不動産売買の法律・制度/宅地建物取引業法詳説

宅地建物取引業法詳説 〔売買編〕 -27-

宅地建物取引業法のなかから「一般消費者も知っておいたほうがよいこと」などをピックアップして、順に詳しく解説するシリーズ。第27回は「不当な履行遅延の禁止」および「秘密を守る義務」について。

執筆者:平野 雅之


宅地建物取引業法詳説〔売買編〕の第27回は、第44条(不当な履行遅延の禁止)および第45条(秘密を守る義務)についてみていくことにしましょう。

 (不当な履行遅延の禁止)
第44条  宅地建物取引業者は、その業務に関してなすべき宅地若しくは建物の登記若しくは引渡し又は取引に係る対価の支払を不当に遅延する行為をしてはならない。
 
 (秘密を守る義務)
第45条  宅地建物取引業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。宅地建物取引業を営まなくなつた後であつても、また同様とする。

顧客に損害を与えるような履行遅延は許されない

宅地建物取引業者が不動産を販売したときの引き渡しや所有権の移転登記、あるいは不動産を買い取ったときの代金の支払いなど、業者自身が契約の当事者として債務の履行義務を負うケースは少なくありません。

このようなとき、約束の期限になっても義務を実行しなければ当然ながら相手方に不測の損害を及ぼすことになるため、民法上の債務不履行(履行遅滞)の問題だけではなく、宅建業法上でも禁止規定が設けられています。

たとえば、地価の上昇期に土地を売却した宅地建物取引業者が、「引き渡しをあと2か月引き延ばして、違約金を支払ってでも別の買主に売ったほうが儲かりそうだ」などと決済の遅延行為をする場合などもこれに該当します。

ただし、宅建業法で禁止されているのはあくまでも「不当な履行遅延」であって、やむを得ない事情がある場合に宅地建物取引業者の責任を問うことはできません。販売した建物が火災によって焼失したり、建築工事の遅れによって引き渡しが延びたりするときには、売買契約における他の取り決めによって解決を図ることになります。

また、宅地建物取引業者が媒介した契約において、売主による引き渡しの遅れ、あるいは買主による代金の支払いの遅れなどが生じた場合も、双方の間にいる業者の責任を問うことはできません。もちろん、その原因が業者自身にあるなら話は別です。

なお、第44条によって「不当な履行遅延」が禁止されているのは、「登記、引渡し、取引に係る対価の支払」に限定されています。しかし、買主から預かった手付金を(正当な理由がないまま)売主に手渡さない場合や、預かり金を会社の運転資金に流用してしまった場合、あるいは当事者のどちらかに返金すべき金銭をなかなか支払わない場合なども、この禁止事項に該当すると考えるべきでしょう。規定の曖昧さは否めませんが…。

顧客のプライバシーは守ることが大原則

不動産の仕事をしていれば、売主や買主のさまざまな個人情報に接することになります。氏名や住所、性別、生年月日などの基本情報はもちろんのこと、年収や財産状況、相続や親族間のトラブル、仕事上の問題など、多くの秘密を知ることになるケースが少なくありません。

これらの秘密が外部に漏れれば、顧客に不測の損害を与えるだけではなく、顧客は安心して宅地建物取引業者に仕事を依頼することができず、不動産の円滑な流通を阻害することにも繋がりかねません。そこで、医師や弁護士などと同様に、宅地建物取引業者に対しても法律によって守秘義務が課せられています。これは個人情報保護法による規定よりもさらに重い義務と考えて良いでしょう。

また、東京都内の宅地建物取引業者であれば、芸能人や著名人が顧客になる機会も多いのですが、たとえば「誰がどこの家を買った」というような情報も秘密として守られなければなりません。先日、ある飲食店の従業員が著名人の来店情報をTwitterに流していたというような「事件」もありましたが、宅地建物取引業者が同様のことをすれば宅建業法違反に問われる場合もあるでしょう。有名人ではなくても、個人名を挙げて購入情報などを世間に流すことはできないのが当然です。

第45条では「宅地建物取引業者は……宅地建物取引業を営まなくなった後も同様である」としていますが、これとは別に「第75条の2」によって宅地建物取引業者の使用人や従業者個人に対しても同様の守秘義務が課せられています。退職して別の職種に就いてからでも、過去に知った秘密を口外することはできません。また、これには年数の規定はありませんから、法律上ではいったん宅地建物取引業に就けば、ずっと課せられ続ける義務です。

守秘義務には例外もある

宅地建物取引業者にとって重要な守秘義務ですが、これには例外もあります。

たとえ「業務上で知り得た秘密」であっても、それが取引の相手方に対して不測の損害を与えるおそれのある内容であれば、逆にそれを告知しなければなりません。売買契約締結前に行なう重要事項説明において、買主に告げなければならない問題などがこれに該当します。

守秘義務と告知義務との狭間で、どちらを優先するべきか迷う場面も現実にはあるでしょう。しかし、一般的には告知義務のほうを優先するケースが多いようです。買主へ告知をすることについて事前に売主の了解を得れば、守秘義務そのものが解除されます。

また、裁判の証人として証言を求められたとき、警察による正当な捜査に協力が必要なとき、国税局や税務署による一定の調査のときなど、「正当な理由」がある場合にも守秘義務は解除されます。

さらに、犯罪収益移転防止法(犯罪による収益の移転防止に関する法律:2008年3月1日施行)によって、売主と買主の本人確認を行なったうえで締結した売買契約に疑わしいところがあれば、宅地建物取引業者はその旨を行政庁に届け出なければならないことになっています。この場合も、守秘義務より法律による規定のほうが優先することになります。

もう何年も前のバブル終盤の頃、国の組織の要職に就いている某氏の裏金に接したときには、その対応に困りましたけどね。
(この程度の暴露なら守秘義務違反にはならないでしょう)

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