不思議な風が読者を異界へと誘う『注文の多い料理店』
イギリスかぶれの若い紳士2人が、深い山の中でたどり着いたのは、山猫軒という西洋料理店でした。お腹を空かせた紳士たちは、料理を楽しみにしながら扉に書かれた料理店からの注文に従っていきます。扉を開けるたびに現れる新たな注文の数々。最後の扉の向こうには、いったい何が待っているのでしょうか……。「食べる者」がいつのまにか「食べられる者」へと変わっていく面白さと恐ろしさ。注文の多い料理店に潜む山猫とは何者なのか? 息をもつかせぬスリリングな展開が画家たちを刺激するのでしょうか、絵本になった『注文の多い料理店』は、実に個性的な作品が多く、読者はさまざまな料理店の味を楽しむことができそうです。
■注文の多い料理店 スズキコージ
たくさんの『注文の多い料理店』の中から真っ先に思い浮かぶのは、スズキコージさんの作品です。黒を基調とした独特の雰囲気の絵は、どこか異国的なムードが漂い、原作の童話にピタリとはまります。
原作では、青い眼玉と声だけで表現されている山猫ですが、この絵本では、表紙と裏表紙に山猫がきっちりと描かれています。まるで化け猫のようなその姿は、確かに怖ろしいのですが、どこかユーモラスでもありますね。このあたり、まさにスズキコージさんの本領が発揮された作品と言えます。
蛇足ですが、スズキコージさんの絵は、人により好き嫌いが分かれるところですが、絵本になった『注文の多い料理店』の中では、この作品が群を抜いて人気があります。
■注文の多い料理店 佐藤国男
スズキコージさんの作品に対して、佐藤国男さんはとても人間的な山猫を描いています。表紙を開くと、パイプを手に背広姿で新聞を読んでいる山猫の姿が目に飛び込みます。その傍には、おそらく子分なのでしょう、コック帽をかぶった山猫とウエイター風の山猫が並んでいるではありませんか。
そして、親分とおぼしき山猫が読んでいる新聞「山猫通信」には、「どんぐりさいばん終わる」と書かれています。もちろん、賢治の『どんぐりと山猫』を意識した描画ですね。この趣向、作者の遊び心を感じさせるだけでなく、絵を通して賢治の物語世界に広がりを持たせるという意図があったのではないでしょうか。>> 次は、黄金色の草地で開かれた不思議な裁判を描いた作品をご紹介します