セクシュアルマイノリティ・同性愛/ゲイライフ

長い人生、賢く生きる:僕らのライフプランニング(3ページ目)

パートナー関係の制度保障が一切ない(事実上シングル扱いな)同性愛者は、40代にもなると、老後のことをはじめ、さまざまな問題に直面したり、考えさせられたりします。そこで、現行の制度をできるだけうまく活用した同性愛者のライフプランニング(人生設計)についてアドバイスする『にじ色ライフプランニング入門』という本が役立ちます。

後藤 純一

執筆者:後藤 純一

同性愛ガイド

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ゲイの老後あれこれ

時間のない人生がありえない以上、生きるとはすなわち年をとるということ(エイジング)です。老後は現在の延長にあるのであって、「今は若いから関係ない」ということはないのです。老後の問題とはすなわち自分がこれまでどう生きてきたか、これからの人生をどう生きるかという問題に他なりません(因果応報と言うのでしょうか)。永易さんも「『60代のなりたい自分』を考えるべし」と書いていますが、それぞれに自分らしい未来(理想)を思い描くことで、きっと現在(現実)をよりよく生きられるようになる…そんな気がします。

ノンケさんであれば、結婚して家族のために頑張って働いて稼ぐ、以上終わり、なのかもしれませんが、ゲイの場合、結婚や子育てができない以上、そもそも理想の人生とか未来予想図というものが、視力0.1の人の視界のようにぼんやりしているのではないでしょうか(逆に、型にはまってない分、自由だとも言えますが)

たぶんですが、ノンケさんの「郊外の庭付き一戸建てに家族で住んで、車も持って…」といったライフプラン(人生設計、夢)と、僕らのそれは、だいぶ違うはずです。お金ももちろん大事ですが、どちらかというと、家も車も要らないから、彼氏や友達と楽しく生きていきたい(余裕があれば映画や芝居や音楽といった文化的なことに触れていきたい)というのが実感じゃないでしょうか。自炊や家計のやりくりも得意だし(ギャンブルもしないし)、友達としゃべったりパーティで騒いだりが大好きなゲイだからこその老後の楽しみ方(ライフプランニング)ってあると思うのです。もちろん、病気したり、大変なこともいろいろあるでしょうが、パートナーや友達との関係を大事にしながら、60になっても70になっても、週末はお友達を家に呼んで手作りの料理でワイワイやったり、たまには飲みに行ったり、温泉に行ったり、そういうふうに生きていけたら幸せかなあ、と。少なくともゴトウはそう思います。

とはいえ、独り暮らしで、体も思うように動かなくなった高齢のゲイの方などは、いろいろ不安も多いでしょう。先日開催されたNLGR+の「僕らのゲイライフプロジェクト」でも語られていましたが、人生においていちばん悲しい、できれば避けたいことは、孤独死ではないでしょうか。お金に余裕がある(そして運のよい)方は、専門の施設に入ることができるかもしれませんが(それでもHIV陽性の場合、受け入れを拒否されるケースがあるそうで、現実は厳しい…と思わされます)、そうでなければ、不意に病気になって、自力で動けず…ということもありえますよね。パートナーだろうと友達だろうと、いっしょに住んでいる人(あるいはしょっちゅう出入りしてくれる人)がいれば安心なのですが…

僕の友達でグループホーム(シェアハウス)ということを意識的に実践している人がいます。
実際問題として、人間、本当に自分の力だけで生きていくのは困難です。特に老後は、誰かの支えがないと、生きていけません(老後に限らず、ですが)。パートナーや気心知れたお友達といっしょに暮らすことで、気持ち的にも経済的にも楽にやっていけるとしたら、集団生活はとても心地よいものになるはずです。
誰かといっしょに暮らすということに抵抗がある方もいらっしゃるかもしれませんが、やってみると案外慣れるものです。ウチの頑固なダンナも、最初は「同棲とかしたことない。不安」と言ってたのに、何事もなかったかのように慣れてしまってます。

夢見る老後

『クィア・ジャパン』vol.5 夢見る老後
伏見憲明/勁草書房/1700円+税

伏見さんが2001年に『Queer Japan vol.5 夢見る老後』という本を発表されましたが(素晴らしいことに、岸田今日子さんが表紙を飾っています)、そこにもいい話がたくさん載っています。たとえば、研究者の小倉康嗣さんという方は「再帰的近代(単純な近代ではなく、近代が生み出したものへの逆説的な問い直しを受けた、相対化された近代)としての高齢化社会(従来の家族の枠組や親密性のあり方、実存の様式すらも再編されざるをえない社会)において、ゲイは優位に立っていると言える。なぜなら、初めから制度的な家族の枠組から外されてきたがゆえに『伝統』にも『生産性(生殖)』にも還元されない『純粋な関係性』を基底とする新たな親密性を開拓するための領野を豊富にもっているから。ゲイが高齢化社会を先導することだって可能なのだ」ということを書かれています。福祉に詳しい文京区議の前田さんは「お金を貯めるより友達を増やしたほうがいい」ということを語っていました。興味のある方はぜひ、読んでみてください。

仕事一筋でやってきたノンケ男性の方が定年を迎え、急に生きる意味を見失ったり、奥さんに先立たれたときにガックリきたり(生活力もないので独りではなかなか生きていけず…)といったことに比べれば(あるいは、先述の小倉さんが紹介していたように、自殺率の高い秋田では、自殺した高齢者のほとんどに同居家族がいる、つまり家族からの疎外感や孤立感が根深い問題となっている、ということに比べれば)、早い段階から自立・試行錯誤しながら独りで周りと折り合いをつけながら生きる道を模索し、何でも自分でやりくりしてきたゲイのほうが老後は明るいかもしれないですよね。

最後にひとこと。3.11以降、日本で暮らすということの意味は大きく変わりました。今まで当たり前だと思っていたものが突然崩れてしまう、不測の事態がいつ訪れるかもわからない、そういう時代を僕らは生きています。家を買ったりするよりは、できるだけ身軽に動けるようにしておいたほうがいいのでは?とも思います。

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