住宅やマンション、ビルなどの建築にあたっては、用途地域による種類の制限、建ぺい率や容積率による建物の大きさの制限などが規定されています。
しかし、これだけでは都市部の密集地における日照や採光、通風など基本的な住環境を阻害するおそれがあるほか、道路に沿って高い建物ばかりが並べば景観上の問題も生じるでしょう。
そのため建築基準法では、建物の高さを制限するためにいくつかの規定が設けられ、その組み合わせによって建築可能な範囲などが決められます。
住宅を購入するときに、これらの規定を細かく覚える必要はないものの、いったいどのような制限があるのか、その全体的なイメージを把握しておくことは欠かせません。
今回は建物の高さ制限に関する規定について、基本的な内容をみていくことにしましょう。
ただし、それぞれの規定ごとにいくつもの緩和措置が定められています。土地を購入して注文住宅を建てようとする場合などには、もう少し詳細に確認することも必要です。
高さ制限の種類
建物の高さを制限する規定には次のようなものがあり、それぞれ用途地域との組み合わせによって適用される範囲が決められます。ただし、日影規制は商業地域、工業地域、工業専用地域以外の用途地域において、地方公共団体の条例で指定された場合に適用されます。また、高度地区は地方公共団体ごとに都市計画で定められるため、その内容は一律ではなく、この規定がないところも少なくありません。
- 絶対高さの制限
- 道路斜線制限
- 隣地斜線制限
- 北側斜線制限
- 日影規制
- 高度地区
また、2003年に施行された「天空率」の基準を満たす場合には、これらの斜線制限が適用されないことになっています。詳しくは ≪天空率とは?≫ をご参照ください。
絶対高さの制限とは?
第1種低層住居専用地域と第2種低層住居専用地域では、建築物が10mまたは12mのうち都市計画で定められたほうの高さまでに制限されます。特定行政庁の許可などによってこの制限が緩和される場合もありますが、一般的には3階建てまでの住宅などが中心で、この地域内に建てられるマンションも低層となります。
道路斜線制限(道路高さ制限)とは?
道路斜線制限は、前面道路の反対側の境界線から一定の勾配による斜線によって建物の高さを制限するもので、この斜線から突き出して建築をすることはできません。この勾配は原則として住居系地域では1.25、商業系地域と工業系地域では1.5となっています。また、前面道路の反対側の境界線からの適用距離が、容積率との組み合わせにより、住居系地域と工業系地域は20m~35m、商業系地域は20m~50mの範囲で定められ、これを超える部分については制限が及びません。
道路斜線制限では、建物の外壁を道路境界線から後退させた場合の緩和措置、敷地が2以上の道路に接する場合の緩和措置、その他敷地の条件による緩和措置などが設けられていて、実際に適用される斜線がかなり複雑になる場合もあります。
隣地斜線制限(隣地高さ制限)とは?
隣地斜線制限は、第1種低層住居専用地域と第2種低層住居専用地域には適用されません。これは低層住居専用地域に、隣地斜線制限よりも厳しい「絶対高さの制限」があるためです。隣地境界線からの一定の立ち上がりと勾配の組み合わせによって建物の高さが制限され、住居系地域では立ち上がりが20m、勾配が1.25となっています。その他の地域は立ち上がりが31m、勾配が2.5で、他の高さ制限に比べると緩やかな規制内容です。
隣地斜線制限の場合にも、建物を隣地境界線から後退させた場合の緩和措置、敷地と道路、その他の条件による緩和措置などが設けられています。
北側斜線制限(北側高さ制限)とは?
北側斜線制限は、第1種・第2種低層住居専用地域と第1種・第2種中高層住居専用地域に適用されるものです。北側の隣地における日照、採光、通風などを保護することが目的で、他の高さ制限に比べると厳しい内容になっています。隣地斜線制限と同様に一定の立ち上がりと勾配の組み合わせによって制限されますが、立ち上がりの起点は真北方向の隣地境界線、もしくは北側に前面道路がある場合はその反対側の境界線となります。
立ち上がりは第1種・第2種低層住居専用地域が5m、第1種・第2種中高層住居専用地域が10mとされ、勾配はいずれも1.25です。
ただし、下記の日影規制があるときは、第1種・第2種中高層住居専用地域に北側斜線制限は適用されません。
なお、この制限における斜線は、真南方向へ延ばした線となるため、敷地境界線と直角になるわけではなく、敷地の条件によってはかなり複雑になります。また、北側斜線についてもいくつかの緩和措置が設けられています。
日影規制(日影による中高層の建築物の高さの制限)とは?
日影規制は、建物の形態や建築可能な範囲を直接制限するものではなく、建物で生じる影によってその可否を判断します。敷地境界線から外側の一定のライン(5mを超え10m以内の範囲、および10mを超える範囲)において、それぞれ決められた時間以上の日影を生じてはならないとするものです。おそらく自分の家のことよりも、南側の隣地に建てられる建物のことのほうが気になるところでしょう。
日影規制では、日照時間が1年で最も短く、影が長くなる冬至日を基準として、午前8時から午後4時までの8時間(北海道は午前9時から午後3時までの6時間)における影を判定します。
また、隣地などの地盤面に生じる影ではなく、平均地盤面から一定の高さ(1.5m、4m、6.5mのいずれか…用途地域または指定による)の測定面が設定されます。
日影規制の対象となるのは、第1種・第2種低層住居専用地域、および用途地域の指定のない区域で条例で指定された区域の場合が、「軒の高さが7mを超える建築物または地階を除く階数が3以上の建築物」ですから、一般的な2階建ての一戸建て住宅は規制されません。
その他の区域の場合は、「高さが10mを超える建築物」が日影規制の対象となります。
規制区域は地方公共団体の条例によって指定されますが、商業地域、工業地域、工業専用地域は除かれます。
ただし、商業地域など規制対象外の区域にある高さ10mを超える建築物が、他の規制区域内に影を生じるときには、その規制区域内の数値に基づいた規制を受けることになっています。
商業地域内にある建築物の間では、日影規制による日照の保護がないことに注意が必要です。
商業地域内のマンションが、南側に建つ別のマンションやビルによって一日中まったく日照を受けられなくなったとしても、この規定のうえでは問題とされません。別の区域でも、敷地境界線から5m以内の範囲には規制がないことに留意しておきましょう。
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