主人公の個性に着目して、2冊の絵本を読み比べる
絵本には、いろいろな楽しみ方があります。ストーリーにワクワクしたり、イラストが好きで絵本を読むという方もいらっしゃることでしょう。今回は、主人公の「人となり」に着目して2冊の絵本を読み比べます。ご紹介する絵本は、どちらも「おつかい」をテーマにしたロングセラーですが、主人公たちは正反対の個性を持っています。プロファイラーの気分で、主人公の行動分析(?)を行いながら、彼女たちの個性が、どのように絵本の面白さにつながっているのか探ってみましょう。無茶苦茶だけど、どこか憎めない主人公が登場する『おつかい』
『おつかい』は、『ばばばあちゃんのおはなし』でお馴染みのさとうわきこさんの人気作品です。雨の中、おつかいを頼まれた主人公は、なんだかんだと理屈をこねては、おつかいに持っていく荷物を増やし続け、いつまでたっても出かけることができません。お供のネコとネズミも主人公に協力して、てんやわんやの大騒ぎ。さて、主人公のおつかいは、どうなるのでしょうか?
それでは、さっそく主人公の行動を分析してみましょう。
■主人公の名前・年齢など
名前・年齢ともに不明。ただし、服装や言葉使いなどから、4・5歳から小学校低学年位までの女児と思われる。ネコとネズミを飼っているようだ。
■おつかい前の準備
主人公は、おつかいに行くことをイヤだとは言わない。ただ、出かける準備は信じられないほど周到で、そんなことまでするのかと驚かされる。洪水になったり、ボートが転覆した場合も想定するなど危険察知能力は極めて高いが、「本当はお使いに行きたくない」と思っているのかもしれない。ただし、準備をする姿は楽しそうにも見える。
■おつかい中の行動
おつかいに出かける際にはキャンディーを持ち、お供の動物たちも風船やスリングショットなどを携帯している。まるでピクニックに出かけるような雰囲気がある。
■おつかい後の処理
不明。首尾よく買い物ができたかどうかわからないが、少なくとも大根は購入できたことが裏表紙からうかがえる。
以上のような主人公の様子からこの作品の魅力を考えてみましょう。主人公は、無茶苦茶なことをするけれど、どこか憎めない不思議な魅力があります。そのため、迷惑この上ない彼女の準備行動も、読者には可愛らしく感じられるようで、主人公に対する好感度は意外と高いです。それに「雨の中買い物に行くのはちょっとやっかいだ」と思う部分には共感できますね。
作品としても、想像の世界でおつかいを小さな冒険に見立てて楽しむ趣向がとにかく面白く、空想の拡がりと現実世界に戻った後の意外な結末も愉快です。その筋立ての面白さに、一見わがままなように見えて、実は憎めないところがある主人公の魅力が加わって、結果はわかっているのに何回も読みたくなる作品になっています。
【書籍DATA】
さとうわきこ
価格:1155円
発売日:1993/5/20 (ペーパーバックでの初出は1974年)
出版社:福音館書店
推奨年齢:3歳くらいから
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