劇団四季『エビータ』撮影:上原タカシ
今冬再演が予定されている『Chess in concert』(梅田芸術劇場)撮影:村尾昌美
ミュージカルに最も必要なのは「力強いストーリー」
「今回の企画は、作曲家のスチュアート・ブレイソンから持ち込まれたものです。私は何年も前、彼がまだ『ポップ』というロックバンドでボーカルをやっていた頃からスチュアートを知っているのですが、作曲家としてとても才能に溢れ、ぜひミュージカルを書いてみたらと応援してきました。以来、彼は時折『こんな作品はどうだろう』とデモテープを持ってきたのですが、その中で目を引いたのが『地上より永遠に』という企画。ミュージカルにとって一番大切なのは、実は音楽ではなくストーリーです。この原作小説にはとても力強いストーリーがあることを、私は以前読んで知っていました。デモテープにも何曲か、とてもいい曲があり、これは(舞台化を)進めるべきだと思えました。ジョーンズの遺族から数年がかりで上演権を取得し、気が付いたらプロデューサーも兼務していたのです」
『地上より永遠に』の宣伝チラシ
――主人公の二人の軍人は、一人は上司の妻、もう一人は娼婦と恋に落ちる。とてもドラマティックなラブストーリーですね。
「二組とも、難しい状況で始まる恋ですが、それゆえに燃え上がります。そこにさらに、戦争という背景が加わり、彼らは運命に翻弄されてゆくのです」
――プレビューは9月30日、初日は10月とのことですが、現在はどんな段階でしょう?
「台本と譜面はもう出来上がっていて、クリエイティブ・チームも編成済み。演出のタマラ・ハーヴィーは主にストレート・プレイを手掛けてきた若手ですが、今回は台詞の多い芝居なので、彼女にお願いしました。
現在は私も立ち会いながら、キャストオーディションを行っているところです。日本の皆さんもご存じの有名な映画俳優にも何人か会いましたが、今回は知名度より実力を重視しています。ポイントは、歌唱力も演技力も兼ね備えているかどうか。『歌はいいが、台詞になるとがくっと落ちる』ような俳優をときどき見かけますが、そういう役者はこの作品には向いていません」
自宅の庭でくつろぐティム・ライス氏。(C) Marino Matsushima
――現時点で、どんな仕上がりが予想されますか?
「タマラは先日、ワークショップ(予備稽古)を行ったのですが、とてもいい出来で、ストーリーラインがさらに力強くなってきました。本稽古の始まるのが楽しみです。
最近のウェストエンドはジュークボックス・ショー(注・特定のアーティストのヒット曲を物語にはめこんで上演するミュージカル)が多いので……その中には私の好きなものもありますが……今回、『地上より永遠に』が久々のミュージカルらしいミュージカル、それもイギリス産の作品として風穴を開けられれば、と願っています。日本の皆さんもぜひ、楽しみにしていてください」
『地上より永遠に』はロンドンで開幕後、ブロードウェイでの上演も視野に入れているそう。その先にはもちろん、日本での上演も有り得るでしょう。ティムの久々の新作としてだけでなく、無名の作曲家による史上初のウェストエンド上演作品として、本作は現地で大きな話題を集めています。まずは、今秋の開幕を楽しみに待つこととしましょう。