KINJU　山岸厚夫の漆器と暮らし道具(2ページ目)

日々使いたい漆

山岸さんは高校を卒業後、家業である漆を継ぎました。 当時より「漆＝高価な芸術品」というイメージが強く、 個展をしても、お客さまにはまず扱い方を心配され、使うことに不安を抱いている方が多かったのだとか。 そこで山岸さんは、手の届かない、眺めているだけの漆より、 じゃんじゃん使えるもの、何よりも自分が作りたい、そして欲しいと思う漆器を作ることにしました。 そのために、丈夫で美しい漆器を作る徹底的な研究を重ね、今も続けています。 だからKINJUの漆器は、陶器とほぼ同様の感覚で、気軽に使える配慮がなされています。 スポンジで普通に洗って乾かし、時間があったら布で拭く程度でよいのだそうです。 （拭いて水気を取る方が一層長持ちするそうです）。 大事なのは日々使うこと。仕舞い込むのではなく、 毎日呼吸をさせて、生き物を扱うような気持ちで向かえばいいとのことでした。


並ぶだけで絵になる風景。なんだかおめでたい色合いです。

決して安いものではないので、漆というと構えてしまいますが、 実際には古来の日本で日常に使われていたもの。 日本の風土や料理に合った器なのです。 そうはいってもやっぱり心配、という方は、山岸さんやスタッフのみなさんに 遠慮なく声を掛けてみてください。 今まで知らなかった漆の特長や、山岸さんが実際に体験した話などを 面白おかしく聞かせてくれます。


ひとつあるだけでも、テーブルが華やいだ雰囲気に。

使いやすい普段の漆器と同時に、ここは山岸さんの情報発信地。 様々な冒険的な試みも行っています。例えば、下の写真にある漆器の プレート。漆用語では「縮み」という状態で、 本来、漆液は薄く均一に塗られていなければならないところを、 でこぼこと不均一に流れ固まってシワができたような状態に なっています。これは本当は失敗と呼ばれるものですが、 だからこそ漆らしさを感じる、と山岸さんはあえて縮みの状態を作りました。 それをドイツの見本市で、何気なくお盆として器の下に敷いたところ、 外国人のバイヤー達に大人気に。 きれいに仕上がっていないところに、返ってアート的な斬新さと、 クラフトが持つ味わいを感じ取ってくれたそうです。 今後はこういった、ちょっと違う視点から見た実験的漆器も 並ぶかもしれません。


「縮み」の作品。漆のまた違った表情を楽しめます。

さて、漆器はやはり料理あってこそ。今回はお店の オープニングで、igrek double*Vの渡辺康啓さんによる 料理が供されました。渡辺さんの料理は、素材そのものの味を最大限に生かし、 絵画のように美しく、食べる人の喜ぶ気持ちを十分に考えた料理。 しっとりと静かな雰囲気の漆器に合うように、 瑞々しく艶があり、自然で鮮やかな色彩の野菜をメインに料理しています。 ずらりと並んだごちそうは、新緑の森の中にいるようで、いつまでも眺めていたくなる風景でした。 何気ないシンプルな料理ですが、素材の味がじんわりと口の中に 広がり、漆の色や手触りが五感に響きあい、その味を一層奥深いものにしているようでした。 企画展などではまた、漆器と料理のコラボレーションが検討されており、 今後も楽しみです。


料理と漆器がお互いの魅力を引き出す。

お店の裏には気持ちのよい小さな庭があり、天気のよい日は のんびり緑を眺めながら、寛いだ時間を過ごせます。 漆の初心者でもベテランでも、気兼ねなく楽しめる和やかな空間です。



KINJU（きんじゅ）
東京都武蔵野市吉祥寺本町3-12-9　潤マンション105
tel 0422-38-8339
http://kinju.com/
11:00～19:00　木曜定休

山岸厚夫さんの漆器は、以下オンラインショプもあり。
http://www.urushi.com/




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