心のセルフチェックをする際、ご自分の精神機能を全体的に捉えてみませんか。その際にはGAFを是非、評価してみて、70以上あるかどうか、ご確認してみてください
とはいえ、心の不調はなかなか自分では客観視しにくいのも事実。例えば、イライラが募っていてちょっとした人の言葉に目くじらを立ててしまうようなとき、相手が自分に敵対的な言動を取ったのではなく、単に自分の心の不調のため、他人の言動に敏感になっていただけだ、と気づくのはなかなか難しいことでしょう。
今回は、心の不調への全体的評価であるGAF(Global Assessment of Functioning; 機能の全体的評価)を取り上げ、精神医学では、どのような視点から心の不調を全体的に評価していくかを詳しく解説します。
GAF(機能の全体的評価)でのチェック項目
GAFでは、まず気持ちの落ち込みやイライラといった精神症状の有無をチェックします。もしもある場合は、その程度ならびに日常生活への影響を見ていきます。そして、もしも日常生活に深刻な支障が生じている場合には、その深刻さをもたらし得る精神症状、例えば、妄想や幻覚に自分の言動が左右されていないかなどをチェックします。そして、さらに自傷行為や他者への暴力的ふるまいなどの有無もチェックして行き、その評価結果は、全く問題のない100から、その極である1まで、以下のような内容にもとづきます。GAF(機能の全体的評価)のスコアーの具体的内容
- 100~91 落ちついた精神状態で自分の能力をしっかり発揮している。周囲の目からも、完全に社会環境に適応していて、その人に精神症状と呼べるようなものは、例えば、ちょっとしたことで思わず怒鳴るようなことはない。
- 90~81 若干の精神症状が仮にあったとしても、それは、ほとんど問題視はできない。例えば、義理の母親にあいさつに行く前、少し気持ちが重くなっていた……といった程度で済んでいて、日常生活をそつなくこなしている。
- 80~71 精神症状はあるものの、日常生活に大きな支障を来たすレベルにはなっていない。例えば、職場で誰かが自分の悪口を言うのが耳に入り、その日は1日中、イライラ気味になってしまったものの、次の日からは普段通りに頑張れる場合。
- 70~61 気分の落ち込みが普段より大きい、あるいは寝つきが悪いなど、軽度の精神症状が見られる。とはいえ、こうした精神症状が原因で、仕事や勉学に大きな支障が出るようなことはない。また、恋愛関係などプライベートな人間関係にも深刻な影響は特にない。
- 60~51 中程度の精神症状が見られる。例えば、それまでとは人が変わってしまったかのように感情の表出が少なく、まわりくどい話し方になっていたり、あるいはパニック発作が折にふれ起こる……といった精神症状のために、日常生活への支障は明らか。例えば、それまでの友人から避けられがちになっっていたり、あるいは職場の人間関係で解決しにくいトラブルが生じている。
- 50~41 精神症状はかなり深刻。例えば、自殺願望が生じている、あるいは何らかの強迫観念がもたらす儀式的行為、例えば、バイ菌への意識が強迫化したため、繰り返される手洗い……といった深刻な精神症状のために、日常生活に深刻な支障が出ている。例えば、それまでの友人は皆、その人から離れてしまった、あるいは、学校での勉学を続けられないような事態になっている。
- 40~31 さらに精神症状が深刻化したため、現実に対処していくのが困難になっていて、日常生活上、深刻な支障が幾つも生じている。
- 30~21 言動が周囲の人には不可解になっていたり、あるいは判断力やコミュニケーション能力が深刻に低下しているため、日常生活全般にわたり、深刻な支障が生じている
- 20~11 自殺のリスクがかなりある、あるいは他者への暴力的ふるまいをコントロールしにくい状態にある。また、自己の身体衛生が著しく不潔であったり、他者と全くコミュニケーションが取れない状態になっていても、このレンジに該当。
- 10~1 自殺のリスクが高まっている、あるいは、もしも誰かが、その人のそばに行けば、暴力を受けてしまう可能性もある……といったように、ひとつ前のレンジ(20~11)で述べた症状が、より顕著になっている場合。
日常的状況でのGAFのスコアー例
次に具体的な日常的状況での心的反応をもとに、GAFのスコアーを付けてみます。例としては、職場で、あまり仲の良くない誰かとすれ違った際、自分は相手に軽く会釈をしたのに、その相手は挨拶を返さずに舌打ちをして通り過ぎて行ったとします。こうしたことは起きて欲しくないことではありますが、この時に起こり得る心的反応を以下のように想定し、それぞれGAFを推定してみましょう。ケース1 さすがに、その場では、ちょっとムッとしてしまったものの、そのあとすぐ、気分転換に建物の外へ出て、深呼吸を数回すると、気持ちが落ち着き、そのあとは、いつも通りに仕事をこなしていき、家に帰れば、家族団らんで、その夜は、ぐっすり眠れたような場合、この人の心の健康は、ほぼ完璧。GAFのスコアーは一番上のレンジで、その中間の95とします。
ケース2 思わぬ相手の反応にカッとしたものの、その場で相手に何か言い返すようなことは、周囲の目もあり、思いとどまった。でも、その時の事は、その日、1日、頭から離れず、目先の事に集中していなかったせいか、愛用のマグカップを床に落として割ってしまい、さらにガックリきてしまったが、ウチに帰って、家族の笑顔を見たあとは心が少し軽くなり、翌日は普段通りに頑張れた。このような場合、その日の不調は、まだ病的レベルでは無く、この厳しいご時世では正常範囲内だとして、GAFのスコアーは75とします。このケースでは、まだ精神科受診を考慮したいレベルではありませんが、ストレス対策はしっかり考えていきたいものです。
ケース3 その日は朝からイライラ気味だったせいか、相手の反応にカッとなり、相手と言い合ってしまったが、その場は何とか、それで収まった。しかし、その日は1日中、気持ちが冴えず、ウチに帰ってから、口数が少ない事を家族から指摘されたりした。その夜は、なかなか寝付けず、それから数日、気持ちが冴えない日が続くような場合、これらの精神症状は軽度の精神症状だとして、GAFのスコアーは65とします。もしも、このケースのような状況で、冴えない気持ちや強いイライラ感が持続するような場合、具体的には1週間以上持続している場合、脳内環境が病的になっている可能性もありますので是非、精神科受診も御考慮してみてください。
このように、同じ状況で生じ得る心的反応は、精神医学的に全く問題の無いレベルから精神症状のレベルに近くなるまで個人差が大きいですが、正常範囲のレベルである、GAFのスコアーで70以上は常にキープしておきたいもの。
もっとも、このGAFは本来、医師が治療計画を立てたり、治療効果を客観的にチェックする際、参考にする指標の一つ。GAFは基本的には他者が客観的な視点で、その人の全体的な精神機能を評価するものですが、ご自分でも、精神機能を客観的にセルフチェックする際、充分、ご参考になると思います。
最後に、言わずもがなとは思いますが、この厳しいご時世では、心の不調へ早めに対処していくことは極めて重要だと思います。是非、このGAFを、ご自分の心のコンディションを全体的な視点から捉える上で、ご参考にして頂けたらと思います。