致死性家族性不眠症とは……プリオンにより脳細胞が壊されていく病気
非常に深刻な睡眠障害である「致死性家族性不眠症」。日本でも数例の発症が報告されています
無茶な励まし方に、「少しぐらい眠らなくても、死にはしない」というのがあります。慢性的な睡眠不足は健康を害しますが、一晩程度十分に眠れない日があったとしても、それだけで死んでしまうことはないかもしれません。しかし、不眠が続いて最後には死んでしまう恐ろしい病気もあります。それが「致死性家族性不眠症」です。
この致死性家族性不眠症はとても珍しい病気です。これまでにわかっている患者さんは、世界で27家系・57人。日本でも数家系のみですが報告があります。この病気では、牛海綿状脳症(BSE)の原因として有名になった「プリオン」によって、脳細胞が壊されていきます。プリオンを作る遺伝子に生まれつき異常があり、常染色体優性遺伝で親から子どもに伝わります。
<目次>
致死性家族性不眠症の症状・発症年齢……不眠症状・無気力など
若いころはグッスリ眠れていても、中年ごろから症状が現れてきます。発症年齢は、30歳代半ばから60歳すぎで、平均年齢は51歳です。はじめに気づく症状は、昼寝ができない・夜に眠れない・熟睡感がないなどの不眠症状です。また、無気力やこれまで楽しめたものに興味がなくなるといった、性格の変化も見られます。そのほか、ものが2つに見える・眼が疲れる・夜間の発熱・高血圧・汗や涙が増える・呼吸が荒くなるなど、交感神経系の活動が高まりすぎることもあります。
致死性家族性不眠症が進行すると、ひどい睡眠不足になるため、日中にもウトウトするようになります。このときに、「夢幻様混迷」という状態に陥ります。夢幻様混迷は、日中に突然眠って夢を見て、その夢に関連して体を動かしてしまうことです。これは、目を開けていても現れることがあります。夢幻様混迷は初めのうちは数秒間だけですが、病気が進行するに従って回数が増え時間も長くなってきます。
そのうち、筋肉が痙攣したり関節が固くなったり、バランスが悪くなったりおしっこが出にくくなったりします。物が飲み込めなくなったり言葉が出にくくなったりするころには、次第にコミュニケーションも難しくなってしまいます。最後には非常に痩せて動けなくなり、寝たきりの状態になり死亡してしまいます。
致死性家族性不眠症の検査法・診断法……CT・MRIなど
致死性家族性不眠症のCTやMRI(核磁気共鳴画像)検査では、大脳や小脳が萎縮して小さくなっていることが分かります。また、アイソトープを使ったPET(ポジトロン断層法)では、脳の真ん中にある視床の活動が大きく低下しています。脳髄液をとって調べると、同じプリオン病である孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病の特徴である特殊な蛋白質が、半数の患者さんで増えています。また、覚醒に関係するセロトニンの分解物が、増えていることもあります。
終夜睡眠ポリグラフ検査では、正常な睡眠でみられる脳波や筋電図のパターンが、時間とともにドンドン壊れていきます。病気の早い時期には、浅いノンレム睡眠の特徴である睡眠紡錘波とΚ複合波が減少し、やがてなくなってしまいます。病気が進行するに従い、深いノンレム睡眠やレム睡眠もなくなります。そして亡くなる直前には、脳波が平らになって脳の活動が停止します。
最終的に致死性家族性不眠症の診断をつけるためには、プリオンの遺伝子を解析して、この病気に特徴的な D178N 129M という異常を確認する必要があります。
致死性家族性不眠症に似た症状をしめす脳の病気として、アルツハイマー病や脳血管障害、脳炎、脳腫瘍、神経梅毒、他のプリオン病などがあります。また、精神疾患のうち、うつ病や統合失調症、せん妄も、この病気と紛らわしいときがあります。さらに睡眠障害では、レム睡眠行動障害や睡眠時無呼吸症候群も似た症状が出ることがあり、注意が必要です。
致死性家族性不眠症の治療法・平均余命・予後
残念ながら、致死性家族性不眠症に対する根本的な治療法は見つかっていません。この病気は進行性でどんどん症状が重くなり、発病から8~72か月、平均18か月で死んでしまいます。もし、家族の中で致死性家族性不眠症になった人がいる場合は発症の可能性があります。この場合、遺伝子検査を受けると、プリオン遺伝子に異常があるかどうかが分かります。検査については大学病院などの大きな睡眠障害の医療機関でお尋ねください。
【参照文献】
- 雑誌・日本臨床 「臨床睡眠学」 2008年
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