災害で住まいが失われても住宅ローンはなくならない
被災後の生活再建が困難に「二重債務問題」
住宅取得では昨今、長期・多額のローンを組むことが前提となっています。低金利を背景に、物件価格の100%どころか120%ローンを提供する金融機関もありますし、さらに若年層では「頭金」という言葉はもはや死語に。しかしながら、遠い先まで多額のローン返済リスクを抱える状況は、言うまでもなく家計に多大の負荷がかかります。さらに、震災はいつ・どこで起きてもおかしくないといわれている今、過大な住宅ローンは、私たちをさらに厳しい状況に陥れてしまいます。それは住宅全壊など、住まいを失う最悪の場合でも、将来の住宅ローンはなくならず、新たな住宅確保により二重の住居費負担が発生してしまうことです。
2011年6月末、すなわち震災3か月後時点で、住宅ローン等の約定返済停止すなわち返済を一時的にストップしていた債務者数は6176件、債権額は86.1億円でした。2013年2月末現在の同データによると、約定返済停止を行っている債務者は260件、債権額は36億円までと震災直後からは減っています。しかしそれは、ローンの条件変更契約を結んだケースが時間の経過とともに増えているためです。2013年2月末データでは、契約変更を行った債務者は7391件、住宅ローン債権額は19.6億円となっています(金融庁調べ)。
条件変更を行っても、それまでの住宅ローンはもちろん免除されません。一定期間、元本を据え置いたり、返済期間を延長したり、一定期間返済額を引き下げたりして、当座の生活が落ち着くのを待っているだけで、借りた分の返済を続けなくてはならないことに変わりはありません。この一方で、新たに住まいを確保しなくてはならないという、非常に厳しい状況が発生しているのです。
住宅は、私たちにとって生活の基盤ですが、国からみれば一介の「私有財産」に過ぎません。さらに住宅ローンは財産を得るための手段ですから、「国民の財産に税金を投入して補償を行わない」政府の立場からすると、こうした苛烈な状況におかれた被災者であれ、自力再建が基本とされている現実があるのです。
「私的整理」による債務免除で被災者の生活再建を後押し
そうはいっても、「二重債務(二重ローン)」に陥る被災者の方々は東日本大震災後も多数にのぼり、被災者の生活再建のみならず地域復興をも著しく阻害する深刻な問題であり、国としても手を拱いているわけにはいきません。そこでこの問題への対応として、2011年の東日本大震災後、政府の二重債務問題への対応方針が示され、銀行などの金融機関の関係者や学識経験者らの議論を経て設けられたのが「個人債務者の私的整理ガイドライン」です。個人債務者が自己破産をせずに債務免除などを受けられるしくみで、2011年8月から運営されています。
ガイドラインの適用対象となるのは、住宅ローンを借りている個人あるいは事業資金を借りている個人事業主で、震災前に借り入れていた住宅ローンや自動車ローンなどの借り入れの返済が困難となる、あるいは今後返済困難になることが見込まれる被災者の方。この方たちの再スタートに向け、新たな借り入れが困難となる問題の解決を目的としています。
破産などの法的手続きでは、信用情報機関に債務整理に関する情報が登録されたり、その結果、クレジットカードが作れないことがありますが、ガイドライン利用で債務免除を受けても、こうした不利益を受けることはありません。
次のページでは、ガイドライン適用の手続きと免除の実態について解説します。