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生涯賃金3000万円減少!?家計はどう対応する?

右肩上がりに収入が増えるとはいえない昨今、夫だけの給料だけで家計のやりくりをするのは厳しくなっています。過去20年間で生涯賃金が3000万円下がったというデータも……。家計は、どのように対応したらよいでしょうか?

平野 泰嗣

執筆者:平野 泰嗣

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働き続けてもらえる生涯賃金って、どれくらいなんだろう……。

働き続けてもらえる生涯賃金って、どれくらいなんだろう……。

 

大卒の生涯賃金、20年で3000万円も減少!?

ガイド平野が社会人になった1994年頃、大卒男性が就職してから退職するまでの賃金合計(生涯賃金)は、約3億円といわれていました。けれども最近は、雇用体系や給与制度の変化によって、生涯賃金が下がっているといわれています。ファイナンシャルプランナーとして家計の相談を行っていると、定年に近い世代と、これから世帯を形成している層での賃金格差や資産格差というものを強く感じています。

 「ユースフル労働統計2018」(労働政策研究・研修機構)では、ひとりの労働者が生涯にわたって獲得する賃金(生涯賃金)を一定の条件のもとに推計しています。下のグラフは、学校を卒業後すぐに就職し、定年退職(60歳)までフルタイムの正社員を続けた場合の男女別、学歴別の生涯賃金(退職金を除く)です(同一企業に継続して働いたとは限りません)。
「ユースフル労働統計2018」(労働政策研究・研修機構)より、ガイド平野泰嗣がグラフ作成

「ユースフル労働統計2018」(労働政策研究・研修機構)より、ガイド平野泰嗣がグラフ作成


大卒男性が約2億6980万円、大卒女性が約2億1590万円となっていて、学歴が高いほど生涯賃金は高くなっています。また、女性は、どの学歴においても、男性より5000万円くらい少ない傾向があります。

先ほど、「1994年頃、大卒男性の生涯賃金は、約3億円といわれていた」と書きましたが、1990年からの生涯賃金推移を見てみると、下のグラフのようになります。(こちらは、正社員とは限らないフルタイム労働者も含まれています。)
 
「ユースフル労働統計2018」(労働政策研究・研修機構)より、ガイド平野泰嗣がグラフ作成

「ユースフル労働統計2018」(労働政策研究・研修機構)より、ガイド平野泰嗣がグラフ作成


1997年頃までは、約2億9000万円ですが、その後減少し、2016年は約2億6000万円となっています。大卒の女性も、2000年頃までの約2億3000万円から、2016年は約2億円ですので、男女ともに約20年間で約3000万円も下がったことになります。

同一企業に継続勤務していると、男女ともに上記よりも生涯賃金が高くなります。また、ここ数年は、賃金等も上昇に転じてきていますが、増税や社会保険料の増額等の影響で、「手取りが増えていない」と感じている方も多いのではないでしょうか。

かつては、「一家の大黒柱として、夫が外で働き、妻は家庭を守る」というライフスタイルが主流でした。そのライフスタイルを前提とすると、生涯賃金が3000万円も減少する影響で、マイホームを購入し、子どもを育て、老後も安心という、人生すごろくのようなライフプランとマネープランを描くことができなくなったというのが現実です。
 
生涯賃金は減っても、家族とゆっくりできれば幸せ

生涯賃金は減っても、家族とゆっくりできれば幸せ

 

生涯賃金3000万円減少で、生活の満足度はどう変化した?

生涯賃金は、20年前から大きく減少していますが、家計ではどのように対応してきたのでしょうか? 先の「ユースフル労働統計2018」では、勤労者の生活満足度を時系列でみることができるように、生活指標の推移を公表しています。

生活指標を「所得」「消費」「住居」「余暇」「教育」「健康」「老後」の7つのカテゴリーに分類し、7つの指標から「総合」指標を合成しています。各指数は、2000年を100として、各年度の指数で表されています。この指標は、勤労者の生活水準の推移を示すもので、生活水準そのものを表すものではないので、注意が必要です。
 
勤労者生活指標・「ユースフル労働統計2018」(労働政策研究・研修機構)より、ガイド平野泰嗣が作成

勤労者生活指標・「ユースフル労働統計2018」(労働政策研究・研修機構)より、ガイド平野泰嗣が作成


「所得」の指標は、ここ数年上昇傾向も見られますが、増税や将来の不安などの影響からか、「消費」に関する指標は減少傾向が続いています。また、「老後」の指標も2000年を基準とすると、減少傾向が見られます。その一方で、「余暇」や「住居」の指標は、上昇傾向が続いています。そして、注目すべきは、「総合」の指数です。統計の26年間、一貫して100前後で推移しています。

このことから、「消費」の指標は下がっているものの、「余暇」や「住居」の充実によって、全体のバランスを取っていると考えられます。「住居」に関しては、2000年頃よりも物件価格は上がっていますが、超低金利が続いていることから、マイホームが比較的手に入りやすくなっていることが、満足度向上の要因になっていると考えられます。

また、「余暇」についても、さまざまなレジャー・サービスが出回っているなか、働き方改革や「家族や自分の生活を大切にしたい」と考える人の増加等で、余暇を取り入れやすくなっていることが、満足度向上の要因になっているのかもしれません。

確かに、家計の相談をしている中でも、生活は少し厳しいけれども、住み心地のいいマイホームを手に入れられて、生活の満足度が上がり、ほどほどに家族とレジャーを楽しんだり、友人と余暇を過ごしたりと、全体的には幸せに暮らしている方が多いような気がします。
 

3000万円の収入減少をどう補う?

■共働きが主流に
「住生活」や「余暇生活」の充実によって、生活の満足度のバランスを取るといっても、生涯賃金3000万円減少の家計へのインパクトは大きいです。そこで、家計の収入減少を抑えるために、共働きが注目されています。

下のグラフは、「男性雇用者と無業の妻から成る世帯」(いわゆる、専業主婦世帯)と「雇用者の共働き世帯」の世帯数の推移を表したものです。
 
共働き等世帯数の推移(出所:男女共同参画白書(概要版) 平成30年版)

共働き等世帯数の推移(出所:男女共同参画白書(概要版) 平成30年版)


1990年(平成2年)から2000年(平成12年)頃までは、専業主婦世帯と共働き世帯数は、拮抗していましたが、2000年以降は共働き世帯数が専業主婦世帯を上回り、その差は拡大傾向にあります。妻が働くことによって、夫の収入減少を補うことも可能になります。

妻の働き方として、正社員、契約社員、派遣社員、パート、個人事業主の他、最近は、テレワークや業務請負など、さまざまな形態が考えられます。どの働き方がいいかは、それぞれの個別の事情や制約があって、一概にいえません。けれども、生涯賃金で見るならば、最初に入った会社に長く勤めることが、家計的にはよさそうです。

前出の生涯賃金の2016年時点をみると、1つの企業に継続して勤める「同一企業型」の生涯賃金と同一企業型でない人も含めた生涯賃金を比較した場合、大卒女性は、約2500万円の差があります。

可能な限り、育児休業制度や介護休業制度、その他の両立支援制度などを活用して、1つの企業に働き続けることができればよいですね。
 
共働き世帯の増加で、家事・育児の分担は増えている?

共働き世帯の増加で、家事・育児の分担は増えている?


老後の生活費に関する不安は、全ての世代の世帯に共通です。共働きの世帯でも、老後の生活費を心配する声をよく聞きますが、フルタイムの共働きの場合、そんなに不安に感じる必要はないと思います。

コラム「老後の生活に必要な準備資金を簡単に計算する方法」で、もらえる年金額を大雑把に計算する方法を紹介しましたが、夫:生涯平均年収450万円(勤続38年)、妻:生涯平均年収350万円(勤続38年)の夫婦の貰える年金額の合計は、約323万円(月額26.9万円)となります(基礎年金は、年78万円で試算)。これは、年金暮らしの夫婦の平均的な支出額と概ね一致しています。

今の年金制度の給付水準が今後も維持されることが前提になりますが、フルタイムの共働きであれば、将来の生活も年金によってある程度保障され、さらにゆとりのある生活は、自分たちの蓄えによって賄うという計算になります。

夫婦がフルタイムの共働きでいることは、勤める会社の体制、保育所の問題など社会的な事情と、家事・育児の夫婦協力という家庭内の事情によって左右されます。育児休業制度の普及や保育所の問題等は、まだまだ不十分とはいえ、次第に整いつつあります。

その反面、家庭内の事情はどうでしょうか? 生涯賃金の推移を見れば、家計を支えるのは夫一人というのが厳しい現実になりつつあります。世帯全体で収入をどのように得ていくのか? そして、そのために夫婦の役割分担をどうしたらよいのかを改めて見直す必要があるといえるでしょう。

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