January
フェラーリ 458スパイダー
アルミ製リトラクタブル・ハードルーフを備えた、458イタリアのオープンモデル。2分割されたルーフは180度回転、重なって収納される。570psの4.5リッターエンジンに7速F1デュアルクラッチトランスミッションを組み合わせる。価格はクーぺの210万円高となる3060万円
ムルシエラゴの後継となるランボルギーニのフラッグシップモデル。700psの6.5リッターV12エンジンを搭載する。カーボン繊維強化樹脂のフルモノコックボディを採用、タブとルーフから構成される乗員セルは重量わずか147.5kg。価格は4100.25万円
アルファロメオジュリエッタの国内試乗会で幕を開けた2011年。気分はすっかりイタリアンということで、ランボルギーニアヴェンタドールやフェラーリFF、同599アペルタといった12気筒モデルに酔いしれた1月だったけれども、なかでも印象に残っているのは、寒風吹きすさぶ都内のビル街を爆音まき散らして走ったフェラーリ458スパイダーだった。ハードルーフタイプを採用し、もはやクーペ(ベルリネッタ)なんて要らないんじゃない? と思わせる性能と格好(トンネルバックスタイル! )、そしてサウンド(背後の音がよく聞こえてくる!)を手に入れた458スパイダーに、しばらくは首ったけになった、のだけれども……。
February
ベントレー コンチネンタルGT V8
2世代目に追加されたV8エンジン搭載モデル。ブランドバッジの“ウイングド B”は赤いエナメルで12気筒モデルと差別化、価格は12気筒モデルより249万円安い2166万円
あとから追加されたグレードの方が既存のラインナップよりいい、なんてことは往々にしておこりがち、なんだけれども、1月の458スパイダーに続き、スペインはリオハで乗ったベントレーコンチネンタルGTのV8仕様もまた、“後だし”の勝利であった。とにかく、鼻先の軽さが印象的で、コンチGTがひとまわり小さくなったように思える。W12のウルトラシルキーなフィールも捨て難いのだけれども、やっぱりクルマは重量バランスが大事だと改めて納得した次第。以来、友人知人のベントレー狙いにはV8を強力にプッシュし続けている。もっとも、“安いグレードは嫌”という理由で、やっぱりW12がいいって人もいたけれどね。さすが、ベントレーな世界。
March
M・ベンツ SLクラス
6世代目となるラグジュアリィな2シーターオープン。一部マグネシウムを用いることで15kgの軽量化を果たしたバリオルーフを備え、M・ベンツの量産車として初のフルアルミニウムボディを採用した。価格は1190万~1980万円
最近の欧州車は、ひところの“ソリッド&ハードな乗り心地”路線から大きく進化して、ソリッドで硬めは硬めなのだけれども何とも心地よいライドフィールを手に入れるに至ったと思う。欧州車の乗り心地スタンダードがいっきに高みへ上がって、ちょっと日本やアメリカ勢の及ばない領域に達してしまった可能性が高い。新型SLクラスはその権化のようなもの。アルミニウムボディ特有のつっぱり感はまるでなく、懐がとても深くて、弾力バランスも絶妙な乗り心地を実現している。助手席に乗っていると、それこそ腰が砕けてとろけそうになった。デートカーとしても最強だろう。もちろん、スポーツカーとしての性能も格段に上がっており、操ってもこれが相当に楽しい。強いボディはもちろんのこと、電子制御サスペンションの成熟度にも感動した。
April
レンジローバー イヴォーク
2008年に発表されたLRXコンセプトのクロスクーペ・デザインを踏襲した、レンジローバー史上で最小&最軽量のコンパクトSUV。3ドア(クーぺ)と5ドアをラインナップする
その“格好よさ”から大いに期待していた1台だったし、実際に日本の道路事情にはベストマッチなレンジローバーとして多くの人に勧めてもいるが、ひとつだけ残念な点があった。それは、乗り味にレンジらしさを感じなかったこと。否、ひょっとすれば、それが新しいレンジ風味なのかもしれないし、そういう変化はラグジュアリィブランドにだってつきものなので、変わること自体は否定しないのだけれども……。アフォーダブルなスペシャリティカーとして乗るのはいい。けれども、レンジローバーはもっと特別、という思いがボクにはあった。ラグジュアリィブランドの民主化は本当に慎重にして欲しいと思う。イヴォークの3ドアなんて、本当に格好いいんだけれどねぇ。だったらハナっからレンジのコンセプトカーとして出てきてくれてりゃ、もう少し気分も違ったのだけれども。
May
BMW 6シリーズグランクーペ
6シリーズクーぺをベースとした流麗なスタイルの“4ドアクーぺ”。日本では3リッターターボを搭載した640i(986万円)と4.4リッターターボの650i(1257万円)をラインナップする
4ドアクーペという新トレンドは、もちろん、メルセデスがCLSクラスで最初に流行らせたものだったわけだけれども、本来ならシュトゥットガルトより先にやっていてもおかしくなかったミュンヘンから、ようやく12年、流麗な4ドアクーペが登場した。グランクーペとはよく言ったもので、6シリーズクーペの華やかさを失うどころか、さらに増しての登場に、これまたもうフツウの6はもちろん5シリーズまで食ってしまうんじゃないのか? と心配になったものだ。もちろん、クルマのデキもよく、特に乗り心地にいたっては2ドアモデルを完全に凌ぐ。こうなったら、コイツをベースにワゴンにしたシューティングブレークも作って欲しいものだ。いいじゃないか、真似になっても! ちなみにグランクーペのM6も登場した。13年に上陸予定で、こちらも人気モデルになる予感。
June
パガーニ ウアイラ
2011年のジュネーブショーで初お披露目された、ゾンダの後継となるスーパースポーツ。メルセデスAMG製が特別にチューンした、700psを発生する6.2リッターツインターボを搭載
衝撃的だった。これをスーパーカーだと言うのなら、ランボやフェラーリは(刺激度という意味で)86/BRZレベルだと思った。否、スーパーカーとは本来、こういう存在のことを言うのだろう。パガーニの新作ウアイラは、性能や完成度も高くなったうえに、ディテールの作りこみにはさらなるアート性が盛り込まれ、旧作ゾンダの妖しさも十分に引き継いだ、超絶スーパーマシンである。なるほど、スーパーカーの世界でも、知らず知らずのうちに民主化が進んでいて、その本質を忘れそうになっていたというわけだ。つまり、乗り手を選ぶクルマとしてのスーパーカー。もちろん、ウアイラを駆るに難しいテクニックなど要らない。速いし危ういし過激だけれども2ペダルの電子制御である。当り前のように、誰が乗っても前に進む。しかし、これを買って乗るということと、ただ単に運転するということの間には、大きな隔たりがあると試乗してみて思った。創始者ホラチオの情熱を理解し、コンセプトのひとつひとつに思いを至らせ、ディテールのアートに双手を挙げて称賛し、プライスタッグもろとも全てを受け入れる。スーパーカー好きを極めてはじめて“分かる”クルマだと思う。エンツォやフエルッチョにはもう会えないけれども、ホラチオには会える。そこもまた、大きな魅力だ。