胸が痛む自死報道……身近な人の心の危機に気づくことはできるのか

悩む人を支える方法

もし身近な人が深く悩んでいることに気づいたら…私たちはどのように支えになればよいのでしょうか?

近年、著名な方の自死の報道が続いてしまっていることで、心を痛めている方も多いと思います。太陽のように明るかった芸人さん、パワフルだった俳優さん……。こうした方々が自ら命を絶ってしまったと聞くと、「なぜあの人が?」と信じられない気持ちになってしまいます。

その結果に至った背景はご本人にしかわかりませんが、コロナ禍で人と人との絆やつながりが薄れたことで、多くの人の心の健康が損ねられているのではないかと懸念されています。誰しも、人との会話が少なくなり、一人だけで過ごす時間が増えると、物事を深刻に考えてしまいがちになるものです。

家族だけで身近な人の心の危機を守るのには、限界があります。それぞれの心の中の問題には、身近な人であれ、気づくのは難しいものです。残された方も決してご自身を責めないようにしていただきたいです。一方で、もしも何かの異変があらわれていて、それに気づけた場合には、私たち一人ひとりが、悩んでいる人を自殺の危機から守る門番として、「ゲートキーパー」の役割を担っていく意識が必要です。そしてその意識は、今後もますます必要になってくるものだと思います。
 

「メンタルヘルス・ファーストエイド」とは

とはいえ、「思いつめた人の気持ちに気づけたとして、どのように相談に乗ればいいのか」と、疑問を持つ方も多いことでしょう。

対応方法の一つに、「メンタルヘルス・ファーストエイド」があります。とても分かりやすく、実践しやすい方法ですので、ご紹介したいと思います。

これは、オーストラリアで開発されたメンタルヘルス初期支援マニュアル『Mental Health First Aid』をもとに、日本の精神科医のグループが日本語版に改訂して発表したものです。具体的には、「り・は・あ・さ・る」の5つのステップで展開されています。このステップを、日本版「メンタルヘルス・ファーストエイド」をもとに解説していきましょう。

(1) り:リスク評価
「り・は・あ・さ・る」の「り」は、「リスク評価」の「り」。リスク評価とは、日常の何気ないやりとりのなかから、自殺の危険をチェックすることです。「自殺をどの程度まで具体的に考えているのだろうか?」「死ぬための具体的な計画や準備をしているのだろうか?」など、相手の話の中に表れる言葉や、顔色、声の様子を確かめたりして、自殺のリスクがないか、探っていきましょう。

(2)は:判断(はんだん)・批評せずに話を聞く
「り・は・あ・さ・る」の「は」は、「判断(はんだん)・批評せずに話を聞く」の「は」。相手の話を自分の価値観で判断したり、批評したりせずに、相手の立場に立って聞きましょう。

(3) あ:安心(あんしん)と情報の提供
「り・は・あ・さ・る」の「あ」は、「安心(あんしん)と情報の提供」の「あ」。「必要な医療を受ければ、今よりも楽になる」など、安心につながる情報を伝えましょう。

(4) さ:サポートを得るように勧める
「り・は・あ・さ・る」の「さ」は、「サポートを得るように勧める」の「さ」。医療機関や身近にあるさまざまな専門相談機関でサポートが得られることを伝え、相談を勧めてあげるといいでしょう。

(5) る:セルフヘルプを勧める
「り・は・あ・さ・る」の「る」は、「セルフヘルプ」の「る」。その人が、無理なくできるセルフヘルプの方法(リラックス法、自助グループへの参加など)を一緒に考えてあげましょう。
 

大切なのは相手の立場に立って話を聞くこと

「り・は・あ・さ・る」の5ステップのように、相談に乗る側は、まず相手のリスクを評価し、気持ちに寄り添ってしっかり話を聞くことが大切です。その上で、問題解決につながる専門機関(医療機関、各種相談窓口など)への橋渡しをしたり、セルフヘルプの方法を勧めてあげたりすることも大切です。

「死んでしまいたい」と思うほど悩んでいる方は、悩み過ぎたことによって冷静な判断力が失われていることが多いものです。しかし、誰かがその方が発するリスクのサインに気づき、しっかり耳を傾けて話を聞くことができれば、その方の気持ちは楽になり、つらい思いを少しでも楽にすることができるかもしれません。

「こうすればよかったのに」「死ぬなんて考えてはダメだよ」といったアドバイスは、相手をますます追いつめてしまうことがあります。それより、じっくり最後まで、相手の立場に立って話を聞くこと。そして、最後に「あなたを支えたい」「生きていてほしい」というメッセージを伝える方が、相手の心に響きます。
 

信頼できる相談窓口を調べて確実につなぐ

また、悩んでいる人を救うためには、医療機関をはじめ、各種の専門的な相談窓口の情報を知っておく必要があります。

借金や生活苦などのお金の問題、DVやパワハラ、虐待などの人権の問題、家庭や育児の問題、就職、仕事上の悩みなど、その人の状況に合った、安心できる相談窓口に確実につなぐことが大切です。そのためには、ただ連絡先を教えるだけでなく、そばにいるときに予約をとるサポートをしたり、初回の相談に同行するなどの、きめ細かい心配りも大切になります。

ただし、残念なことに、追いつめられている人の心理を利用して、勧誘やセールスを行う団体やビジネスなども少なくありません。精神的に追いつめられた人は、強引な扇動に流されやすい状態にあります。よく調べずに、安易に怪しげな相談窓口の情報を伝えてしまうと、問題が解決するどころか、さらに複雑な問題を抱え込んでしまうこともあります。伝える情報は正しく、安心できるものにする必要があります。

いちばん確かなのは、行政や公的機関が公開している相談窓口の情報です。地域の保健センターや保健所、精神保健福祉センター、市区町村や社会福祉協議会などの窓口に概要を話して、相談窓口を案内してもらうといいでしょう。
 

私たち一人ひとりが「ゲートキーパー」として協力する

そして、支える側の人も一人きりでその問題を抱えないことです。本人の了解をとって(緊急の場合を除く)、その方の家族や友人、所属先の上司など、信頼できる人に事情を伝え、協力を仰ぎましょう。また、支える側本人も、職場の精神保健スタッフや、保健センター、保健所、精神保健福祉センターなどに相談しながら、アドバイスを仰いでいくと安心できます。

ゲートキーパーは、誰もが担える役割です。「死にたい」と思う人は、抱えている問題さえ解決できれば「本当は生きたい」と思っているのではないでしょうか。ぜひその切実な気持ちに寄り添い、適切な相談窓口につなぎ、悩んでいる人を自殺の危機から守ってあげましょう。
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