世界の映画祭を驚かせた新人監督の傑作登場!
2012年秋におすすめしたい大人映画のもう1本は、英国映画『思秋期』です。イングランドの小さな町で生活する飲んだくれの乱暴者と秘密を抱えた女性の交流を描いたこの英国映画は2011年、英国アカデミー新人作品賞などを受賞し、映画界で大きな話題を巻き起こしました。監督は38歳、役者としても活動しているパディ・コンシダインの長編デビュー作。試写が終わって監督プロフィール見るまで、すっかりベテラン監督の映画かと思いましたよ。それほど完成度が高い作品なのです。失業中のジョセフ(ピーター・ミュラン)は、酒を飲んでは大暴れするキレやすい中年男。怒りが抑えられず暴力を繰り返す行為を彼自身ももてあまし、自己崩壊一歩寸前です。そんな彼がチャリティ・ショップで働く穏やかな女性ハンナ(オリヴィア・コールマン)と出会います。優しい言葉などかけてもらったことのない彼に、お茶を入れて、話を聞く姿勢を見せ、祈りをささげる彼女。ジョセフは彼女に癒される思いを抱きます。しかし、彼女には誰にも言えない秘密があり、その秘密におびえながら生きていたのです。
もし日本でリメイクするとしたら、主役は北野武?
どう生きていいのかわからず酒を飲み、常にイライラを募らせる負の悪循環に落ちた主人公ジョセフ。しかし、ハンナと出会って、少しだけ優しさを見せるようになります。その優しさがハンナの支えにもなるのですが、彼女の秘密を知ったら、女性の皆さんは、体が震えるでしょう。秘密が明らかになるシーンなど、私はガクゼンとしました。それは「ひどい!」の一言。セリフはないけれど、彼女の苦しみがダイレクトに伝わります。私だったら逃げますが、閉鎖的な町、助けてくれる人もいない、ただひたすら耐えるしかないのでしょう。そんな彼女をジョセフは助けようとしますが、人に何かを与えることに慣れていない、子供のような精神のジョセフは、彼女に頼られることに迷います。そこが人間臭いというか、この映画の巧さ。すごくリアルな感情があぶりだされています。この映画を見ている間、乱暴な中年男のジョセフの姿が、ちょっと北野武に重なりました。顔は似てないけれど、ぶっきらぼうで、無口なくせに口を開くと毒を吐く。そんなイメージがピッタリで。これ日本でリメイクするとしたら、ジョセフの役は北野武かな……と何気にキャスティングしていました。
ちなみに本作は、コンシダイン監督の実父がモデルだそうです。「ジョセフは、心の中でとても近くに感じていた」と語る監督。こんな乱暴な親父で大変だったでしょうが、ジョセフが近所の少年に見せるぶっきらぼうな優しさは、お父さんの思い出なのかな……と思ったりして。いずれにせよ、心をわしづかみにされる傑作であることに間違いナシ。秋にピッタリの深い余韻を残す映画です。
『ミステリーズ 運命のリスボン』
2012年10月13日(土)公開
監督:ラウル・ルイス
出演:マリア・ジョアン・バストス、リカルド・ペレイラ、レア・セドゥー、メルヴィル・プポー、アドリアーノ・ルースほか
(C)CLAP FILMES (PT) 2010
『思秋期』
2012年10月20日(土)公開
監督&脚本:パディ・コンシダイン
出演:ピーター・ミュラン、オリヴィア・コールマン、エディ・マーサン
(C)CHANNEL FOUR TELEVISION/UK FILM COUNCIL/EM MEDIA/OPTIMUM RELEASING/WARP X/INFLAMMABLE FILMS 2010