有紀の新居
有紀の新居に親友の麻希がやってきた
27歳の会社員・西田有紀が今のマンションに引っ越してきたのは昨年の秋だった。学生時代から住んでいたアパートを出て、以前より広く駅に近い物件で家賃はさほど変わらなかったのは築年数が古かったからだ。しかし、2階のその部屋は一番奥まった角部屋で、内装が新しくなっており、室内にいる限りは新築物件のような快適さだった。
学生時代からの友人、秋川麻希が引っ越しの手伝いとその後も何度か遊びに来た。
「ホントにいい部屋だよねぇ。でも建物はちょっと古いっていうか、通路とか少し暗いよね」
「古い上になんか節電とかで暗いんだよね。昼間でも暗くて。しょっちゅうスイッチを切る人がいるらしくて」
「オートロックもついてないから泥棒とか入りやすそうだね」
「うーん。でも、ほらウチなんか盗られるものないし」
「そうかなぁ。でも、入られたらイヤじゃん。ここカギが1個しかついてないし」
「鍵を2つ持つのもメンドイじゃん」
「ここ、なんか部屋によってカギが2つついている部屋もあるね。1ドア2ロックっていうの? 隣とか」
「ここ分譲賃貸だからさ。部屋によって持ち主が違うから」
「あー、投資用の部屋だったりするんだ。この部屋もそうなんだね」
「なんか長いこと決まらないから内装を新しくしたって」
「で、有紀ちゃんが決まったわけだ」
「ラッキーだったよ。中はほぼ新築だからね」
「でも、どうせならカギをもう1個付けて2ロックにすればよかったのにね」
「全然問題ないよ。家の中にいるときはドアチェーンをつけてるし」
「うん。広めだし、キレイだし。いいよね」
「麻希ちゃん、今日、泊まっていけば? 明日休みだし。お客様用の布団もあるしさ」
「あー、広いっていいよね。ウチなんか狭いから誰も泊められないもん」
客用の布団をクローゼットから出すと有紀のベッドの横に並べて敷いた。その夜は二人で遅くまで寝ながらおしゃべりをした。