「胡」の漢字、本来の意味はなに?名前に胡をつけるのはだめなのか
Q:「胡」という字についてお聞きします。男児名に胡の字を「ご」という発音で名前につけました。名付けの本で「長寿」という意味があると書いてありましたので使ったのですが、あとで「顎ひげ、ひげの長い唐人、野蛮人、でたらめな」などの意味があり普通なら人名には使わないと世間で言われていると知ってショックを受けました。「胡」という字を人名に使うのは非常識でしょうか?A:漢字というのは初めはある一つの意味を表現するために作られていますが、そこから時代により、地域により、たくさんの意味を派生しています。胡の字自体は名前に使われることは少ないですが、漢字の成り立ちや意味の変化を知るのにとても良い例ですので、ここで説明をいたします。
胡の字の左側の「古」は保存用の容器を描いたもので、「長く保存する」「定まる」の意味で使われました。たとえば故(コ)の字が作られていますが、もとはながく保存することです。故人というと日本では亡くなった人のことですが、本来はつきあいの長い人のことなのです。また囲いをつけた固(コ・かたい)の字は、変わりにくいことです。さらにニンベンをつけた個(コ)の字は、決まった特定の人のことです。
そして胡の右側の「月」は肉の絵が変化したものです。つまり、「胡」の字はもとは容器と肉を描いた絵に由来していて、原初の意味は長寿でなく、正しくは「保存」です。湖(無くならない水)、瑚(丈夫な宝石)の字にも含まれます。保存用の容器をあらわす酉(ユウ)をつけたのが醐(コ)の字で、ながく保存した食品のことです。
漢字「胡」の意味はどのように変化していったか?
このように「胡」の字はもともとは「保存」の意味ですが、それより、年寄りのたるんだ顔の肉とか、ヒゲの意味も出て、ヒゲの多い異民族もあらわし、中央アジアの意味にまでなりました。そんなわけでこの字は日本では「えびす」と読まれたりします。そして中央アジアから伝わった調味料が胡椒(こしょう)や胡麻(ごま)であり、中央アジアの楽器が胡弓(こきゅう)であり、中央アジアの人のすわり方が胡坐(あぐら)です。胡の字は日本ではあまり名前に使われませんが、はるか昔の中国で、秦の始皇帝が子の名前に「胡」の字を使ったのは有名な話です。また中国では「胡」という名字もあり、チベット政策でまるで逆の政策をとった胡耀邦総書記、胡錦濤国家主席はともに「胡」という名字です。
漢字というのはこのようにいろいろな経緯とともに意味も変化してきているのですが、辞典というのはそれらのたくさんの意味を並列させて書いていますので、初めの意味が何であったのかというのはつかみにくいのです。
そして熟語というのは、個々の漢字を組み合わせて別の意味を表現したものです。胡乱(ウロン)という熟語には「でたらめ」の意味がありますが、熟語から一つ一つの漢字の意味を考えると逆思考になって間違えます。
「瑚」や「湖」は女の子の名前に多い
ところで「瑚」の字は、珊瑚という熟語のときはゴと読みますが、1字ではコとも読みます。瑚や湖は、とくに多くはないですが名前に使われることがあります。そしてどういうわけか、女の子の2音の名前でよく使われるのです。女の子の名前のコで終わる名前では、マコ、リコといった2音の名前が今でも人気があります。最も多く使われるのが真子、莉子の字です。ただそういうよび名でつけたいという人の中で、「子」の字はあまり好きでないという方もいて、その場合は湖や瑚の字が使われたりするのです。つまり理瑚、里瑚、莉瑚、梨瑚、理湖、里湖、莉湖、梨湖、などとするわけです。そのほかに瑚々(ここ)という名前もつけられています。
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