猫と妊婦・赤ちゃんが同居するときの注意点
赤ちゃんと猫が仲良く暮らせることが一番ですよね
「猫はだめよ、すぐに手放さなきゃ。猫がいると健康な赤ちゃんが生まれないわよ」「赤ちゃんがアレルギーになるから、猫なんか飼ってちゃダメじゃない」「猫が赤ちゃんに焼き餅を焼いて、ケガをさせるかもしれないわ!」
猫(ペット)を飼ったことがない初めて妊娠した方のご家族の方が「猫を手放しなさい!」といわれる傾向が高いように思います。妊娠中の体調・精神的な変化で不安になっているところに、それまで大切な家族の一員と思ってきた猫を手放せといわれると、ますます精神的に追い込まれてしまう方もいるでしょう。
<目次>
猫を飼ってる人が妊娠したら手放すべき?
本当に妊娠したら猫を手放さなければいけないのでしょうか? 猫がいると、健康な赤ちゃんが生まれない? 猫がいるとアレルギーになっちゃうの?いいえ! 大丈夫です。手放す必要はありません。猫と生活する上での注意事項を正しく理解してルールを守れば、妊娠・出産・子育てと年を重ねていく間、同居動物=猫との生活はますます幸せな時間となるでしょう!
前置きが長くなってしまいましたが、猫がいて、これから子育てを経験するであろう人、親しい人に赤ちゃんが誕生する予定の人には、ぜひ最後まで読んで、正しい知識を身につけていただきたい内容です。つまらない風評や間違った迷信的な考えにとらわれた大きな親切(お節介ともいう)を振り回す人を説得できるだけの正しい知識を持ってください。
猫との同居で「赤ちゃんが健康で生まれない」といわれる理由
多くの方が一番心配に思われることは、トキソプラズマ感染症ではないでしょうか。トキソプラズマ感染症は『人畜共通感染症=ズーノシス』のひとつです。トキソプラズマは寄生虫の中でも、もっとも小さい『原虫=胞子虫類』です。猫科の動物以外の多くのほ乳類、人間、羊、豚、齧歯類(ネズミやハムスターなど)、鳥類も感染しやすいですが犬には感染しにくいようです(爬虫類や両生類、魚類も感染しやすいとしている資料もあります)。
種々の寄生虫はどんな動物の中でも成長できるわけではありません。感染後成虫になって、自身が繁殖できる(卵を産む)一番適した環境の動物を『終宿主』といいます。終宿主は寄生虫にとっては大切な住処ですし、動物本体が弱ってしまうと寄生虫自身も困ったことになるので、通常はこの終宿主にはあまり深刻な危害を与えません。しかし、幼虫にしかなれない『中間宿主』に感染した場合は、あちらこちらを動き回って色々弊害をもたらすことがあります。
トキソプラズマ原虫がオス・メスの個体に分かれて有性生殖を行える終宿主は猫科の動物だけなので、トキソプラズマという名前があがると真っ先に猫が悪者にされます。しかし、実際はトキソプラズマは猫からの感染より生の肉類(特に豚肉)や、庭などの土、ハエやゴキブリなどからの感染率の方が高いのです。
トキソプラズマには、どうやって感染するのか?
原虫の感染形態には4つの変化があります。- ブラディゾイト
繁殖活動ができる成虫のようなもの - オーシスト
虫の卵のようなもの - タキゾイト
繁殖することができない幼虫のようなもの - シスト
自分に適した環境ではないので、シェルターのような核の中で活動を停止しているサナギのようなもの。
トキソプラズマ原虫は『オーシスト』または『シスト』のどちらかの形で動物の体内に取り込まれます。
■猫科の動物からの感染経路
トキソプラズマの終宿主は猫科の動物ですので、猫科の動物の身体の中に入ったトキソプラズマは『ブラディゾイト』になって繁殖活動を行い『オーシスト』を糞便中に排出します。この糞便中に出てきたオーシストを口にすると、もちろんその動物はトキソプラズマに感染します。
しかし、排出されたばかりのオーシストには感染能力がありません。猫科の動物から排出されたオーシストは、排出されて空気に触れることで胞子形成を起こし、24時間から長くて3週間程度経ってはじめて感染能力を持つ成熟オーシストに変化します。室内で飼われている猫の糞便からトキソプラズマに直接感染するには、次の3つの条件がそろわなければいけないので、かなり確率が低いでしょう。
- 初感染の猫、または免疫が落ちて再感染・再発症している猫
- 感染後、約1~数週間の間の糞便
- 排出されて24時間以上放置された糞便についているオーシストを直接口に入れた場合
■猫科以外のからの感染経路
シストがいる動物の肉を食べると、シストの袋が破れてトキソプラズマに感染します。しかし、シストは熱に弱いので、肉類を食べるときはよく加熱すれば問題になりません。土いじりする時は必ずゴム手袋を着ける、その後石けんできれいに手を洗えば感染を防ぐことができます。
妊婦さんにトキソプラズマ原虫が問題になるのは?
現在成人の約20~60%はすでにトキソプラズマに感染したことがあるといわれており、健康な人の場合はほとんど免疫機構で抑えられ問題となることはありません。ただし、免疫不全系の病気(AIDSなど)に感染している場合は非常に重篤となるケースがあります。しかし、妊娠中に初めてトキソプラズマに感染すると、胎盤を通じて胎児も感染(先天性感染)し、胎児の流・死産や新生児水頭症を引き起こす可能性があります。胎児に問題となる感染は、妊娠中に初めてトキソプラズマ感染症にかかった場合だけです。過去(妊娠の6ヶ月以上前)にトキソプラズマ感染症にかかっていれば、なんの問題もありません。これは人の免疫機構により増殖が抑えられ、血中に虫体が出てこない、すなわちトキソプラズマに対する抗体がすでにできているからです。
これから妊娠の可能性がある方は、まず一度トキソプラズマの検査を受けてください。
- 陽性だった場合
妊娠してもこの病気に関する危惧はほぼ考えなくても良いでしょう。
- 陰性だった場合
飼い猫のトキソプラズマ抗体価検査を受けてみましょう。
飼い猫が陽性の場合、猫の免疫機能が落ちて再発症する事がないように猫の健康管理に注意しましょう。猫が排泄したら、なるべく早く直接触らないようにウンチを片付け、手をキレイに洗う習慣を付けてください。また猫との密接な接触(一緒に寝る,食べ物の口移し,顔を舐めさせる等)を避けましょう。
飼い猫が陰性の場合、あなたも猫も今後トキソプラズマに感染しないように注意しましょう。猫は完全室内飼いにし、生肉(特に豚肉)は加熱して食べる、土いじりをするときはビニール手袋を着用し、なんにしても十分な手洗いを。
猫がいると赤ちゃんはアレルギーになるのか?
幼いうちから猫が身近にいる方がアレルギーを起こしにくいという研究発表も
アレルギーとはご存じの通り、自分の身体の中で適応できない抗体反応です。猫のアレルゲンは『猫のフケ』と『猫の唾液』といわれています。よく毛があるからアレルギーになると誤解され、毛がない猫、毛が短い猫の方がアレルギーになりにくいと思われる方がいらっしゃいますが、毛がないスフィンクスのような猫でもフケは出ますので、アレルギー反応は起こります。まして、唾液に関しては防ぎようがありません。
猫アレルギーの人はたくさんいらっしゃいますが、アレルゲンは猫だけではありません。一番多いアレルゲンは、ハウスダストだといわれていますので、ほこりの出にくい寝具に変える、カーペットをやめる、こまめに掃除を行う、空気清浄機を備え付けるなど、猫以外のアレルゲンとなるものを少なくしておきましょう。
アレルギーを起こすかもしれないものすべてを排除することは不可能です。それよりも、少々のアレルゲンには対抗できる免疫=抵抗力を養ってアレルギーを巧くコントロールできるような子供を育てる方が、将来的にも有効ではないかとガイドは思います。
猫は赤ちゃんに嫉妬して傷つけるか?
猫にどのような感情があるか定かではありませんが、いつもと違う雰囲気を察知する能力が非常に優れた動物です。お母さんになる人は、10ヶ月の間、自分の身体の中で新しい生命を育み、徐々に母親になる自覚がついてきます。それが理解できず、赤ちゃんに自分の親(猫は飼い主を自分の親猫と思うことがあるので)を取られたと思う猫がいるかも知れません。猫のことをどれだけ愛して、大切な家族と思っていても「猫は猫」です。
猫が赤ちゃんに対してどんな反応を示すかわかりませんが、妊娠がわかった時点で、今後も猫と一緒に生活をしていくために、今の生活環境や習慣を見直し、新しい家族を迎える準備をしていきましょう。
まずは、猫に新しい家族が増えることを理解させるために予行練習をしてはいかがでしょうか。早めにベビー用品を購入し、赤ちゃんに見立てた人形を用意します。検診などで産院に行くときは、タオルなどを持参して看護士さんに協力してもらって、そのタオルに赤ちゃんやミルクなどの匂いを付けてもらいましょう。それを持ち帰り、用意してあるダミーの赤ちゃん人形をそのタオルでくるみ、猫に人形の匂いを嗅がせてください。嗅いだことがないニオイに猫は敏感に反応しますので、あらかじめ上記のような方法で『赤ちゃんの匂い』を認識させておくのです。
赤ちゃんの部屋で、実際にやるように人形を抱っこしてあやしてみせて、飼い主がそのような動作を取ることに慣れさせておきましょう。
赤ちゃんの泣き声を録音した音を猫に聞かせておくのも、よいトレーニングになるでしょう。大人の声と赤ん坊の泣き声は周波数が違いますのでその声に慣らしておくことは効果的だと思います。
猫は突然何かが起こることを嫌う動物です。徐々に家族が増えることを認識させておいて、猫の精神状態が安定していれば猫も赤ちゃんを受け入れやすくなるでしょう。
赤ちゃんを初めて猫がいる家に連れ帰ったときの注意は?
可能であれば、赤ちゃんを別の人に抱っこしてもらって家に入りましょう。家を空けていた飼い主が帰宅したことを喜ぶあまり、猫が飛びかかってこないとは限りません。また、真っ先に猫に挨拶して赤ちゃんを紹介したいものです。先にいる猫が長男・長女で次に生まれる赤ちゃんはその弟か妹です。赤ちゃんと猫を守る基本ルールは?
赤ちゃんがいるスペースは、赤ちゃんの縄張りだと猫が認識できるように準備します。赤ちゃんの寝室には猫を一切入れないようにするか、入っても良い時=家族の誰かがいるときだけその部屋に入ることができる=習慣をつけましょう。ほんの少しの間でも赤ちゃんの側を離れるときは、必ず猫を部屋の外に出してください。ハイハイ・立っちするようになった赤ちゃんへの注意点は?
赤ちゃんは何でも興味を示し、口に入れてそれを確かめようとします。猫のトイレや食餌のある場所に、赤ちゃんが入れないようにベビーフェンスなどを用意してください。「猫のご飯を食べちゃった」は、まだ笑い話で済ませられるかもしれませんが、赤ちゃんには食べ物も猫のウンチも区別が付きません。赤ちゃんはかなり強い力で物をつかみます。握り拳を開かせるのが難しいほど握りしめることもあります。側にいる猫は、シッポや耳を思いっきり捕まれる被害に遭うかもしれません。痛い目に遭った猫は反射的に赤ちゃんを攻撃してしまう可能性があります。赤ちゃんと猫の位置関係には十分注意してください。
猫という家族がいることの意義
猫を撫でるだけで心拍数や血圧が安定することはよく知られています。妊娠中、つわりがひどくて苦しいときに側に寄り添ってくれる猫に安らぎを感じる事ができるかもしれません。子育てが始まって、夜泣きに付き合って睡眠不足でフラフラになっても猫がいることで癒されるかもしれません。やがて赤ちゃんに物心が付き始めた頃、身近にいる動物は人間だけでは教えることができない『優しさ』や『いたわり』を教えてくれるでしょう。幼い子供に人間とは違う別の『いのち』の存在を肌で感じさせてあげてください。
悲しいことですが、猫の寿命の方が人間より先に来てしまいます。しかし、いのちの終わりがあること、それまでの間を一生懸命『いきる』ことを、その姿全身で示してくれるペットの存在は何物にも代えがたい教育となるでしょう。人間よりも弱い動物がいることを知る機会があるだけで、弱いものに対する優しさが生まれるでしょう。面倒をみてあげなければいけない存在がいることで、様々なことに責任感が生まれてくるでしょう。
妊娠・出産後に猫がいることをマイナスで考えないでください。猫がいても、衛生面や安全に気を遣った常識的な生活をおくっていれば問題となることは少ないのですから。
これから妊娠するかも知れない飼い主さんが猫に注意すること
妊娠がわかる前から、猫を清潔に保つことを生活習慣にしておきましょう。猫は完全室内飼いにして、寝床やトイレはいつも清潔に保ち、こまめにクシを使ってむだ毛を取り除き、爪を切るなどグルーミングの習慣をつけておきましょう。常日頃から猫の健康状態をよく観察して、ワクチンや検便などを定期的に行いましょう。ただし、どんなに猫を愛していても、猫は猫と自覚を持って接し、猫とキスをしたり、ハシで食べ物を与えたりなどの過度の愛情交換は避けましょう。猫に関することで何をするときも最初に手を洗い、終わって次のことをする前にまた手を洗いましょう。
いま現在、猫とあなたが依存関係になってしまっているという自覚があれば、猫と距離を保つ時間を作りましょう。
もし、猫がいることを重荷に感じたら
妊娠中に体調が悪くなって猫の面倒をみられなくなったり、精神的に不安定になって猫との生活が重荷に感じるようになったら、一時的に猫を預かってもらうか、別に責任を持って飼ってもらえる人を探してください。猫の存在を重荷に感じる飼い主との生活は、猫にとっても大きなストレスでしょう。妊娠したからという理由だけでは、猫を手放さないでください。まずは、できる限りのことをやってみて、それでも猫を飼い続けられないと判断したときは、必ず猫を次に託せる人を探してください。
それぞれの人に、その人の数だけ様々な立場や場面や環境の違いがあるでしょう。妊娠・出産と一言ではまとめることはできません。すべての人が簡単にクリアできる問題ではないでしょうが、それでも猫を愛する気持ちと周りの人たちに理解してもらおうと強い意志を持ってあたれば、あなたと赤ちゃんと猫との関係を維持することは可能だと思います。
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