日本の製薬業界構造を変える薬価改定制度の抜本改革
薬価改定制度の抜本的改正が中堅新薬メーカーの経営戦略を揺るがしています。
ジェネリック医薬品の普及とともに、日本政府が薬剤費の増加抑制のために力を入れてきたのが薬価の定期的な見直し(切り下げ)です。
日本では2年に1度薬価の見直しが行われており、見直しによって結果的に薬価は下げられてきました。これは特許期間中であっても同様です。しかし新薬の開発には莫大な開発費がかかるため、新薬メーカーは特許が切れて安価なジェネリック医薬品が普及する前に十分な利益を得られないと、継続的に新薬を開発し続ける十分な資金を得られません。
そこで製薬業界では、「特許期間中の新薬の中で一定の要件を満たすものについては薬価の見直しを行わず、ジェネリック医薬品が発売された後にまとめて引き下げる」という薬価改定方式を提唱し、2010年4月から試験的に導入されることになりました。
経営戦略の抜本的見直しに迫られる中堅新薬メーカー
これまでは特許の切れた薬(長期収載品)も薬価が急に下ることはありませんでしたので、多くの新薬メーカーにとっては長期収載品も重要な収益源となってきました。
ところが薬価改定方式の抜本的な改革が行われると、新しい薬を次々と開発できる大手新薬メーカーは今まで以上の収益を上げられるようになる一方で、長期収載品の収益性はいっきに低下するため、特許切れの薬の多い企業は深刻な収益性の低下を招きます。そうした企業は今後どのように収益を確保していくか、早急に経営戦略の再構築を図る必要があります。
その答えの1つがジェネリック医薬品への本格的な進出です。中堅メーカーでも新薬メーカーは品質・情報提供・安定供給に対する医師の信頼を得やすいため、ジェネリック医薬品で順調に実績を上げはじめている企業が目立ってきました。
■ジェネリック医薬品事業で順調に実績を上げている中堅新薬メーカー
- 日本ケミファ2011年3月期決算、後発品の売上は前年比23.8%増の179億9000万円
- キョーリン製薬2011年3月期決算、後発品は89億円を売り上げ、2012年3月期には100億円に達する見通し
- 科研製薬2011年3月期決算、後発品事業の売上は78億5200万円で前年比15.7%アップ
- 明治製菓2011年3月期決算、後発品事業の売上は前年比29%アップの189億円
製薬業界の構造変化がMR転職市場に及ぼす影響
製薬業界の構造変化は、MRの転職にも影響をおよぼしています。将来的な経営ビジョンが描きにくい状況の下で、正社員MRの採用に慎重になっている製薬企業が増えているといえます。企業は中途退職者・定年退職者の補充が必要になった場合は正社員を採用する代わりにコントラクトMRを活用する傾向が見られ、業界全体としてコントラクトMRが増えています((財)MR認定センター:MR白書)。
従来はMRに転職する場合、応募先企業が新薬メーカーかジェネリック医薬品メーカーか容易に判断できました。ところが新薬メーカーがジェネリック医薬品事業を本格的に展開しはじめたため、応募先企業の実質的な事業内容を調べないと、新薬メーカーに転職したつもりでも実際にはジェネリック医薬品を扱うといったことにもなりかねなくなりました。これからは応募先企業の事前研究が今まで以上に重要になるといえます。
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