ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2013年9~10月の注目! ミュージカル

まだまだ残暑の厳しいこの頃ですが、演劇界では秋の舞台が開幕に向け、着々と稽古を積み重ねています。その中から、特に気になる作品をガイド・松島がピックアップ。上演中の話題作ミニ・レポート(今回は『next to normal』)も併せ、ご紹介します(開幕したものについては随時ミニ・レポも追加更新します!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

Pick of the Month

観る人ひとりひとりに突き刺さる、パーソナルな問題作『next to normal』
(上演中~2013年9月29日=シアタークリエ、2013年10月4~6日=兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールhttp://www.tohostage.com/ntn/) 
『next to normal』写真提供:東宝演劇部

『next to normal』写真提供:東宝演劇部

17年前のある事件をきっかけに、精神を病むようになってしまった主婦ダイアナ。これまで何とか持ちこたえてきた一家だが、彼女の症状は悪化し、均衡が崩れてしまう。ダイアナは「ノーマル」に戻ることが出来るのか、そして家族の絆は……。

右からダイアナ(安蘭けい)、夫ダン(岸祐二)写真提供:東宝演劇部

右からダイアナ(安蘭けい)、夫ダン(岸祐二)写真提供:東宝演劇部

「精神疾患」という、これまでにないテーマをミュージカルで表現し、ブロードウェイを騒然とさせた問題作の日本初演。オリジナル版に倣い、無機質な鉄骨舞台で展開するドラマが不思議なほど身近に感じられるのは、誰もが躁鬱病にならないとは言い切れない現代の世相に負うばかりでなく、アメリカのキャラクターたちをぐいと引き寄せ、自分の体の中に入れ込んだダイアナ役、安蘭けいさん(シルビア・グラブさんとWキャスト)や夫役、岸祐二さんらの熱演によるところが大きいでしょう。トニー賞最優秀楽曲賞を受賞したトム・キットの音楽は、特定のメロディを繰り返して印象付けるというより、物語に沿ってロックやジャズなど、形態を変えながら絶えず流れてゆくスタイル。弦楽が主旋律を担うナンバーの優しい響きが引き立ちます。

身近な誰かが「ノーマル」でなくなってしまった時、距離を置くのがいいのか、そっと寄り添うべきか。言葉をかけるべきか、かけるならどんな言葉がいいのか。……答えのない問題を突き付けられながらこの家族の行方を見守る観客は、一筋の希望が差し込むそのラストに、人生に対するいくばくかの勇気を得て、劇場を後にする。2009年のブロードウェイ初演以来、この異色作がカルト的な人気を得ている理由は、そこにあるのでしょう。
(ダイアナ役、安蘭けいさんのインタビュー記事も御覧下さい。http://allabout.co.jp/gm/gc/422950/)

*以下は、公演開幕が早い順にご紹介します*

『ドラキュラ』

(上演中~9月8日=東京国際フォーラム ホールC)http://dracula-the-musical.com/
撮影・清水隆行

『ドラキュラ』撮影:清水隆行

近年日本でも引っ張りだこの作曲家、フランク・ワイルドホーンの2001年の作品。ドラキュラ役は一昨年の日本初演に引き続き、和央ようかさんです。女性がこの役を、しかも男優陣に交って演じているのは日本版のみ。しかし実際の舞台を観てみると、逆に男優が演じるドラキュラが想像できないほど、性別を超越した「この世の者ならざる」キャラクターが際立っています。ヒロイン役の安倍なつみさんも、「愛させないで…」という言葉とは裏腹に、ぐいぐいとドラキュラに惹かれてしまうミーナ役を熱演。ゴシックリバイバル時代の原作小説にならい、極端なまでに高さを強調したゴシック風のセットも魅力的な舞台です。

 


『ミュージカル 李香蘭』
(9月8~29日=四季劇場[秋])http://www.shiki.gr.jp/applause/rikoran/index.html
『李香蘭』撮影:上原タカシ

『李香蘭』撮影:上原タカシ

91年の初演以来、何度も再演を重ねてきた、劇団四季の「昭和の歴史シリーズ」第一作。日本人として生まれながら、中国の歌姫「李香蘭」として激動の時代を生きた山口淑子さんの数奇な半生を、李香蘭自身のヒット曲や三木たかしさんのオリジナル曲を織り交ぜつつ描きます。歴史的エピソードも次々に登場し、現代史を短時間で理解できる恰好の機会。日本人として、ぜひ観ておきたい作品です。

「ミニ・レポ」
劇中には第二次大戦末期の悲惨な記録映像や、特攻隊の遺書を俳優たちが語るくだりがあり、観る度に胸にずしりと突き刺さります。初演以来タイトルロールを演じている野村玲子さんは、実際の山口淑子さんが「李香蘭」だった年月よりも長く、「李香蘭」を演じているのだとか。にもかかわらず、少女時代を振り返るシーンで7歳の李香蘭として登場する彼女は、本当にあどけない少女に見えてしまうのが凄い!

 


『タンゴミュージカル ロコへのバラード』
(9月19~29日=東京グローブ座)http://www.duncan.co.jp/web/stage/loco/
『ロコへのバラード』

『ロコへのバラード』

ブエノスアイレスの書店を舞台に、朗読会に集まる人々の夢想を、歌とタンゴで描くショー。世界的なバンドネオン奏者、小松亮太さんが音楽監督を務めます。彩吹真央さんら、2011年の初演メンバーに加え、今回は世界的なタンゴブームのきっかけとなった『Forever Tango』のオリジナルキャスト、クラウディオ・ビシャグラさんが参加! 人生の喜怒哀楽を表現するダンスであるタンゴの魅力を、惜しみなく披露してくれそうです。

「ミニ・レポ」
彩吹さんのスモーキー・ヴォイスと脚線美は、タンゴにぴったり。ビシャグラさんが加わったこともあってか、タンゴ音楽&ダンス部分はいっそう本格的な印象に。長年のタンゴファンとおぼしきご高齢の観客たちも喜ばれていましたし、演劇的な手法でタンゴの可能性を広げている点においても非常に意欲的、かつ評価に値するショーです。「人と関わることっていいな」とじんわり感じさせる内容も、人と人が濃密に関わり合うタンゴダンスの本質と、みごとにシンクロしています。

 


『音楽劇 それからのブンとフン』
(9月28~29日=KAAT神奈川芸術劇場、10月3~15日=天王洲銀河劇場)http://www.horipro.co.jp/usr/ticket/kouen.cgi?Detail=213
『それからのブンとフン』

『それからのブンとフン』

売れない作家、フンが書いた大泥棒ブンが小説の世界から現実へと抜け出し、自由の女神からシマウマのシマまで、勝手気ままに盗み始める。世界は無法地帯と化してしまうのだが……。セリフの多さ、緻密さで知られる井上ひさし作品ですが、そこに音楽が加わると面白さ、親しみやすさはさらに倍増。市村正親さん、新妻聖子さんらミュージカル俳優としても活躍する面々の出演で、荒唐無稽ながら心浮き立つような舞台が展開しそうです。

 


『フォーエヴァー・プラッド』
(プレビュー公演9月29日=志木市民会館パルシティ、10月1~10日=東京グローブ座、10月12~13日=KAAT神奈川芸術劇場、その後北海道、新潟、仙台、宮崎、福岡、大阪、名古屋、東京東大和、越谷、水戸を11月17日まで巡演)http://www.forever-plaid.com/
『フォーエヴァー・プラット』

『フォーエヴァー・プラッド』

人生初めてのショーに向かう途中で交通事故に遭い、死んでしまった4人組のサウンドグループが、一日だけこの世に舞い戻り、自分たちの夢だったショーを実現する。極上のハーモニーに彩られた、おかしくて切ないオフブロードウェイ・ミュージカルが日本上陸を果たします。川平慈英さん、長野博さん、松岡充さん、鈴木綜馬さんという、個性豊かな面々が演じる「仲良し4人組」の歌声や、いかに?!

「ミニ・レポ」
ファンキーな歌唱が絶妙な川平さん、クラシカルな発声が素敵な鈴木さんら、まったく異なる声質の4人が、とっつきやすいメロ ディながら実は難しそうな4声コーラスに取り組む。その姿は、個性も背景も異なる役者が集まり取り組む、“芝居”というものの暗喩のようです。川平さんは期待を裏切らないエンターテイナーぶりですが、今回驚かされたのは鈴木さんの、ピアノ演奏を含めた多才ぶり。長野さん、松岡さんもそれぞれにチャーミングで、4人の魅力を惜しみなく引き出した板垣恭一さんの演出が見事です。伴奏にテープや賑やか編成のバンドを使わず、バイオリン・ベース・ピアノのバンド、 Everlyのアコースティックな音で包み込んでいるのもいい。そして全編の根底にある、「夢半ばで逝ってしまった若者たちが、一日だけこの世に戻って夢 をかなえる」という前提。明るくからりとしているのに、胸締め付けられるほど切なく、そしてあたたかな舞台です。

 


『音楽劇 ヴォイツェク』
(10月4~14日=赤坂ACTシアター、10月25日~27日=シアターBRAVA!)http://www.tbs.co.jp/act/event/woyzeck/
『ヴォイツェク』

『ヴォイツェク』

実際に起こった殺人事件に想を得て、一人の男の犯罪に至る軌跡を描いたビューヒナーの戯曲に、ピナ・バウシュなどへの楽曲提供で知られる三宅純さんのサウンドが加わった音楽劇。演出は、人間の心の闇をあぶりだす芝居に定評のある白井晃さんです。一度聴いたら忘れられない、独特の世界を持つ三宅さんの楽曲を、舞台・映像で活躍する山本耕史さんらキャストが、どう歌いこなすのか。画期的な舞台となりそうです。

「ミニ・レポ」
正常と異常の境はどこにあるのか、人間はそれを決められるのか、と鋭く問うてくる舞台。脆く不安定な精神を抱えるヴォイツェクを全身で表現する山本さんは、「人生」を歌う時だけ、突き刺すようなまっすぐな声で発声。ヴォイツェクの中の“正気”を表現しているかのようです。終盤にはミニマルな装置にもかかわらず、歌舞伎の『夏祭』『女殺油地獄』に匹敵する、グロテスクな殺しのシーンが展開。三宅さんの音楽はジプシー音楽をベースに控えめにたゆたいます。

 


「AllAboutミュージカル」で特集予定、あるいは特集した演目

『コーラスライン』(9月1~23日=自由劇場)
『コーラスライン』撮影:下坂敦俊

『コーラスライン』撮影:下坂敦俊

出演予定・道口瑞之さんのインタビューを「知っているようで知らない『劇団四季メソッド』」で掲載しました!https://allabout.co.jp/gm/gc/427105/

『ロミオ&ジュリエット』(
9月3日~10月5日=東急シアターオーブ、10月12~27日=梅田芸術劇場)
出演・尾上松也さんのインタビューを「気になる新星インタビュー」で掲載しました!http://allabout.co.jp/gm/gc/428305/
 

 

『エニシング・ゴーズ』(10月7~28日=帝国劇場)
『エニシング・ゴーズ』

『エニシング・ゴーズ』

出演・鹿賀丈史さんのインタビューを「Star Talk」で掲載しました! http://allabout.co.jp/gm/gc/431082/

 

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