スウェーデン生まれの心温まる絵本『ペトラ』
北欧の国スウェーデンから、それはもう奇想天外な絵本がやってきました。どれくらい奇想天外かといえば、ひょうの体の模様が自由自在に動きだし、あろうことか、模様の1つがひょうの体を離れて外界へ旅立つというのです。でも、そのプロットに騙されてはいけません。実は『ペトラ』は、愛する者の自立をテーマにしたとてもハートフルな絵本なのです。自立には、少しの勇気と信じる気持ちが必要だ
ひょうのペトラの体には、1000個の模様が付いています。ところが、ある朝目覚めると、その模様のうちブチだけが見当たりません。あらまあ、体の模様の1つ・ブチがまた逃げ出したらしいのです。あちらこちらを探し回り、なんとかして自分の体にブチを戻そうとするペトラに対し、自由を求めるブチは逃げまわってばかり。とうとう、外の世界へ飛び出した小さなブチの行動が、やがてペトラに大きな気づきを与えます。イラストレータである作者トーレの絵はとても魅力的で、逃げるブチと追うペトラのやりとりが、ユーモアたっぷりに描かれます。ペトラのとぼけた表情も愛らしい。でも、ブチが旅立つシーンだけは、他のページとは全く違います。
外は白夜なのでしょうか、空が少し明るく見えます。雪原に立つ広葉樹はすべて葉を落とし、針葉樹は黒くとがっています。北欧の厳しい冬の風景の中へ、ただブチ1人だけが弾けるように飛び出していく。そして、自立の道を歩み出すブチを見送るペトラ。2人の関係や想いが集約された、特別な場面といってよいでしょう。
私たちは「自立」という言葉を簡単に使いますが、ブチを我が子のように思うペトラの立場に立ってみれば、自立をそう簡単に認めることはできません。ペトラは、心の底で「どの模様も同じように、自分の体で穏やかに暮らして欲しい」と思っているのです。その一方で、「ブチに思い通りの人生をおくらせたい」と願うのもまたペトラの正直な気持ちでしょう。その葛藤は、母親の心情そのもので、読者の胸にグッと迫るものがあります。
愛する者に自立の道を歩ませるには、「少しばかりの勇気と相手への信頼が必要だ」とペトラが教えてくれました。その勇気と信頼があれば、自立する者だけでなく、自立させる者にも成長という大きなプレゼントがもたらされるのかもしれません。入園や入学など、自立に向けて、初めの1歩を踏み出すお子さんとそのご両親にぜひ読んでいただきたい作品です。
【書籍データ】
マリア・ニルソン・トーレ:作 ヘレンハルメ美穂:訳
価格:1575円
発売日:2013/3/2
出版社:クレヨンハウス
推奨年齢:5歳くらいから
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