過激一辺倒ではない、上質な楽しみに満ちている
Mパフォーマンスオートモビルズの提供するモデルが、本当にMらしいクルマなのかどうか、それがBMWファンならずとも気になるところだ。結局のところ、それを決めるのはスペックではなく、乗り味である。結論からいうと、M135iは、上質な楽しみに満ちたクルマだった。決して過激一辺倒じゃない。スタンダードモデルの美点である、豊かなライドコンフォートを損なうことなく、かといって決してヤワなイメージを与えることもなく、洗練されたスポーツテイストを実現しているあたり、純然たるMモデルの最新テイストとよく似た方向性を感じたし、その楽しみの有り様もまた、スタンダードよりではなく、Mに近いものであったと断言していい。
もう何度も乗ってきたはずの3リッター直噴直6シングルターボエンジンは、これまでのどの仕様よりも肉厚なトルクフィールをみせつつ、レスポンスよく、迫力のサウンドをまき散らしながらパワフルに回ってくれる。右足の裏には常にたくましい“足応え”があって、力強さをずっと感じていられるあたり、実にエンジンコンシャスなモデルでMらしい。アクセルペダルを踏んだり緩めたりすることが、とても楽しいということは、まず、無条件に運転していて楽しいということに繋がる(古いクルマの楽しみを思い出して欲しい)。
スポーツモードで聞く、エンジンまわりのサウンドは、残響もワイルドで、ときにうるさく感じられるほどであったが、右足との見事な連動にMらしい計算された一体感があって、思わず笑みがこぼれた。もちろん、M5&6用のV8ターボエンジンのようにエキセントリックなパフォーマンスではないし、ましてや一世代前の自然吸気エンジンのようなエモーショナルフィールにも乏しい。けれども、コンパクトスポーツの範疇においては、これで上等だと納得させるチューニングレベルである。
ハンドリングも実にMらしいものだった。リニアなクイックさが、次のコーナーこそもっと攻めてみよう、という気にさせる。握りの太いステアリングホイールだけが、いまどき気になったが、それもまたMらしいというべきか……。
加速パフォーマンスは、M3レベルにある。旋回中や減速時など、“入り”と“出”のキレ味があくまでも均等で乗り手に分かりやすい点など、いかにもMらしい仕立て。価格的に旧型のMスポーツの代わりというには、あまりにお買い得過ぎると思われる。
現時点で、もっとも完成度の高いコンパクトスポーツカーだと言ってよさそうだ。クルマ運転好きならば、この、“お買い得なM”を今、楽しんでおかない手はないと思う。