初秋が食べごろ!白身の大トロ
「白身の大トロ」と言われ、高値で取引される赤ムツ。口の奥が黒いことから「ノドグロ」と呼ばれる。そのなかでも島根県浜田港であがるものは別格とされ評判が高く、それほど量も流通していない。そんな貴重なノドグロを食すなら浜田からも近い小さな温泉地である有福温泉の三階旅館をおすすめしよう。
お殿様の隠れ宿?!
有福温泉(島根県江津市)は、浜田から車で約30分。世界遺産の石見銀山へも車で約1時間の山あいにたたずむ古湯である。温泉が発見されたのは1350年前の聖徳太子の時代までさかのぼる。現在は、江津市と浜田市が共同で公衆浴場を管理し、温泉を仲良く共有している。 温泉直行の高速バスを使い、広島駅から約2時間半。古びた歓迎アーケードをくぐると、5軒の宿と3つの公衆浴場が雛壇状に肩を寄せ合う温泉に着く。今晩の宿である三階旅館は木造3階建て7室の宿。かつて浜田の殿様が湯治の為に建てた別邸で、今でも細工された御紋や追手に追われた際に逃げるための隠し扉なんかが見られて面白い。当時珍しかった三階建ての呼び名がそのまま宿の名になったといわれ、自ら包丁を握るご主人の伊田さん一家が切り盛りする。
下駄を鳴らして温泉三昧
宿に内湯もあるのだが、部屋で休むのも早々に浴衣に下駄履きで外湯へ出掛けてほしい。一番大きな公衆浴場の御前湯は薬師堂の前に建つレトロ調の建物だ。趣のある番台を通り浴室へ入ると、天井が高く、狭さを感じない。中央に鎮座する深めの湯船には無色透明の湯がこんこんと湧き出ている。そろりと足を浸けると、とろみがあり少々熱い。それもそのはず、源泉は建物の真下に自然湧出しており、湯船内との温度差は約4度。加水も加温もせず、直接注がれる正真正銘の源泉掛け流しだ。「住民の9割が外湯に入るので年中フル稼働です」と湯番さんはほほ笑む。
外湯の楽しみといえば人との触れ合い。人生の大先輩たちとの会話も楽しい。惜しむことなく何度も湯を体にかける姿は、神様からご利益にあずかるかのように映る。
おしゃれなカフェで湯上りビール
肌がすべすべになった湯上がりには、目の前の有福カフェでひと休み。石見焼グラスに注がれた生ビールを堪能するのもいい。このカフェは街に活気を取り戻したいと旅館の若主人たちが作った会社が始めた。建物も人も、新旧が溶け合ったよい温泉街だ。次のページではいよいよノドグロ三昧!