クリント・イーストウッドに続くか、アフレック監督!
ベン・アフレック監督の演出は冴えわたっています。まずはイランとアメリカの当時の関係性をわかりやすく描き、決してアメリカが正義というわけではない! というのもきちんと見せているところに監督の誠実さが見えます。そして、人質たちは実に危険な状況にあるというスリルを感じさせつつも、スリル一辺倒ではなく、ウソ映画に協力するプロデューサーとスタッフに業界ならではのクセ者キャラを配して、ここでニヤリと笑わせてくれるのです。そして大使館員が脱出できるか否かの後半は、もう心臓が口から出そうになるほどドキドキし、足をジタバタしたくなるようなエキサイティングなシーンの連続です。「これ実話だよね?」と、何度も信じられないと言う思いでスクリーンを凝視していました。見終わったときは「凄い映画を見た!」という興奮と喜びで顔がほころんでいました。政治的な背景が全編を貫いていますが、スリルとアクションとブラックユーモアもちりばめて、実話をエンタティメントの傑作に仕上げたアフレック監督。俳優出身の監督は確かに多いけれど、最近では突出した存在でしょう。おそらくクリント・イーストウッド監督の後を追う存在としては、一番近い位置にいるかも。
なぜ俳優は監督をやりたがるのか?
俳優が監督として名声を得ることは多く、ローレンス・オリヴィエ、オーソン・ウェルズ、ウォーレン・ベイティ、ロバート・レッドフォード、ウディ・アレン、クリント・イーストウッド、ケビン・コスナー、メル・ギブソン、ジョージ・クルーニーなどがいます。アフレック監督は、イーストウッドの作風に近い感じがあり、本人も「彼は僕のお手本です」と語っています(ちなみに本作『アルゴ』の製作者のひとりはジョージ・クルーニー!)
また女優陣で監督業に乗り出す人も多く、ジョディ・フォスター、ダイアン・キートン、サラ・ポーリー、アンジェリーナ・ジョリー、ナタリー・ポートマン、女優じゃないけどマドンナがいますね。マドンナの監督作は近々見られますよ(『ウォリスとエドワード/英国王冠をかけた恋』(2012年11月3日公開)です)。
俳優が監督の仕事に乗り出すのは、やはり俳優というのは作品の駒のひとつでしかなく、その作品の優劣は監督が握っているからでしょうか? 作品に自分の世界を反映させたいと言う思いもあるでしょう。でもその作品の核を自分のフィルターを通して構築し、自身の責任で世に出す作業は簡単ではありません。覚悟を決めてかからなければ……。そういう意味では、自身の見解も問われる政治的な作品をスリリングなエンタティメントとして作り上げたベン・アフレック監督の覚悟は相当なもの。だからこそ『アルゴ』は傑作になったのでしょう!
『アルゴ』
2012年10月26日(金)公開
(C)2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
監督:ベン・アフレック
出演:ベン・アフレック、アラン・アーキン、ブライアン・クライストン、ジョン・グッドマン、スクート・マクネイリー、クレア・デュバル、クリス・デナム、テイト・ドノバン、タイタス・ウェリバー、マイケル・パークス、カイル・チャンドラー ほか