのではないでしょうか。そんな爽やかな読後感が広がります。川の流れのように休むことなく続いていく子育てに身を置く多くの人たちを、この絵本が待っているでしょう。