強気の勝負で不動産会社の相場感を一蹴!
築40年、テラスハウス、駅から徒歩18分
その部屋は2階建てのテラスハウスの一番端に位置しています。以前は小さな焼き鳥屋さんでした。1階2階それぞれ18平方メートル、合計で36平方メートルの2階建てが、4戸くっついたテラスハウス。築40年を超えていました。お世辞にも綺麗とはいえない外観、取り壊しの時期が迫っているように見える建物でした。
地元不動産会社に聞くと、「賃料は、8万円くらい貰えればいいところ」。
ある経緯から、この物件のリフォーム、入居者募集、管理などについて、相談を受けることとなりました。建物が古いだけでなく、駅への徒歩便もいいとはいえません。最寄り駅からは徒歩18分、もうひとつの駅からは徒歩25分。バス便もなく、入居者募集の面で大きなハンディを負っています。
しかし、住宅地図ではなく道路地図を確認すると……、近くには東京都心から郊外へ抜ける二本の高速道路のインターチェンジがあります。物件はそれらに挟まれた場所に位置しています。高速道路を辿ると……、その行く手にはライダーの聖地といわれるツーリングスポットが点在しています。
建物1階の店舗部分をリノベーションし、「これをガレージにすれば……、四輪車には面積が狭いので無理だが、二輪車用ならば十分な広さだ」。若者のカルチャーがさかんに発信されることで知られる人気のエリアにも、バイクであればアクセスがよく、「ここは、ひょっとしてバイク好きにはたまらない立地なのでは……!?」。
思い立った私は、知り合いであるバイク雑誌の編集者に連絡をとりました。アドバイスを得て、市場のニーズを確認。物件の大胆なリノベーションを自信を持って提案することにしました。外装、内装、ともに一新することとなりました。通りに面した1室の1階をバイク専用ガレージとする、「ライダー向けガレージハウス」というアイデアでした。
賃料は12万8千円を提案。通常の不動産広告媒体だけでなく、オーナーにご負担をいただき、小さなスペースではありますが、バイク雑誌、ライダー向けインターネットサイトにも広告を打ってもらいました。
「そんな高い賃料では決まらないのでは」、との不安の声を押し切っての募集でしたが、その後、間もなく、「これこそ僕の探していた物件です」と、入居の申し込みが入ったのです。2台のバイクを所有するライダーでした。
内外装がきれいにリフォームされたとはいえ、相場よりも6割高い賃料での契約が成立したのです。地元不動産会社を頼らない新たな入居者募集のスタイルが、今回はうまく当てはまった形となりました。
ガレージ横に洗面所? ライダーには便利なんです!
この物件、一般の人にとっては「サプライズ」が盛り沢山で、特殊な物件といってもよいものです。ライダー向けに配置された住宅設備
まず、玄関入口は電動シャッターです。以前は手動シャッターだったものを音の静かなタイプの電動シャッターに交換しました。部屋に入るには、そのシャッターを開け、ガレージの中を通過します。その奥にあるドアを開いて居住用部分に入ります。居室はそこから階段を上った2階にあります。
しかし、洗面所とトイレ、バスルームは1階です。ガレージの奥にあるのです。「え!すると、トイレのたびにいちいち階段を下りる……?」。普通の人は驚くでしょう。「ぜひ借りたい」と思えるような物件ではないはずです。しかし、休日は必ずバイクに乗り、バイクに乗らない時間はバイクをいじるのが何よりも好きな人たちの気持ちになって考えてみると、話は違ってきます。バイクの整備作業中、トイレや洗面台がそのすぐそばにあればあるほど、ありがたいのです。
ツーリングから帰ってくれば、その場で汚れたツナギを脱ぎ、シャワーに飛び込むことが出来ます。「これを探していました!」と、多くのバイク好きに言わせる環境です。
もちろんこの物件では、ガレージの中に、バイクのパーツや工具を置けるアルミ製のラックも設置してあります。愛車を夜間でも整備できるよう、照明設備も完備されています。電源コンセントのほか、洗車などのための水道蛇口も取り付けました。ツナギなどのバイクウェアを掛けられるスペースも確保。
「ライダーのため」という明確なコンセプトと、それを裏付けるハード面の手当て。両方がしっかりと揃うことで、ライダーのハートを鷲掴みにすることができました。
ちなみに、私自身も実は元ライダーです。バイク好きの気持ちがある程度わかっている上での提案でした。
「車やバイクと暮らしたい!」人々がいます
バイクがこの家の主人公です
車やバイクは、一部の人々にとっては、熱烈な趣味の対象です。家での生活から離れた外部の「車庫」や「駐車場」に追いやるのではなく、いつでもそばに置いておきたい、眺めていたい、そんなニーズも少なくありません。盗難やいたずらへの対策、メンテナンスの利便性といった実質的な面からも、当然うなずけることでしょう。
そうした中、特に人気があるのは、リビングとガレージが融合した設計です。日常生活の中心となる場所から、つねに愛車を見守ることができるというものです。リビングとガレージとの間は、愛車の姿が見えるよう、ガラスの見渡し窓で区切られるなどしています。
あるいは、ガレージに隣接する部屋を特別に設けたり、ガレージ内にリビングスペースを作ったりして、そこをリラックスできる趣味の拠点にするケースもあります。ガレージがそのまま第二のリビング(人によっては第一のリビングでしょうか?)になるわけです。
私の知り合いには、オートバイを何ヶ月もかけて一度ばらばらに解体して、また組み立て直すことを趣味としている人がいます。また、サイドカーに愛犬を乗せてツーリングを楽しむなど、マニアの中でもさらにマニアックな人が多数いますが、ガレージハウスは、そういう彼らの心を掴んで離さない住まいです。