あなたの『スイミー』とわたしの『スイミー』はまるで違う?!
今回ご紹介する絵本は、『スイミー ちいさなかしこいさかなのはなし』です。小学校の国語の教科書に掲載されていましたから、「ああ、それならもう知っているよ」という方も多いことでしょう。ところが、作品に対する印象や作品のテーマについて読者にお聞きしてみると、一人ひとりまるで違う答えが返ってきます。『スイミー』は、そんなちょっと不思議な作品なのです。
読めば明るく前向きになれる絵本『スイミー』のストーリー
スイミーは、小さな黒い魚。兄弟たちがみな赤い色をしている中で、ただ1匹だけ真っ黒の魚でした。ある日、大きなマグロが群れを襲い、兄弟たちはみなマグロに食べられてしまいます。辛く悲しい経験をしたスイミーですが、海にはたくさんの美しいものが存在することを知り立ち直っていきます。
やがて、スイミーは赤い小さな魚たちと出会いますが、彼らは大きなマグロの影におびえ、海の中を自由に行動することを恐れていました。それを知ったスイ ミーは、あることを提案します。仲間たちはスイミーの言葉を受け入れ、思いもかけない方法で自由を手に入れるのです。
『スイミー』のテーマは1つだけじゃない!?
さて、あなたなら、この作品を読んで何を感じますか? 作者のレオ=レオニは、「自己発見と自己実現」を主題としてこの作品を描いたといわれます。一方で、多くの人は「知恵と勇気」や「協力することの大切さ」を作品のテーマだと感じます。また、柔らかくゆらゆら揺れる海草のイラストに、「悩みながらあちらこちらに揺れ動く自分自身」を重ね合わせた女性もいます。スイミーだけが黒かったことから、「仲間はずれ」について考えた幼稚園児もいました。
読者が作品から感じることは、いつも作者の意図する主題に関することばかりとは限りません。それでも、同じ作品に対して、読者がこんなにも多様な感じ方をするというのは珍しいことです。
『スイミー』は、読者によって見せる顔が全く異なるような懐の深い作品。「多面性」を持っているといってもよいでしょう。その「多面性」を意識して読むことで、読者のいろいろな側面とマッチした「その人ならでは」の読み方ができます。それが、他の絵本にはない、『スイミー』の大きな魅力のひとつです。
「昔、暗誦するほど読んだよ」という方も、あらためてお子さんと一緒に『スイミー』を読んでみませんか? 以前読んだ時とは全く違う感想を持たれるかもしれませんよ。驚くほどのさまざまな顔を見せる『スイミー』なら、お子さんの成長やあなたの変化に合わせて、ずっと長い間楽しめる特別な絵本になるはずです。
【書籍DATA】
レオ=レオニ:作 谷川俊太郎:訳
参考価格:1572円
出版社:好学社
推奨年齢:4歳くらいから
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