メンタルヘルス/依存症(薬物依存症・アルコール依存症等)

認知症・記憶障害・精神病様症状…飲酒習慣のリスク

社会生活上、おつきあいなどで避けられない場面も多い飲酒。一方でその弊害はしっかり知っておきたいところです。今回は、もしも長期間、過剰に飲酒を続けてしまった場合に起こり得る、深刻な医学的、精神医学的問題について詳しく解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

飲酒をされる方は、起こり得る弊害は是非、熟知しておいて下さい

飲酒される方は、起こり得る医学的、精神医学的弊害はご存じですか?

飲酒の習慣は私たちの社会文化に深く根付いており、宴会や祝い事などを通じて古来、仲間内での人間関係を円滑にする手段にもなってきました。しかし、一方でアルコール依存症などの、時に深刻な弊害がある場合もあります。

今回は長期間に渡る過剰飲酒が引き起こす可能性がある、深刻な医学的、精神医学的問題について解説いたします。

飲酒と認知症の意外な関係

長期間にわたって過剰に飲酒していた方の一部には、時に認知症的な症状が出現する事があります。脳内に神経病理学的所見が見つかるケースもあり、具体的には、大脳皮質に萎縮が認められる、あるいは脳室が拡大しているといった所見が見つかる場合もあります。

もっとも、その原因自体はアルコールによる中枢神経系へのダメージだけとは一概に見なせない面もあります。飲酒が生活の中心になってしまったことで生じやすい栄養バランスの悪化、あるいは、酩酊時の転倒などによる頭部外傷、さらには長期間の飲酒によって生じ得る肝臓、すい臓あるいは腎臓など体内の諸臓器の機能が悪化してしまった場合も認知症的な症状の出現に関与があると考えられています。

飲酒される方に起こりやすいビタミン不足

長期間にわたる過剰の飲酒が原因で、時に記憶障害が生じ得る事はよく知られている通りです。その特徴は記憶の中でも特に短期記憶が障害される事。記憶障害は急性期の症状としても、慢性期の症状としても出現する可能性がありますが、記憶障害が出現する背景には長期間、過剰に飲酒された事による中枢神経系へのダメージがあり、記憶障害の出現は35歳以下の若年層では、きわめてまれです。

記憶障害が生じる直接的原因は、飲酒が生活の中心になってしまったため、栄養のバランスが崩れてしまい、生体が必要とするビタミンの一つ、チアミン(ビタミンB1)が欠乏してしまう事。そのためチアミンの投与が、その根本的治療法になります。急性期ならば、一般的にはこれで回復しますが、慢性期の場合は、回復が難しくなってしまうケースもある事から、飲酒される方は、やはり普段から栄養のバランス、特にビタミン不足にならないよう、注意しておきたいところです。

アルコールは精神病様症状の原因になる可能性もあり

長期間にわたる過剰の飲酒が原因で、時に、妄想や幻覚など精神病様症状が短期間、出現する事もあります。例えば、「誰かが自分に何か悪い事をしようとしている」、あるいは「自分の日常生活が、こっそり誰かに監視されている」といった被害妄想が出現したり、場合によっては、自分を非難するような声が幻聴として聞こえてくる事もあります。

こうした妄想や幻覚は、代表的な心の病気の一つ、統合失調症にも現われやすい症状ですが、もしも、その初発が40代以降の中年層ならば、統合失調症よりむしろ、脳内の器質的病変などが、原因である事も少なくなく、アルコールもその一つ。もしもアルコールだけが精神病様症状の原因である場合、断酒後、しばらく時間が経過すれば、精神病様症状は消失していきますが、もしも、アルコールが再び体に入るようになれば、精神病様症状が再発してしまう可能性があります。

アルコールへの誤解がその弊害を大きくしてしまう事も!

アルコールには誤解が少なからずあるもので、例えば、もしも、「寝酒は睡眠薬代わり!」と思われていたら、それは重大な誤解。実は、アルコールは睡眠の質を悪くしてしまう傾向があり、例えば、夜中に何度も目が覚めてしまうなど、かえって、睡眠障害の原因になりやすい事には要注意。

また、慢性的に冴えない気持ちに対処するため、アルコールがその手段となっているような場合、依存症に要注意であるだけでなく、実は、飲酒自体が冴えない気持ちの原因になっている可能性もあります。断酒後、しばらくすると、冴えない気持ちが無くなり、元の自分に戻れる可能性がある事は是非、ご留意していただきたいところです。

また、意外に聞こえるかも知れませんが、長期間、過剰に飲酒された事が原因で、性機能不全に陥ってしまう可能性もあり、夜のおつとめを果たせなくなる原因の一つに実はアルコールがある事は、知っておきたい事だと思います。

以上、飲酒の様々な弊害を述べて来ましたが、もちろん、飲酒される方の多くは上記のような症状が現われるほど長期間、過剰に飲み続けている訳ではなく、上手にお酒と付き合っておられます。それでも日常生活上の何らかの困難のため、時に心的負荷が強くなり過ぎる事は、誰にでもあるはず。そんな時こそ飲酒量の急増には要注意ですが、たとえ飲酒量が急増したとしても、本人自身はなかなか自分の飲酒に問題があるとは認識しにくい場合もあります。もしも身近な人、たとえば、ご家族の誰かが、それまでの本人では、ありえような飲酒パターン、例えば、台所でこっそり、朝から酒を飲んでいた事に気付いたような時は、問題が上記のように深刻化しないためにも、なるべく早く精神科(神経科)などで、相談される事を是非、ご検討したいところです。
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