オー・プロヴァンソー(半蔵門) ~フレンチ~
私は、1軒のお店に何度も通う場合、基本的にはその都度違う料理を食べたくなります。私だけではなく、そのような方も多いことでしょう。しかし、「何度行ってもこの一品だけは決まってオーダーする」というようなケースも稀にあります。そのほとんどが、「カレー」、「コロッケ」、「ハンバーグ」といった誰もが知っている食べ物。見た目は普通でありながらも(見た目の華やかさなどではなく)、舌で感じるその味わいに他店とは異なる圧倒的要素が感じられる時です。和牛ロース肉を使った「オー・プロヴァンソー」の“和牛タルタルステーキ”は、まさにその代表格とも言える逸品。一般的にタルタルは味つけをそれほど強くしない傾向にありますが、この一品はヴィネガーやマスタード、タバスコ、リーペリンソースなどの酸味、辛みをしっかりと効かせたインパクトある味わいです。肉のおいしさを活かすために何も加えないのではなく、酸味や辛みをしっかりと盛り込むことで、肉本来の旨さを伝える。そのテクニックがとにかく素晴しいですね。このキレのいいシャープなタルタルと、つけあわせのフレンチポテトを豪快に頬張り、なおかつそこにビールをゴクリ。思考能力は完全に崩壊です。
また、「ソースの旨さがフレンチの基本」と語る中野シェフの言葉通り、同店の料理はいずれもソースが印象的。濃厚で深みのある味わいながらも、後口は実に軽快で、記憶に焼きつく見事な出来映えです。まさにフランス料理の神髄を実感できるお店。肩肘張らずに食事を楽しめるその空間も、通い詰めたくなる要素のひとつだと言えるでしょう。