昭和時代から読み継がれる幼年童話の傑作
「いたずらをしたら、押入れに閉じ込められる」そんなお仕置きが、ごく普通に行われていた時代がありました。数十年前の昭和の頃のことです。そんな懐かしい昭和時代の1974年に発表されて、幼年童話の傑作と言われ、今なお多くの子どもたちに読み継がれ、楽しませてくれる絵本があります。それが、 『おしいれのぼうけん』です。押入れの暗闇から始まるスリル満点の冒険物語
『おしいれのぼうけん』は、保育園の押入れに閉じ込められた2人の少年が、怖ろしいねずみばあさんと対決するスリル満点の冒険譚です。お話の舞台となるさくら保育園の子どもたちには、怖いものが2つありました。1つは、悪いことをした子が閉じ込められる押入れで、もう1つは、先生たちが演じる人形劇に出てくるねずみばあさんです。ある日、ミニカーの取り合いから、けんかになったあきらとさとしは、押入れに入ることを命じられてしまいます。
押入れの暗闇や壁の染みに感じる恐怖、「ごめんなさい」を強要する保育園の先生の圧力、ねずみばあさんの圧倒的な存在感、白黒の鉛筆画に時折使われる激しい赤……作品に散りばめられた息詰まるような緊張感が、お話の面白さを支えます。
張りつめる緊張の中に、がっちり握り合う主人公たちの手と手のつながりや、絶体絶命のピンチに浮かぶミニカーとデゴイチのライトなど、緊張がひととき緩む場面が用意され、物語は緩急の絶妙なバランスをとりながらクライマックスへと盛り上がっていきます。
絵本の世界なら、古地図やコンパスが無くても大冒険を経験できます
このお話は、冒険物語であると同時に、その冒険を通じて友情を育み、勇気を奮い立たせた少年たちの成長物語でもあります。けれども、成長するのは子どもたちだけではありません。「あやまらせる」ことにこだわって、子どもたちを押入れに閉じ込めた若い保育士の先生もまた、彼らの冒険から子どもたちとの接し方を学んでいきます。
それらを象徴するかのように、物語は次の文章で終わりを迎えます。
押入れの「闇を内包する空間」と子どもたちの「明るい日常空間」をつなぐ不思議な物語は、「行きて帰りし物語」の王道をゆく作品と言ってよいでしょう。そして、帰りし後の、登場人物それぞれの成長がまぶしく感じられる絵本です。さくらほいくえんには、とても
たのしいものが ふたつあります。
ひとつは おしいれで,もうひとつは
ねずみばあさんです。 (本文より)
【書籍DATA】
古田足日 田畑精一
価格:1365円
発売日:1974/11/1
出版社:童心社
推奨年齢:3歳くらいから
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