食と健康/食と健康の基礎知識

プロの料理人が伝える「食で育む生きる力」(4ページ目)

日本料理は、見た目の美しさや多様な食材、独自の文化性、優れた栄養などから世界から評価され、世界無形文化遺産化へのプロジェクトが進んでいます。老舗料亭の主人であり、京都で食育活動にも取り組まれている山ばな平八茶屋 園部晋吾氏に、日本料理や食文化についてお話を伺いました。

南 恵子

執筆者:南 恵子

NR・サプリメントアドバイザー / 食と健康ガイド

食を通じて生きる力を育てる

・・・日本料理の基本であるだしのおいしさや、旬の食材をおいしく仕上げることを学んだ先に、子どもたちにはどのような影響があると思われます?

器,盛り付け,作る,食べる,心,思いやり

食べていただく人のために、盛り付けや器も含めて心をこめて作ることを伝えます。

園部・・・この授業はあくまで手段です。例えば、初めの頃の授業では、桂剥きなどのプロの技を見せたりしていたのですが、そうすると中には技術だけに目を奪われる子もいるんです。卵焼きをきれいに焼きたいと熱心になることも悪いことではないけれど、技術にばかり関心が行くと、大切なことを忘れがちです。

形は悪いかもしれないけれど、まず一番大切なことは、「料理を食べていただく人のために心をこめて作ること」。そして食べる側は、命をいただく食材や、作ってくれた人への感謝の心を持つことです。それを見失っては、日本料理、日本の文化を伝えることにはならないと思います。

これは道徳教育ですね。例えば武道や茶道、いろいろなアプローチがあると思いますが、我々は料理人なので食の授業を通じて、他者への思いやりや感謝の心、つまり生きる力を育てているんです。

今は小学生の子どもも、成長すれば大人になり、親になる。この地域食育事業を継続していくことで、未来の家庭や地域、社会が今より少しでも良くなってほしいというのが、我々の願いです。

自分を知ることで他者を認め合える

・・・最後に、日本人にとって、日本料理とは何でしょうか?

美意識,行事,歴史,文化,食文化

美意識、思いやりの心、歴史や行事など様々な要素が詰まった日本料理は、日本文化の結晶。

園部・・・海外に行って感じたことですが、外国の人にとっては自国の料理と他国の料理という区別が明確にあると思うんです。しかし、今の日本ではフレンチ、イタリアン、中国料理、韓国料理と同列に日本料理がある。一つのジャンルになってしまったと感じています。

私たち日本人の料理、文化とはどういうものかというベースをきちんと知った上で、他国の料理の手法を学んだり、楽しんだりするのもよいでしょう。でも何もベースができていない段階の子どもたちが何でも受け入れてしまうと、どこに向かっていってしまうのか・・・。私は、たいへん心配しています。

日本人らしさとは何か、日本の文化を理解してこそ、他国の人との違いを知り、お互いに認め合えます。

・・・確かに、私くらいの年代ですと、日本料理をベースに成長し、後から様々な国の料理が知ったわけですが、今の子どもたちのおふくろの味は、ハンバーグだったりします。グローバルな時代だからこそ、相手の文化を尊重するためにも、自分の足元の文化を理解しておくことが必要なんですね。

料理人というお立場ならではの視点で、たいへん貴重な深いお話を伺えました。ご多忙中にお時間をいただきまして、ありがとうございました。


協力/
山ばな平八茶屋
(所在地/京都府京都市左京区山端川岸町8-1)
日本料理アカデミー

関連リンク/
感性・表現力……食と人生を豊かにする「味覚教育」



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