オオカミが悪者だなんて誰が決めたの?
『赤ずきん』や『おおかみと七ひきのこやぎ』といったグリム童話を引き合いに出すまでもなく、昔から物語に登場するオオカミは悪役と相場が決まっていました。でも、「オオカミは悪者だ」なんて誰が決めたのでしょうか? 可愛くておとなしいオオカミのお話があってもいいじゃないかと思っていたら、ありましたとも!
おなじみの『三びきのこぶた』のブタとオオカミが入れかわる『3びきのかわいいオオカミ』は、愛らしいオオカミと極悪な大ブタが登場するちょっと変わった絵本です。
犯罪学者と人気絵本画家のコンビが昔話をひとひねり!
ブタとオオカミが入れ替わる! 『三びきのこぶた』の愉快なパロディ絵本
有名な『三びきのこぶた』と違い、このお話で家を作るのは、子ブタならぬ可愛いオオカミの3兄弟です。しかも、おかあさんから「悪い大ブタには気をつけるのよ」などと注意されています。
3兄弟はまず、レンガを使って家を建てます。あれあれ、藁の家はなしですか? いきなりレンガの家など作っては、お話が進まないのでは……とご心配の向きもありましょうが、そんな心配は無用です。なぜなら、オオカミ3兄弟の敵役となる大ブタは、それはもう札付きの極悪非道なブタなのですから、レンガの家などものともしません。レンガの家を、あっという間にハンマーで叩き壊したかと思うと、次に作られたコンクリートの家を電気ドリルでめちゃくちゃにし、さらに鉄条網と南京錠で周りを固めた刑務所のように頑丈な家さえ、ダイナマイトで吹き飛ばしてしまいます。
可愛いブタのイメージを一気に覆す作品は、ある意味革命的かも……
犯罪学者と人気作家の異色コンビが、昔話にひねりを加えて、パロディとしての面白さ以上の新たな魅力を産み出しています。
結末は、逆転の発想がうみだすハッピー・エンド
さて、家を巡る3度の攻防の全てに敗退したオオカミたちは、4度目にちょっとした方向転換をします。「僕たち、今まで間違った材料で家を作っていたのでは?」と疑問を持ったオオカミたちは、なんと、お花の家を建てるのです。スイセンやバラ、サクラの花で壁を作り、ヒマワリの天井やヒナギクのカーペットなど斬新なアイデアで飾られた新しい家は、そよ風が吹いただけで揺れますが、それはもう美しく、芳香漂うフラワーハウスとなりました。再びやって来た大ブタは、「こんな家、ひと吹きで吹き飛ばしてくれる」と、胸いっぱいに息を吸い込みました。すると……
この悪役大ブタに、その後どのような変化が起こったかは、物語の最大の見どころであり、この作品のテーマのひとつ「気づき」について考えさせられる部分です。それだけに、結末は、作品を読んでのお楽しみといたしましょう。ただ、オオカミたちの逆転の発想が、思いがけないハッピー・エンドにつながったことだけは間違いありません。
奇想天外で含蓄のあるストーリーは、この作品だけでも十分楽しめますが、『三びきのこぶた』を読んでからの方が、2倍も3倍も楽しめると思います。また、原典の理解度に応じて、小さいお子さんから小学生以上まで、それぞれの年齢に合わせた楽しみ方ができる息の長い作品であることも魅力です。
【書籍DATA】
ユージーン・トリビザス:文 ヘレン・オクセンバリー:絵 こだまともこ:訳
価格:1470円
発売日:1994/5/18
出版社:冨山房
推奨年齢:4・5歳くらいから
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