やはり王者であった
アユが焼きあがった。大胆に頭からかぶり付くと清潔な白い身からあがる爽やかな香りが湯気とともに口に広がった。まさに香魚と呼ばれるゆえんだ。くさみもない。地元の人は物足りないので内臓もまるごと焼くという。アユ飯も香ばしさがにじみ出てうまい。
料理の担当はお母さん。その他にも母屋の隣にある畑から獲ったばかりの野菜を食べさせてくれるから嬉しい。
知られざる秘湯
宿に温泉はないので、翌朝は車で約20分の山里に立つ松葉川温泉を訪ねた。
細い山道を登りつくと現れるホテル松葉川温泉は、四万十川の支流、日野地川を見下ろす渓谷に立つ19室の一軒宿だ。
10時半から日帰り入浴ができるので、朝湯としゃれこむ。源泉は日野地川の渓谷に湧き、4キロ離れたホテルに引かれている。
浴室へ入ると微かな硫黄臭に包まれる。露天風呂に浸れば眼下に川が見下ろせ、聞こえるせせらぎが耳に心地良い。森の香りが湯船まで届き、何とも爽快な温泉だ。
温泉の歴史は古く、江戸中期までさかのぼる。当時は山の営林署員だけが知る秘湯だったという。現在の温泉宿は平成5年にオープンしたまだ新しい宿。四万十が温泉郷として知られていないのも納得できる。
松葉川温泉だけではない。上流の四万十町には一ノ又渓谷温泉や十和温泉、大正温泉、中流の四万十市には用井温泉など、四万十流域には点々と温泉が湧く。そのすべてが小さな一軒宿で、清流沿いに立つ。宿をはしごしながらの湯めぐりも楽しいことだろう。
その訳は、知られていない宿だから
天然のアユを堪能し、広々とした2階建て一棟に貸切で泊まる。ペットも一緒にOK。それで、料金は一泊二食で1万250円~と嬉しい限り。
実現させたキーワードは「広告してないこと」。
実はこの素敵な宿を紹介してくれたのはアユを食べたいが為に電話をした地元の漁協さん。雑誌にも載らない、インターネット上の旅行代理店にも載せない、ましてや店頭の旅行代店とも契約しない。だから普通は分からない。いい宿とは、そういうものであろう。莫大な広告費をかけずともお客さんがお客さんと呼んでくるのだ。
そこで、良い宿の見つけ方の一つ。「こだわりで探してみる」。今回の場合は「天然のアユが食べられる宿」を漁協に聞いた。
宿専用のサイトや旅行代理店には頼らず、少しだけ手間をかけて自力で探せば、きっと素敵な宿に出会えるに違いない。
■松葉川屋
住所:高知県高岡郡四万十町七里甲166
TEL:0880-23-0416
地図:Yahoo!地図情報