おとぎ話に風刺を効かせた、猫の冒険ミュージカル『人間になりたがった猫』
『人間になった猫』撮影:阿部章仁
〈こんなファミリーにお勧め!〉
- 子供が最近「友達とうまくいかない」等、人間関係に悩みだした。(←「人は支え合ってこそ生きてゆくもの」という人間社会の根本を、猫の視点を通すことで素直に見つめ直させてくれます!)
- 勧善懲悪が好きだけど、悪をとことん追い詰める話はあまり子供に見せたくない。(←悪役は最後に改心。安心して観ていられます!)
- 帰り道に親子で口ずさめるようなナンバーのある作品がいい。(←「人は~みんな誰でも~」で始まる主題歌『すてきな友達』は、親しみやすく、すぐ覚えてしまえるメロディです!)
- スペクタクルも見たい!(←後半のクライマックスは火事のシーン。「見どころ」で詳述しますが、刻々と建物が燃え落ちる中での救出シーンには、大人も子供もはらはらどきどき!)
〈何歳から大丈夫?〉
『人間になりたがった猫』撮影:阿部章仁
〈どんなミュージカル?〉
アメリカの作家、ロイド・アレクサンダーによる同名の児童文学を舞台化した、猫の冒険物語。勧善懲悪ストーリーの中に人間社会への風刺を効かせた、ひねりのある内容ですが、鈴木邦彦さんの親しみやすいメロディ、森英恵さんの楽しくカラフルな衣装の魅力もあいまって、劇団四季の30以上に及ぶファミリーミュージカルの中でも、公演回数1700回以上という最多記録を持つ名作です。
〈物語〉
『人間になりたがった猫』撮影:阿部章仁
〈ここが見どころ!〉
・魅力的なキャラクターたち
主人公のライオネルは、森の奥深くで暮らし、純粋培養でけがれを知りません。そのため人間界に飛び込むと、町の人たちに「この人大丈夫?」と心配されますが、ぶれることのないその「まっすぐな心」が人々を変え、さらには奇跡を起こします。他にも、自分勝手だけどどこか憎めない悪者スワガード、少女漫画のようにかわいらしい衣裳に似合わず、気骨ある宿屋の娘ジリアンなど、それぞれに個性的かつ分かりやすいキャラクターたちが、物語を生き生きと彩ります。
・大道具スタッフのこだわりと工夫の結晶、火事場シーン
『人間になりたがった猫』撮影:阿部章仁
・ほどよくまぶされた、かわいい「笑い」
人間社会を風刺的に描いたくだりもあるため、シーンによっては厭世的な印象を与えてしまいかねないのですが、それを救っているのが随所にまぶされた「笑い」の要素。部下のコーラスを従えてスワガードが片思いを歌う「いとしのジリアン」は、いじらしくもコミカルで、悪者の彼が急にかわいらしく見えてしまうナンバーです。ライオネルが薬売りのタドベリさんに「キス」を教えてもらうくだりも微笑ましく、人間嫌いのステファヌス博士が、人間界でのライオネルの様子を心配するあまり、彼の行く先々に変装して現れるのもご愛嬌。インテリアだとばかり思っていた〇〇が実は!という登場もあるので、場面が変わるごとにまず「ステファヌス博士探し」をするのも面白いかも?!
・四季ファミリーミュージカルのお約束、「一緒に歌おう!」
この演目でも、カーテンコールには主題歌を俳優たちと観客が一緒に歌う趣向があります。恥ずかしがるのは損、損! 伴奏が大音量で鳴っているのでうまい下手は関係ありませんし、俳優さんたちも一緒です。お芝居の余韻に浸りながら、親子で声を出してみては?後々、「あの時、一緒に歌ったね」と、いい思い出になるかもしれません。
《子連れ観劇レポート》
『人間になりたがった猫』撮影:阿部章仁
四季のファミリーミュージカルでは、公演によっては終演後に俳優たちがロビーに繰り出し、観客を見送ってくれるのですが、この日もカーテンコールで代表の俳優の「ロビーでお待ちしてまーす!」を合図に、俳優たちは通路を通って外へ。お芝居の世界と現実が突然交わったためか、子供は目をまん丸くしていましたが、ちゃっかり大勢の俳優さんに頭をなでてもらったり握手をしてもらい、上機嫌に。3歳児の身長に合わせてとっさに屈みこみ、心をこめて両手を握ってくれたお兄さんの姿からは、ご本人の人柄がうかがえ、ママにとっても観劇の嬉しい「おまけ」となりました。
《子連れ観劇レポートその2(2016年3月)》
『人間になりたがった猫』写真提供:劇団四季
『人間になりたがった猫』写真提供:劇団四季
『人間になりたがった猫』写真提供:劇団四季
お目当ての、衣裳のかわいいジリアン(この日は五所真理子さん)に握手をしてもらって劇場を出た後、子供がぽつりと言っていたのが「悪い人たちが、いい人になって良かったね」。5歳にもなると、悪人が改心するということのカタルシスを感じられるようになるのだなあ、とちょっと嬉しくも感じられた鑑賞でした。
*公演情報*『人間になりたがった猫』上演中~2016年4月10日=東京・自由劇場