社会保険/社会保険の基礎知識

従業員退職時の社会保険手続きとは?

従業員が退職する場合には、労災保険、雇用保険、健康保険、介護保険、厚生年金などの各種社会保険の退職手続きを行います。退職後の進路によって手続き方法が異なりますから、従業員が戸惑わないようにサポート役となって支援していきましょう。

小岩 和男

執筆者:小岩 和男

労務管理ガイド

社会保険の種類ごとの基本的手続き方法とは

様々な退職理由によって手続き方法が変わります

様々な退職理由によって手続き方法が変わります

従業員の退職時には、各種社会保険の資格喪失手続きが必要です。この手続、実は画一的な事務手続きができません。

例えば雇用保険の手続きでは退職に至った理由によって、失業給付を受けられる日数が変わります。健康保険では、転職が決まるまで引き続き今までの健康保険を一定の条件で継続することができたりします。

企業での退職手続き後は、退職従業員が自ら行政などの窓口に出向き手続きをすることになります。転職を繰り返している人以外は初めての経験となり、戸惑うことが多いことでしょう。したがって人事担当者は、スムーズに手続きが進むように従業員のサポート役となっていかなければなりません。今回は、法人企業を前提に各社会保険の種類ごとに基本的手続き方法を解説します。

労災保険の退職手続き

従業員を採用すると、雇用形態に関係なく労災保険に自動的に加入したことになりますが、退職時にも自動的に脱退になるのでしょうか?手続き方法を確認しておきましょう。

■手続き先・手続き書式
所轄労働基準監督署
書式は特にありません。

■手続き方法
労災保険は、従業員加入時に特別な手続きすることがありませんでした。退職の際でも同様に特別な手続きは必要ありません。また労災保険には従業員ごとの保険証がありませんので、健康保険と違い保険証の回収もありません。

■労災保険料の精算
保険料については、そもそも従業員の負担がありませんので従業員の退職ごとに清算はありません。毎年の労働保険の更新時期に企業で毎年の保険料の清算手続きをすることで完了します。

雇用保険の退職手続き(その1)

退職後の生活を支える失業給付、退職者へのサポートが求められます

退職後の生活を支える失業給付、退職者へのサポートが求められます

雇用保険は労災保険と違って、労働条件によって加入・非加入が決まっていますので、加入していた従業員は、退職手続きが必要になります。

■手続き先・手続き書式
所轄ハローワーク(公共職業安定所)
  • 雇用保険被保険者資格喪失届
  • 雇用保険被保険者離職証明書
■手続き方法
「雇用保険被保険者資格喪失届」を、退職日の翌日から起算して10日以内に、所轄ハローワークに届けます。この書式は、従業員が採用された際に発行されておりその用紙を使用してください。また、「雇用保険被保険者離職証明書」を作成し提出します。

証明書を提出するとハローワークから、「雇用保険被保険者離職票」が発行されます。離職票は退職従業員が、失業給付を受ける際に必ず必要になる書類です(ただし、従業員が発行を希望しないときは、離職証明書は作成しなくてもよいことになっています)。

■退職者へ給付内容を説明し理解してもらう
失業給付は、原則として退職してから1年間で所定給付日数分を受給します。この期間を過ぎると給付日数が残っていても受給できなくなりますので、速やかにハローワークで手続きをするよう退職者に伝えましょう。また退職時の年齢、退職理由などで失業給付の日数なども変わります。

転職先が決まっていない場合、退職者にとって失業給付は今後の収入の源になるため、いつからどのくらい受給できるかは一番の関心事です。退職の理由は多種多様。トラブルにならないように、次の内容を退職者に適切に伝えておきたいものです。

雇用保険の退職手続き(その2)

■何日分受給できるか?
1.一般的退職者(自己都合(一身上の都合)で退職する場合など)
雇用保険の被保険者であった期間によって、90日~150日分を受給できます。

2.障害者等の就職困難者(身体障害者・知的障害者など)
雇用保険の被保険者であった期間と、年齢区分によって、150日~360日分を受給できます。

3.倒産や解雇などで退職を余儀なくされた者
倒産や解雇などの状況では、再就職の準備をする余裕がないので受給日数も手厚くなっています。雇用保険の被保険者であった期間と、年齢区分によって、90~330日分を受給できます。なお、契約期間が更新されなかった場合や、病気やケガで退職した場合など正当な理由がある場合にも、同様の受給日数が受けられることがあります。

■いつから受給できるか?
1. 一般的退職者(自己都合(一身上の都合)で退職する場合など)
従業員がハローワークで手続きをしても、3ヶ月間は給付制限期間といって待機期間があります。手続きをしてもすぐには受給できないことを必ず説明をしておきましょう。

2.病気やケガ、出産や育児のための退職者
病気やケガ、出産や育児が理由で退職する従業員もいます。この場合はすぐに職を探せない場合が多いですね。失業給付は職を探している間の収入補償ですから、失業給付を受けられなくなることもあります。この場合は、本来の受給期間(1年間)にさらに3年間延長してもらうことができます。従って最大4年間で受給できるので、アドバイスしてあげましょう。

3. 倒産や解雇などで退職を余儀なくされた退職者
こうした場合の退職では、1.の一般的退職者と違い待機期間なしで受給することができます。なお、定年退職の場合や契約期間満了による退職でも待機期間なしで、受給できることがあります。

■雇用保険料の精算
毎月給与支給ごとに、所定率を掛けて計算後徴収されていました。退職時の最終給与からも給与額に応じて計算し徴収します。これで退職者の保険料の精算は完了です。企業では退職時までの保険料を預かっておいて、毎年所定時期に会社負担分と合わせて納め完了です。

<参考資料>
雇用保険の具体的手続き(ハローワークインターネットサービス)

健康保険・介護保険・厚生年金の退職手続き(その1)

転職先が決まっていない場合は、国民年金に加入する場合もあります

転職先が決まっていない場合は、国民年金に加入する場合もあります

健康保険・介護保険・厚生年金の手続きは、原則として一緒に行います。書式がセットになっていますので一連の手続きで完了します。ただし健康保険組合に加入している企業の場合は、別々に行う場合もあります。

■手続き先・手続き書類
所轄年金事務所・健康保険組合
  • 健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届
  • 健康保険被保険者証回収不能・滅失届(被保険者証回収ができないとき)
■手続き方法
従業員の退職日の翌日から5日以内に、従業員から回収した健康保険被保険者証を添付して、上記「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を提出します(本人分だけでなく、被扶養者の保険証回収も忘れずに行います)。なんらかの理由で回収できない場合は、上記回収不能・滅失届を提出します。

健康保険・介護保険・厚生年金の退職手続き(その2)

■退職後すぐに転職しない者への対応

1.今までの健康保険を継続するなどいくつかの選択肢
退職後、転職先が決まっていれば、次の会社で健康保険の加入をすることになるので問題はとくにありません。しばらく就職しない場合、退職者へのサポートが必要になります。

(1)任意継続加入
実は、今までの健康保険を引き続き継続加入することができる場合があります。加入していた期間が2ヶ月以上あれば、従業員の希望でさらに2年間継続して加入できるのです。再就職が決まるまでのつなぎとして加入することもよいですね。ただし保険料は、会社負担分も含めて全て自己負担になりますので注意が必要です。

(2)国民健康保険に加入 OR 家族の被扶養者になる
他の選択肢としては、住所地の国民健康保険に加入する途もあります。負担する保険料額と給付内容を総合的に勘案して選択するようサポートしましょう。なお、今後働かない場合、働いても一定範囲の収入の場合には、家族の扶養家族となって健康保険上の被扶養者となることも考えられます(保険料の負担はありません)。

2.厚生年金から国民年金への切り替えが必要になる場合

(1)国民年金第1号被保険者になる
健康保険と同様で転職先が決まっていれば、次の会社で加入するので特に問題はありません。就職が決まるまでの間は、国民年金に加入することになります。20歳から60歳までの間は、国民年金の第1号被保険者となります。市区町村役場で手続きをするようアドバイスをしておきたいですね。

(2)国民年金第3号被保険者になる
今後働かない場合、働いても一定範囲の収入の場合には、配偶者の扶養家族となり年金の世界における被扶養者(被扶養配偶者)となることも考えられます。これを国民年金の第3号被保険者と言います(保険料の負担はありません)。

健康保険は身近な存在なので未加入ということはあまりないのですが、年金になると上記の切り替え手続きをしない方も見受けられるようです。未手続きは即、将来の年金額に直接不利益を及ぼします。年金制度は複雑ですが、切り替えについての助言は欠かせません。

■月末退職者の保険料の徴収に注意
保険料は、月単位で徴収しています。月の途中で退職しても1ヶ月分を徴収します。日割計算をするわけではありません。事務手続きで特に注意が必要なのは、月末退職者です。保険料は、入社月から退職月の前月分までを徴収します。退職日の翌日が退職月となることが決まりごとになっています。非常に細かい点ですが、ここを見落として計算しているケースも見受けられます。具体例は次のとおりです。

(具体例)
4月30日が退職日(月末退職)の場合
資格喪失日は、翌日の5月1日となります。この場合、5月が退職月になりますので、4月分保険料の徴収義務があります(退職月の前月分まで徴収義務あり)。4月の給与では、前月3月分保険料だけでなく、給与締切日、支払日によっては4月分保険料の徴収をするケースがあります。つまり2ヶ月分の保険料を徴収しなければならないのです。

<参考記事>
従業員採用時の社会保険手続き
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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