2016年4月23日昼の部「四季劇場・春」公演観劇レポート
~ヤングシンバ役を経験した初のシンバ役者が誕生~

『ライオンキング』シンバ=海宝直人undefined撮影:山之上雅信

『ライオンキング』シンバ 海宝直人 (C)Disney 撮影:山之上雅信

この日は週末とあり、子連れ客も多数。和やかな空気の中に福井麻起子さん演じるラフィキの、ひときわ明るい一声「ナーンツィゴムニャ~」が響き、サバンナの動物たちが登場します。生まれたばかりのシンバが披露され、生命の喜びに満ちたテーマ曲「サークル・オブ・ライフ」が終わると、場面はシンバに王位継承第一位の座を奪われたと不満顔の叔父、スカーの住処へ。開幕当初からムファサ、そしてスカーを演じ続けている野中万寿夫さんが自由自在のマスク操作、高低の声を使い分けた絶妙の台詞術で、ディズニー・ミュージカルの中でも稀代の悪役を、さらに豊かに膨らませます。とりわけムファサ暗殺の指令をハイエナたちに下すナンバー「覚悟しろ」では1オクターブを自在に上下、間奏部分も細やかに振りをつけ、憎々しさは歴代随一?
『ライオンキング』撮影:山之上雅信

『ライオンキング』左・スカー(野中万寿夫)(C)Disney 撮影:山之上雅信

対するこの日のムファサ役は、内海雅智さん。やはりこの役を何年も手掛ける中で、王としての貫禄と父としての愛情深さを増し、ヌーの暴走に巻き込まれたシンバを助けに行くクライマックスでは、まず子供を助け、続いて自分も避難しようとするも後ろからヌーに突かれて滑り落ちる、けれど力を振り絞って断崖に爪を立て登るが、あと少しというところで弟の裏切りに遭い……という一連の流れを、多くの要素が登場する大音量場面の中で輪郭太く演じ、胸を打ちます。続いてラフィキが彼の亡骸を発見して歌う弔歌(ラメント)では、福井さんの変化自在の歌声にエスニックな風合いがあり、本作がエルトン・ジョンによるポップなメロディとアジア、アフリカ文化が融合したユニークな作品であることを思い出させます。
『ライオンキング』撮影:下坂敦俊

『ライオンキング』左・プンバァ 川原洋一郎、右・ティモン 大塚道人(C)Disney 撮影:下坂敦俊

王国を飛び出したシンバがジャングルで新たな仲間に出会うシーンでは、パリッとした台詞と身のこなしが小気味いい大塚道人さんのティモン(ミーアキャット)、開幕当初から同役をおおらかに演じ続ける川原洋一郎さんのプンバァ(イボイノシシ)が、コミカル演技で舞台の空気をがらりとチェンジ。彼らが楽天的な生き方を説くナンバー「ハクナ・マタタ」の途中で、それまでしっかりした演技を見せていた吉村颯雅さんのヤングシンバは袖にはけ、数小節後にターザンよろしく、ロープに飛び乗った大人シンバが登場します。かつて開幕当初にヤングシンバを演じ、この日が(大人)シンバ役デビューとなった海宝直人さんは、いわゆる“細マッチョ”な体型に大ぶりのマスクがよく映え、輝くような笑顔がジャングルという新世界への順応ぶりを物語ります。
『ライオンキング』撮影:上原タカシ

『ライオンキング』ラフィキ 福井麻起子(C)Disney 撮影:上原タカシ

続く2幕、アンサンブルによるアカペラの「ワン・バイ・ワン」では、端緒を切る龍澤虎太郎さんが前方に手を伸ばし、撫でるように動かすことで場内の空気がしゅっと鎮まる。ラフィキに通じる呪術的な所作に説得力があることで、作品に奥行きが現れます。2幕、登場早々スカーに迫られ、王国を飛び出す決意を歌う(今や)大人ナラ役は、谷原志音さん。声の太い方が歌うことの多い「シャドウランド」を、やや高い声域の彼女が言葉を噛みしめつつ、高音に希望を込めるかのように歌い、新鮮な魅力を放ちます。
『ライオンキング』撮影:阿部章仁

『ライオンキング』ナラ 谷原志音(C)Disney 撮影:阿部章仁

ティモン、プンバァと星空を眺めるうち、幼少期の父の言葉を思い出すシンバ。“ハクナ・マタタ”を標榜しつつもどこか満たされない彼が迷いを吐き出すナンバー「終わりなき夜」では、父の面影を求めるばかりだった彼が一歩前に踏み出す瞬間が、海宝さんのきめ細やかな歌唱(“そうだ、そうなんだ”での鮮やかな変化、そしてのびやかに放たれる最後の高音)によって明確に表現。その後ナラに帰還を促されて一度は殻に閉じこもるも、ラフィキ、そして父の魂との対話を通して大きな決断に至り、「王となる」では凄まじい気迫を全身に漲らせます。

そしてクライマックスでは、シンバの帰還に驚きつつもその気迫を跳ね返さんばかりの存在感で対抗する野中スカー、そして決戦において鋭く、力強い動きを見せる雌ライオンたちの好演により、スリルが倍増。勧善懲悪のカタルシスが強調され、王となったシンバがプライドロックを登る最終シーンがひときわ感動的に映ります。

かつてヤングシンバとして無邪気に(?)登ったプライドロックを、時を経て、今度は青年シンバとして登る海宝さん。精悍な表情で一段一段、踏みしめてゆく姿にはシンバの成長と彼自身の半生とが二重写しになり、今も彼のヤングシンバが目に焼き付いている身としては、感慨を禁じえません。カーテンコールでは場内が総立ちとなり、海宝シンバのデビュー、いや帰還を温かく祝福。17年という驚異的なロングラン記録を持つ『ライオンキング』ならではの、幸福なエピソードがまた一つ誕生した一日でした。


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