肘部管症候群とは

「肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)」とは難しい病名ですが、肘関節の内側にある「肘部管」の中で尺骨神経が圧迫されてしまい、麻痺が生じる病態です。通常中年期の成人にみられ、男性に多い病気です。

以下の記事は実際の患者さん(52歳・女性・Aさん)のケースを元に、その体験を加工して記載してあります。Aさんは肘部管症候群を発症しました。肘部管症候群の症状、診断、治療、手術、手術費用などの理解を深めて下さい。

肘部管とは

肘関節内側の指でたたくと小指に痛みが生じる部位を医学的には「肘部管」と言います。上腕骨の溝(尺骨神経溝と呼ばれます)、滑車上肘靭帯、Osbornバンド(尺側手根屈筋筋膜)で囲まれる狭いスペースを肘部管と呼びます。

肘部管

肘部管は肘関節内側で骨と靭帯に囲まれた狭いスペースを尺骨神経が通過します

肘部管はスペース的には狭いので、いろいろな原因、また時に原因不明の尺骨神経の圧迫により、麻痺が発生してしまうのが、肘部管症候群です。

肘部管症候群の症状

Aさん「2010年12月に右手の小指の痛みとしびれが生じました。この経験はいままでなかったので近くにある整形外科のクリニックを受診しました。」

Aさんに起きたのは、「知覚麻痺」という知覚神経の症状です。

またAさんに見られなかった症状として薬指の小指側の半分の痛み、しびれ、指先・手の筋肉の筋力低下です。特に筋力低下が進行すると、手術をうけたあとでも回復が難しくなりますので、早期の治療を受ける必要があります。

肘部管症候群の原因

特に原因のない方も多いですが、原因として、睡眠中に肘関節をまげて、手を枕のかわりにして長時間寝ていること。それ以外では長期間の運転、スポーツ、慢性関節リウマチ、ガングリオン、軟部腫瘍などさまざまな病気が原因となって発症することが多いです。

肘部管症候群の診断

■ティネルサイン陽性
神経が圧迫されている部位を指や道具で叩くと障害されている指先に知覚異常が発生します。

ティネルテスト

神経が圧迫されている部位を指で叩くと、しびれている指先に痛みが発生します



■フロマン徴候陽性
両手の母指と示指で紙をつかみ引っ張ると、障害のある方の母指の指節間関節が屈曲することをフロマン徴候陽性とします。
フロマン徴候

      フロマン徴候を調べています。両手で紙を引っ張ります




■単純X線(レントゲン)
2010年12月にAさんがクリニックで撮影した単純X線写真です。
X線

      肘関節単純X線像。異常を認めません

単純X線写真は放射線被爆量も少なく、費用もわずか。その場で撮影も終了し当日説明をうけられるので、整形外科では必ず施行します。過去の骨折の既往、骨腫瘍の有無を確認するなどのために必須の検査です。特に異常を認めません。

費用は初診、3割負担の健康保険で3,000円ほどでした。

■筋電図
まず知覚神経伝達速度を測定します。肘部管より中枢の上腕部での尺骨神経の速度と肘部管より末梢の前腕での尺骨神経の速度を比較して、前腕の速度が低下していた場合、肘部管症候群と診断します。このテストで障害された神経の部位が正確に診断されます。

Aさんの筋電図では右の尺骨神経の伝達速度が肘の位置で低下していることがわかりました。左の尺骨神経もわずかに低下がみられました。今後左の肘部管症候群が発症する可能性があります。

また筋力低下がある場合、障害のある筋肉の筋電図に異常が出現します。

肘部管症候群の治療・リハビリ

■安静
仕事に関連して発生する肘部管症候群の場合、仕事を制限することで症状の軽快が期待できます。睡眠中の肘の問題であれば寝る姿勢を変えてみることで治癒が期待できます。安静にすることで軽快した後に仕事をフルで再開すると、肘部管の症状が再発してしまうことが多いようです。

■鎮痛薬
ボルタレン、ロキソニンなど非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAIDと省略されます)を用います。

ボルタレンは、1錠15.3円で1日3回食後に服用。副作用は胃部不快感、浮腫、発疹、ショック、消化管潰瘍、再生不良性貧血、皮膚粘膜眼症候群、急性腎不全、ネフローゼ、重症喘息発作(アスピリン喘息)、間質性肺炎、うっ血性心不全、心筋梗塞、無菌性髄膜炎、肝障害、ライ症候群など重症な脳障害、横紋筋融解症、脳血管障害、胃炎。

ロキソニンは、1錠22.3円で1日3回食後に服用。副作用はボルタレンと同様。

どちらの薬でも胃潰瘍を合併することがありますので、胃薬、抗潰瘍薬などと一緒に処方されます。5年間、10年間の長期服用で腎機能低下などの副作用がありますので、注意が必要。まれに血液透析が必要となる場合もあるので、漫然と長期投与を受けることはできる限り避けて下さい。

鎮痛薬の問題点は数ヶ月以上の服薬で胃腸症状、腎機能低下が高率に発生しますので、急性期を過ぎたら主治医と相談し、減量ないし休薬を考えましょう。

Aさんは薬で痛みが軽くなったものの、しびれは改善しませんでした。

■神経再生薬
メチコバール ビタミンB12…障害された神経の修復を促進させる作用を持ちます。1錠21.1円を1日3回服用します。後発薬では5.6円のものが複数あります。4週間の服用で64%の改善率があります。副作用ですが、食欲不振、悪心、嘔吐、下痢、発疹などがあります。

Aさんはメチコバールを2ヶ月間服用しましたが、あまり改善はみられませんでした。そのため手術治療を考慮して、クリニックの紹介で総合病院の整形外科外来を受診しました。

■上腕骨内側上果切除術(King法)
尺骨神経に対する圧迫を除去するために、神経の周囲にある上腕骨の一部を切除する手術です。骨を切除した後に神経の剥離を行う場合があります。人体への侵襲は最小限の手術です。この手術はほとんどの肘部管症候群に対して有効であり、90%以上の患者が職場に復帰しています。

King

尺骨神経のすぐ横に位置する上腕骨を一部切除する手術です


Aさんの場合、右の上腕骨内側上果切除術を受けました。全身麻酔下の手術で手術時間は1時間30分間、術後の経過も良好で入院6日間で退院となりました。健康保険を使用し3割負担で10万円の費用でした。退院した時点で小指のしびれだけが残っていましたが、痛みは消えました。術後の肘の傷の痛みもそれほど強くなく、Aさんは満足しています。

手術法ですが、神経の除圧法、神経前方移行術など様々な術式がありますが、いずれも成績は良好です。

■肘部管症候群のリハビリ
進行した肘部管症候群では指先、手の筋肉が萎縮してきます。この時期には手術を早期に受けることが必要ですが、衰える筋肉に対するリハビリが重要となります。手術の前後に指、手の屈曲進展の運動を繰り返し行います。それほど難しい作業ではないので、自宅でリハビリを続けることが可能。初期のリハビリ訓練を専門家から受けることが薦められます。
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